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前日とは違う何か吹っ切れたような雰囲気の直哉に、皆が安堵の吐息を吐き出していた。
花純だけ何の事情も聞かされていなかったが、直哉が変なのには気付いていた。でも本人が何も言ってこないのに、深く追求するのもおかしいと様子を見守っていたのだ。
「花純、僕も騎士課に入るから」
「え・・・・・・」
花純たちは丁度夕飯を取りに食堂へ向かうところだったので、直哉が自室へ荷物を置きに行くのを待ってから一緒に向かった。
そして席に着いた途端、こんな突拍子でもない言葉を発したのだ。
「あ、でも・・・お店は?」
「その話をしに家に帰ったんだよ」
直哉は満面の笑顔のままだ。
先の戦では多くの騎士たちが死んでいったとクラスターでも聞いていたので、デュボラなどは大反対したのではないだろうか。
その辺が花純は大いに気になる。出来れば拓哉やデュボラの為にも、そんな考えは改めて欲しい。
「で、でも・・・許してはもらえなかったんじゃ」
「母さんも最後には一番を取る気持ちで挑めって激励された。父は端から反対などしなかったよ」
「・・・・・・・・・」
もしかして、これは自分のせいではないのか?
クラスターで過ごした数日の間で、直哉があの店を大切にしているのは解かっていたし・・・。
もしや自分が騎士団に入らなくてはいけなくなってしまったから。
直哉はとても責任感が強い。両親が大切にしているあの食堂を継ぐのだと、誇り高く言っていた。その心を入れ替えたのは、もしかして自分が関係しているのではないか?
少し自惚れている感はあるけど、優しい直哉なら自分を犠牲にすることもしそうで怖い。
ひょいと現れた父と同郷の落ち人が、あまりにも弱そうに見えたのではないか? それで任された直哉は哀れに思い、そしてその責任感ゆえに最後まで花純のことを守ろうとしている?
「だ、駄目だよ。直哉君。そんな責任感だけで・・・」
「責任感からではないよ。僕は花純を一生守りたいと思っている。カイトみたいには忠誠の誓いをする気は、今の段階ではないけど。でも僕・・・・・・花純のことが好きだから」
「・・・・・・・・・へ?」
こんな寮内の生徒がいる中で、直哉はいったい何を言っているのだ? と男の子たちは度肝を抜かれたような顔で、目の前の直哉を見詰めた。
自分たちの席の周りの生徒たちは、多分直哉の告白が聞こえている。その証拠に周りだけ、もの凄く静かだ。音を立てることさえ憚れる雰囲気に、皆が息を潜める。
腹を空かせた生徒たちが犇めく雑音だらけの室内に、異様な空気が流れ始める。
花純も一瞬何を言われたのか、訳が解からなくなって身体が固まっていた。
「ん? 聞こえなかった? 僕はね、花純のことが、・・・・・・っ!」
むぐと口を向かい側から閉じられた。
直哉は何をするのだ? というような非難のこもった瞳を、ゴードンに向ける。
「ナオヤ、時と場所を考えろ。それにカスミはもう何も聞こえてないと思うぞ」
カトラリーを持ったまま茫然とする花純は無だ。
「女に告白するなら、もっと雰囲気を大切にしろ。あとでぐちぐち言われるから・・・」
「花純はそんなこと言わないよ」
直哉の反抗にゴードンも頷きそうになるが、それでも頑張って諭すような言葉を捜す。でも無理だった。何も思い浮かばない。
「あ~・・・っ! それでもだ。今夜庭にでも誘って告白しろ。でも今の段階ではいい返事は期待出来ないぞ。もう少し待った方がいい」
「・・・・・・・・・解かったよ。もう少し身体鍛えて、頭も鍛えて。それから男も磨いてから告白し直す」
その直哉の台詞に、どれでけ花純のことが好きなのだ? と呆れたが、直哉もそうも言ってられないのだろう。その事情を知っているだけに、ゴードンも少しばかり複雑な心境だ。
直哉にはあまりにも好敵手が多過ぎる。
ゴードンは心の中で秘かに直哉を応援した。
(頑張れ・・・・・・ナオヤ)
心の中なのに、その声はあまりにも弱いものだったが。
表面上、ゴードンは大きく頷いておいた。
その直哉の爆弾発言は瞬く間に第三寮内に広まったのだが、それには花純だけ気付かないという何とも悲しい結果に終わってしまった。




