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はっきり言ってセブランのリードは、振り回すって言っていいほどの強引なものだった。
それは花純が軽い眩暈を感じるほどだ。
「父上も必死なんだ」
しばらく踊った後、少し歩幅を控えてくれたセブランがいきなりそう言葉を紡いだ。
「舞踏会の数が、この頃尋常じゃない。多過ぎる・・・」
花純はセブランをそっと見上げるが、彼はこちらを見ていないようだ。
もしかしてこれは、愚痴なのだろうか?
彼は王子という立場から、愚痴を零すことも出来ないのかもしれない。
花純とはもう会うこともないだろうし、少しくらいなら構わないと思ったのかもしれない。
それならお付き合いしようじゃないかと、花純はセブランの言葉に耳を傾けた。
「兄上たちは、すぐに婚約者をお決めになった。だが僕は決められない。だって一生暮らしを共にする人だよ? そんな簡単には決められない」
王族は一度結婚すると、離婚は出来ない決まりなのだろうか?
この世界の常識がまだいまいちな花純は、首をこてりと捻る。
だけど、どうやらセブランはもの凄いロマンチストらしい。
結婚相手に『愛』を求めているらしい。
この世界の王族など、時代背景を考えても『愛』を求めるのは愚者のすることだと馬鹿にされそうだ。
だけど、彼はあえてそれを求めているように思える。
「舞踏会を開き、高位のご令嬢と踊らせる。僕がそれらに見向きもしないと、今度は身分問わず見目の麗しい女性を連れてきた。・・・はっきり言って、もう疲れたよ」
ため息を吐きながら、ダンスを続けるセブラン。
花純に視線を合わせないということは、どうやら返事が欲しいという訳でもないようだ。なので、花純も黙って彼の言葉に耳を傾け続けた。
「父上の指示なのか・・・、それとも侍従や臣下たちの仕業なのか解からないからさらに厄介だ」
王子様は生活の心配もなく優雅に暮らしているように見えるけど、苦労も大いにあるらしい。
彼は第三王子だと聞いたけど、それでも放任して貰えない現実があるらしい。
「いい加減諦めて欲しいところだけど、そう告げるのも気が引ける」
父親とは言っても、相手はこの国の王様だ。気軽に声をかけることも出来ないのだろうか?
急にセブランが視線を下げたので、彼を見詰めていた花純と瞳が合う。
「君はどう思う? 君も早く婚約者を決めた方がいいと思う?」
「・・・・・・殿下は今、おいくつなのですか?」
弱みを見せられてしまった為か、先程までの緊張は何処かへ飛んで行ってしまったようだ。
花純は比較的に穏やかな気分で、声を発することが出来た。
「二十一歳だよ」
ヴィートやアルロンと同じ歳ということか。彼らも婚約者などいない様子だし、普通はこれから後に決めるのが一般的なのだろう。
「殿下はもう少し、一人を満喫したい・・・ということですか?」
「いや・・・・・・、ただ結婚したいと思う相手に出会えていないように思う」
やはりセブランはロマンチストだ。この言葉を聞いて、花純は確信した。
「だったら素直にお父上様にそう告げればいいのでは? もしかしたらお父上様や侍従の方たちには、殿下がただ遊びたいだけのように見えるのかもしれませんよ?」
花純の言葉に、セブランは瞳を見開く。
「何か夢とかあってそれに打ち込んでいれば、そうも思われないでしょうけど・・・。殿下には何か将来の夢のようなものはありますか?」
「・・・・・・言われてみれば、ないかもしれない」
茫然と呟くセブランに、花純はふっと微笑みを浮かべる。
「真剣に何かを掴もうとしている人には、誰も苦言を言わないと思います。でもこれほどお相手を勧めようとするのは、皆さんが殿下のことを心配なさっている証拠です。これは喜ばしいことですよ」
国が平和になり、何も心配事がなくなった証拠だろう。
たとえ王族とはいえ、他人の結婚話に首を突っ込もうというのだから、皆余程暇なのだ。
「きっと侍従さんや臣下さんたちは小さな頃の殿下をご存じだろうし、孫の世話をしたいという風に受け止めればいいのではないですか? たまにはおじいちゃんのお相手をするのも、いいかもしれませんよ?」
そこでセブランの足が止まってしまった。
花純とセブランの行動を見ていた貴族たちから、ざわりと声が発生する。
そこで改めて気付いた。ここが舞踏会の会場内で、自分はこの国の王子であるセブランとダンスを踊っていたのだと。
あまりにも真剣な人生相談をされて、この状況を忘れていた。
花純は新たに発生し始めた緊張に、身体が凍りつく。
(何でこんなことを忘れるかな・・・・・・)
花純が焦っていると、目の前のセブランが急に声を上げて笑い出した。
「はははっ! そうか。そういう考え方をすれば、懸念もなくなるかっ」
花純の言葉が、セブランの爆笑する琴線に引っ掛かったらしい。どの台詞に引っ掛かったかは解からないけど。
「ありがとう、カスミ。おじいちゃん臣下たちとは、もう少し遊んであげるとしよう」
何か吹っ切れた様子のセブランに、花純も安堵の息を吐き出した。




