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ようやく落ち着きを取り戻した花純は、学園生活を満喫していた。
先日行われた定期試験で、花純の周りの皆が無事に合格した。
直哉とカイトは来週以降、騎士課の授業を受けることになるそうだ。ゴードンもカイトが説得するのを振りきり、文官課へ進むことになった。
花純を一人にする訳にはいかないと、クリースとオレグは高等課に残ってくれることになった。
とはいっても、休み時間や昼食などの学園内の行動は常に一緒なので、僅かな授業が違うというだけのことだ。
そして嬉しいことに、アルジネットも行動を共にしてくれるようになった。取り巻き令嬢たちを足蹴にしてこちらに話しかけるアルジネットに、花純は大丈夫なのかな? と思ったが問題ないとのことだった。
「我が家より家格の低い家の子たちですもの。カスミが心配なさるほどでもないですわ」
花純だけの時とは違い、男の子たちが混じると途端にご令嬢言葉になるから面白い。でもたまに化けの皮が剥がれる瞬間があって、それも楽しみの一つだ。
直哉たちとは寮も同じなので、そんなに離れたという思いはなかった。
そんな生活リズムが定着しつつあるお昼休み。直哉たちを待っていた花純たちの元に、顔色を青褪めさせて彼らが現れた。
待っていた組の方は何かあったのだと、顔を見合わせた。
「・・・・・・何かあったの?」
すでにメニューを選び座っていた花純の両脇に、トレーを持ったカイトと直哉が座る。もうこの位置は不動のものだった。皆も解かっているので、この席には誰も座ることはない。
花純の言葉に、カイトはチラリと目を向けるが無言だ。応えたくないという感じがひしひしとして、花純は直哉に視線を移した。
花純の視線を受けて、直哉が苦笑する。
「今日の訓練の場に、セブラン殿下がお見えになってね・・・」
セブラン。少し前の国王主催の舞踏会に参加した時に出逢った第三王子だ。
花純はその時のことを思い出し、ぶるりと身体を震わせる。
「・・・・・・俺を見て開口一番に『カスミはいないのか?』などと言いやがった」
この国の王子殿下に対し、この言葉遣いは不敬罪になってしまうのでは?
皆がそう思うが、静かに怒りの炎を燃やすカイトに警告する者はいない。
そう言えば舞踏会の場で騎士団長のレウォンから、自分は騎士団に入団することが決定しているみたいなことを言われたと思い出した。
だからセブランはきて、そう訊ねたのか?
向かいに座るゴードンから、補足の説明が花純にされた。
「皇太子以外の王子は、大体第二王子が政務を補佐する文官。第三王子が騎士団の顧問になるというのが常なんだ。それ以降にも王子がいる場合は、陛下が職務お与えになる」
そういう仕来たりみたいなものがあるのかと、花純はゴードンの言葉に頷く。
「騎士団の顧問など、団長がいるのだからお飾りみたいなものだ」
辛辣なカイトの言葉に、皆が苦笑する。
その時、食堂の入口の方でざわりと人々の声が湧きおこる。
何事かと皆が視線を投げると、そこには先程まで自分たちが話題にしていたセブランが立っていた。
こちらに焦点を当て花純に気付いた途端、キラキラしい笑顔を向けてきた。
「「「「「・・・・・・・・・っ!」」」」」
皆がその笑顔に、びくりと身体を弾ませる。
護衛なのだろうか? 騎士服を着た男性が、十名ほどセブランの背後に従っている。
長閑な昼下がりの学園内の食堂の空気が一変した。
「カイト、僕を置いて行くなんて酷いな~」
修練が終わり教官に礼をした後、セブランとは視線も合わせずにとんずらしたカイトと直哉。
直哉などばつが悪そうな顔になる。
カイトは通常運転の無表情だ。
セブランは花純の背後に立ち、肩に手を置いた。その手に力が入る。
「久しぶり・・・、カスミ」
花純の背中に、ゾゾゾと悪寒が走り上がった。




