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恋人捜しは騎士団で  作者: 如月美樹
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 アルディナール家の馬車を降りた花純とアルジネットは、街をぶらぶらと歩き出した。アルジネットは貴族のご令嬢らしく、日傘をさしている。可愛らしいレースのついた小さく丸い傘だ。

「その傘、可愛いね」

「カスミは持っていませんの?」

 花純にとっては、日傘など贅沢品だ。街を歩いている多くの女性の庶民は傘など持たず、買い物袋を持っている。

 アルジネットは高位の貴族だ。自分で荷物など持ったこともないのだろう。

「国から支給されたお金では買えないよ」

 結構しっかりとした観念を持っているのだと、アルジネットは改めて花純を見直す。

「傘もいろいろありますのよ。お店に行ってみます? 見るだけでも楽しいですわよ?」

「うん。行く」

 直哉たちと違い、女の子とのお出かけは久しぶりだ。やはり入る店や立ち止まる場所などが全然違う。はっきり言って、花純はもの凄く楽しかった。

 雑貨屋、洋服屋、宝石店。化粧品専門店や下着など。いろいろ見て回った。

「ちょっと・・・・・・、カスミ。少し休みません?」

 可愛らしいお茶屋さんの前で、アルジネットは花純の袖を引っ張る。

「うん、いいよ」

 お茶を飲むくらいなら許されるだろう。

 ケニーはお金をくれる時に何に使ってもいいと言ってくれていたが、花純自身が気が引けるのだ。

 贅沢は敵だ。

 少しでもお金を貯めておいた方がいい。

 使いきれなかったお金を返す必要はなと言われた時は、ちょっと驚いてしまったけど・・・。

 男の子たちと街に出る時は、基本花純が支払うことはない。出させてくれないのだ。

 まあ、皆お金持ちの子供だし、いいかな~? と思うけど、こちらも毎回だと気が引ける。

 お茶と一緒にスイーツも頼んで、二人で向き合う。

 店内の壁がピンクで可愛らしい。

 丸いテーブルにも、小花柄のクロスがかかっている。

 若い女の子向けのカフェという感じだ。

「カスミは元気ですわね。私・・・こんなに歩いたのは久しぶりですわ」

「ごめんね、女の子とお出かけって久しぶりだからはしゃぎ過ぎたね」

 楽しかったのだと言われれば、アルジネットも悪い気はしない。

「そうですわね。私も楽しかったですわ」

 遠慮の欠片もない花純に、アルジネットも次第に心を開いていった。

 自分の周りには女の子は多く集まるけど、皆その裏で何を考えているのか解からない者がほとんどだ。その点、花純に裏表はない。本音を言うし、悪いことは悪いと窘めてくれる。

「貴女には、本当に参りましたわ・・・・・・」

 一口お茶を飲んで、ようやく一息つけた。

「そう言えば、カスミ。貴女、カイト様たちと、どうやって親しくなりましたの?」

「ん~・・・。直哉君のお父さんが落ち人だって知ってる?」

「知ってますわよ。お名前は確か・・・タクヤ様だったかしら? クリスターで道楽で食堂をなさっているけど、調味料を下ろす会社を起こされていますわよね?」

 何? そんなこともしていたのかと、花純は瞳を瞬かせた。

「・・・・・・もしかして、ご存じなかったの?」

 訝しげなアルジネットの瞳に、さすがの花純も居た堪れなくなる。

「し、知らなかった。ただの食堂のおじさんと思ってた」

 はあ~と盛大にため息をつかれる。

「ただの食堂のおじ様程度の経済力で、なかなか高等課までは通えませんわよ」

 そんなに学園の授業料はお高いのか? 花純は自分で払っていないので、全然金額が解からない。

 それで? と先を促すように、アルジネットは視線だけで花純に合図を送った。

「直哉君のお父さんと私は同じ国の出身なんだよ。言葉や文化が多少は解かる直哉君に、この国の常識を教える先生になって欲しいってお願いされたんだって」

「そこからのお付き合いなのですね・・・」

 アルジネットは納得したように頷く。

「直哉君の友達だった皆とも自然に行動を共にするようになって、お友達になったの」

「・・・・・・でもカイト様と、いつも手を繋いでいるじゃない。この頃はナオヤ様とも繋いで、両手に花状態ですわよね?」

 ちょっと嫉妬も混じり、嫌味を言ってしまった。それに気付いてアルジネットは、ハッと花純の顔色を窺った。

 だけど、当の本人は何とも思っていないのか会話を続けている。

「そうなのよね~。最初は街に出かけた時かな? カイト君は『迷子になってはいけない』って、よく解からない理由で拘束されて~・・・」

「こ、拘束・・・・・・」

 花純の表現がまた微妙にずれているような気がするが、アルジネットはあえてそこは突っ込まなかった。

「で、でも学園での移動の間も繋いでますわよね?」

「う~ん・・・、そうなんだよね。多分カイト君には、私のこと妹のように思ってくれているんじゃないかな? いつも小さい小さいって皆でからかうし」

「・・・・・・・・・」

 駄目だ、この子は。そう言う目で、アルジネットは花純を見た。

 カイトの気持ちも直哉の気持にも、花純は全然気付いてない。

 これでは反対に彼らが気の毒に思える。

 こんな鈍感女に嫉妬心丸出しだったのかと、激しく後悔した。

 あまりにもカイトが不憫で、何とか取り成すように声を出す。

「でも、カイト様は少しカスミに構い過ぎではない?」

 アルジネットの言葉に、花純は少しだけ悩んで口を開いた。

「ん~・・・、あれかな? カイト君に忠誠の誓い? それをされちゃって・・・」

 花純の言葉を聞いて、アルジネットははしたなくも椅子の音を激しく立てて立ち上がった。

「ちゅ、忠誠の誓いですって~っ?」

 アルジネットの驚愕の声は、店中に響き渡った。

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