表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人捜しは騎士団で  作者: 如月美樹
24/65

24

 花純と直哉家族で和やかに話していると、団体客が店の中へと入ってきた。

「いらっしゃい」

 直哉の母デュボラがメニューとお茶を持って案内に向かう。

 それにしても十人はいるだろうか? デュボラ一人では大変そうだ。

「直哉君、手伝った方がよくない?」

「あれは向かいの騎士駐屯所の人たちだよ。仕事が交代制で、ちょうどこの時間に終わるからここへ寄って家へ帰るんだ。騎士は独身が多いからね。毎日のことだから母さんも慣れてるし大丈夫だよ」

 そうは言うが、ちょっと大変そうだ。

 高校生の時にファミリーレストランでアルバイトをしていたので、身体がうずうずしてくる。

 彼らは三つのテーブルに別れて座るようだ。

 デュボラは器用にテーブルの隙間をくるくると回り、オーダーを取って戻ってきた。お金はオーダーと同時に受け取っているように見えた。エプロンのポケットには重そうな硬貨が入っている証拠に、少しだけ膨らんでいる。

「カスミちゃん、気にせずに食べなさい」

 急に若い男の人たちが増えたことを気にしたと思ったのか、デュボラが気を遣い声をかけてきた。

「そうだよ、花純さん。毎日のことだから明日も来るよ。気にしてたらご飯食べられないからね」

「う、うん・・・・・・」

 食べ終える頃に、その騎士たちの中から一人こちらに向かって歩み寄ってきた。

「デュボラさん、お茶のおかわり下さい」

「ああ、はいはい」

 騎士がここへ来るのを見越してなのか、大きなやかんをカウンターに置く。持って行こうとして、その騎士は直哉に焦点を合わせた。

「おっ? ナオヤ、帰って来てたのか? ・・・・・・もしかして、お前。もう学園を卒業したんじゃねぇだろうな?」

 最後の方は焦ったような声だった。

「コイルさん。さすがの僕だって高等課に入ったばかりで、すぐ卒業って訳にはいきませんよ」

「そ、そうだよな~。何か俺お前に追い越されそうで、・・・怖いよ」

 直哉が優秀というのは、この街でも有名なことみたいだ。

 安堵したような表情で自分の席に戻ろうとした騎士が、花純を見て驚愕したように瞳を見開いた。

「・・・・・・・・・デュボラさん、いつの間にもう一人子供作ったの?」

「ええ? 何を言ってるの」

 コイルという騎士は、花純をまだじっと見詰めている。

「だ、だってこの子・・・・・・」

 花純を行儀悪く指差す。

 その指を直哉が叩き落していた。

「はっ! もしかしてタクヤさんの隠し子っ?」

 ぱこんとお玉で騎士の頭を殴る拓哉に、花純は仰け反る。

「馬鹿か、お前はっ! 俺はデュボラ一筋だよっ」

「まあ・・・・・・、タクヤったら」

 何だこの熱々はと、胡乱な瞳で両親を見る直哉。

「で、でも。凄くこの子、タクヤさんに雰囲気似てるって言うか・・・」

「ああ、同じ日本人だからな」

 拓哉の言葉に、コイルはまじまじと花純を再度見詰めた。

「・・・・・・・・・ちっちゃい」

(小さくて悪かったな。私だってこの世界の人たちみたいに背が高くて、ボンキュボンでいたかったよっ!)

 と心の中で叫んだことは、内緒にしておこう。

 コイルは急に笑顔を浮かべて、花純の背凭れの椅子とカウンターに両手をついてその場に屈んだ。

「お名前は? いくつかな?」

「・・・・・・・・・」

 どれだけ子供だと思われているのか定かではないが、ちょっと引いてしまう。

「ははは、花純ちゃんはもうこの世界でいうところの成人は過ぎているよ」

「・・・・・・え?」

 拓哉の言葉に、場の空気が変わった。

 優しいお兄ちゃん風だったコイルが、男の目に変わる。

「カスミちゃんって言うんだ? いくつ?」

 花純は急に変わった雰囲気に、さらに仰け反る。

「コイルさん。花純さんが怖がってるから、止めような」

「え・・・? 怖がっている?」

 何で? というように、コイルが花純の顔を見る。

「でかい図体で囲われたら、普通の女の子は怖がるんじゃないかな」

「ああ・・・、ごめん」

 コイルは花純に謝って立ち上がる。

「隊長さんが、お茶のおかわり待ってるんじゃないの? 早く行かないと」

「ああ・・・、うん。でも・・・」

 未練がありそうなコイルだったが、やかんを持って席に戻って行った。

「花純さん、ご飯済んだのなら部屋に戻ろうか? 危ないのもいるし」

「え・・・? でも片付けとか」

「いいから、いいから」

 直哉は立ち上がって花純の腕を引いた。

 暖簾を潜ろうとしたところで、やかんを持ったままのコイルが急いで駆け戻ってくる。

「ナオヤ、お前っ!」

 もの凄い勢いで駆けてくるので、思わず立ち止った花純の目の前にコイルが跪く。

「お願いっ! 年齢教えてっ」

「・・・・・・じゅ、十八歳です」

 よっしゃ~っ! と言いながら、コイルが立ち上がる。

 そしてとんでもない言葉を告げた。

「俺と結婚して下さいっ!」

「・・・・・・・・・っ!」

「はあっ? 何を言ってんのっ?」

 直哉の声がやけに大きく店内に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ