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休みの前日。この日の授業は午前中で終わりだ。とはいっても、授業を受けるかどうかは生徒次第なので、この日も休みにしている者は結構いる。
直哉も実家に用事があると、朝早くからクラスターへと赴いていた。
朝早くに花純の部屋に訪れ、しっかりとカイトの側にいるようにと何度も念を押された。
そんなに自分は頼りなく見えるのか? と少しだけ落ち込んだ花純だった。
その日も通常通り授業を受けたが、数日間移動時には両手を掴まれていたのでちょっと左手が寂しい。
花純が手をグーパーして見ていたら、ゴードンがからかうように声を発した。
「俺が繋いでやろうか?」
「・・・い、いいよ」
否定すると、カイト以外の男の子たちが声をあげて笑う。
「いつも手を握られているから、寂しんじゃない?」
「心配しなくても明日にはナオヤも帰ってくるさ」
解かってはいるのだけど・・・。どうやら自分は大分と直哉に依存していたようだ。
いつも一緒にいたから、側にいるのが当たり前になっている。
「明日は朝から街に出るんだろう?」
ゴードンが話を切り替えてくれて、花純はほっと息を吐いた。
「うん」
「楽しみだな」
笑顔でその言葉に頷く。
隣では眉間に深い皺を刻んでいるカイトがいたが、花純はそれには気付いていなかった。
翌日はよく晴れていた。
アルジネットとは学園の門の前で待ち合わせた。
事務局でもらった外出届を、カイトがプレゼントしてくれたお花のついた小さな鞄を肩から掛ける。
服もクラスターに住む直哉の母デュボラからいただいた、可愛いもの。今回ちょっとおめかししたかったので初めて下ろした。
鏡を見て、髪もチェックしてから部屋を出た。
初めての女の子との外出に、思っていたより花純の心は弾んでいる。
門番のおじさんに外出許可証を見せて、外へと飛び出した。
「カスミッ!」
門の前には、一台の馬車が停まっていた。その前でアルジネットが立っているのが見える。
「おはよう、アルちゃん」
「おはよう・・・・・・」
花純の『アルちゃん』呼びには慣れないアルジネットだった。親しい友や家族からは『アジー』の愛称で呼ばれていたからだ。まさかそんなところで名前を止められるとは思わなかった。
「今日の護衛をする者たちよ。顔を覚えておいて」
「え? 護衛?」
アルジネットの背後に立つ、四人の大柄な男性に花純は瞳を瞬かせる。
「私は伯爵家の令嬢よ。学園を出る時には、いつも護衛をつけているの。彼らは少し離れたところにいるから、気にしなくていいわ」
そうはいっても、護衛をしてくれる人たちを無視する訳にもいかない。
「・・・よろしくお願いします」
そう言って花純は彼らに頭を下げた。
「「「「はい」」」」
アルジネットは彼らに頭を下げる花純を信じられないという顔で見ていたが、護衛たちは微笑んで返事をしてくれた。
今までのアルジネットの友人たちはさもこれが当たり前のことと、自分たちを歯牙にもかけなかった。だが今回のご友人は、ちょっと今までのお方たちとは毛色が違うようだと思った。
花純たちは馬車に乗り込み、街中へと走らせた。
その後を追うように、数名の男の子たちが門外へと飛び出す。
「・・・っ! おい、どうするっ?」
「まさか馬車でお出かけとは思わなかったね・・・、失敗したな」
「面白い~、走って追いかけようぜ」
ゴードン、クリース、オレグの順に言葉を発する。
その後、無言でカイトが手を上げると目の前に馬車が停まった。
「・・・想定内だ」
皆あんぐり口を開いて、間抜けな顔で馬車を見ている。
「坊ちゃん、お待たせいたしました」
大して待ってもいないのだが、御者がそう言葉を発した。
少し考えれば解かることだ。貴族のご令嬢が街中まで徒歩で向かうはずはない。
四人はカイトが用意した馬車に飛び乗り、アルディナール家の馬車を追いかけた。




