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カイトの疑惑の瞳を避けまくり、花純は何とか週末を迎えた。今日を乗り切れば、明日はお休みだ。というか、花純は授業を受けない気でいる。
朝早くに、アルディナール家の馬車が迎えに来てくれる手はずになっている。
カイトが疑うように確かに最近友達になったとはいえ、難癖をつけられた相手の家に泊まりに行くのはとても不自然なことだろう。
でも何故だか、アルジネットとは仲良くなってしまった花純だった。今では昔からの友達のように互いに接している。
貴族の令嬢らしい言葉遣いだったアルジネットも、花純には気を許し普通の話し方に変化していた。
パンダニ学園内の食堂でいつもの顔ぶれで食事をしていたら、目の前に座るヴィートが花純に小箱を差し出してきた。
「カスミ、贈り物だ」
満面の笑顔でそう告げられて、花純は大いに戸惑った。
プレゼントを贈られる意味が解からない。
可愛らしくリボンがかけられた小さな箱には、ロゴが入っていた。
「あれ? これ、クリースの家の店の箱じゃないか?」
オレグの言葉に、クリースも何食わぬ顔で頷く。
「そうだね」
クリースの実家は、確か宝石店だったはず・・・。しかも王室御用達の、とても高級な・・・。
(え・・・・・・? もしかして、中は宝石? 何で?)
そんな高級品、受け取る訳にはいかない。
「・・・・・・・・・っ」
受け取らない花純に痺れを切らしたのか、腕を伸ばして掌に乗せた。
「・・・あ」
「君に似合うと思って買ったんだ。ぜひつけてくれ」
後に引けない雰囲気になってしまった。
「カスミ、開けてみなよ」
クリースの言葉に一応頷き、中を開く。
中には髪飾りが入っていた。銀細工の羽のようなデザインの中に、水色の宝石がいくつも散りばめられていた。
(た、高そう・・・・・・)
本当に受け取ってしまってもいいのか?
「カスミはあまりにも、ものを持たなさ過ぎる。女生徒はそういうのは敏感だと聞いた。父の後見も受ける身だし、俺もカスミを守ると宣言した。だから、これからも何かと世話を焼くと思うが気にせず受け取ってくれ」
それは花純が虐めに遭うのを避ける為と言いたいのだろうか? もの凄く遠回しな言い方だったけど・・・。
これは受け取らない訳にはいかないようだ。でも高価過ぎる。もの凄く気が引ける。
貴族であるヴィートにはこんなこと何ともないのかもしれないけど、花純は庶民だ。何だか施しを受けているような気になってしまう。
「あら・・・カスミ。いい品をいただいたのね。明日、持ってきなさいな」
ちょうど後ろを通りかかったアルジネットが、花純にそう声をかけた。
花純は偶然と思っているが、もちろんそんなことはない。
ヴィートが何やら花純に贈り物を差し出したのを見て、興味を引かれて様子を見に来たのだ。
自分の取り巻きの中にも、ヴィートを好いている者は多い。背後にいる幾人かの舌打ちが聞こえてきそうで、アルジネットは内心笑んだ。
クリースとオレグ以外の男の子たちも、戦々恐々な顔色だ。
こんな公衆の面前で、あろうことかヴィートは花純に贈り物をした。
それは『これは俺が好きな女だ。誰も手を出すな』と公言しているようなものだ。
もちろん、こんなことで怯むカイトと直哉ではない。
それが解かっているからゴードン一人、顔色を青褪めていた。
実際ヴィートはまだ、そんなに花純を意識していないはずだ。それなのに、何故こんなことをするのか?
ヴィートの背後に座る騎士課の生徒たちに視線を向けると、おかしそうに笑みを浮かべている人物が一人いる。
(フレット様の仕業か・・・。厄介なことをしてくれたものだ)
内心大きなため息を吐き出した。
ゴードンはカイトと直哉はヴィートに張り合うだろうな~と、心の中でぼやいた。
まったく、次から次へと問題が発生する毎日に頭が痛む思いだった。




