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恋人捜しは騎士団で  作者: 如月美樹
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 部屋で荷物を解き終えた頃、直哉の母が夕食に呼びに来た。

「カスミちゃん、ご飯よ」

「はい、今行きます」

 花純が返事した後、下へと降りる足音が聞こえてくる。

 花純が部屋の外に出ると、直哉が待っていてくれた。

「お待たせ」

 花純にとって、直哉が部屋の外で待っている光景はいつものこと。慣れてしまっていることに、ちょっと甘え過ぎているなと思う。でもこの世界での知り合いなどそういないので、依存しているとは思うけどどうしようもない。

「行こうか」

「うん」

 二人で下へ降り、先程見た暖簾を潜る。暖簾のすぐそこには腰くらいの高さの動かせる仕切りがあって、直哉はそこから店の中へと入った。

 仕切りはカウンター席と繋がっている。テーブル席もいくつかあって結構お客さんが入っていた。

「花純ちゃん、いらっしゃい。さっきはごめんね。何か取り乱しちゃって・・・」

 直哉の父親拓哉がカウンター越しにそう告げてきた。

「いいえ・・・」

 確かに初対面で泣かれてしまったのには驚いてしまったけど、事情が解かっているだけに何も言えない。

「こっちの世界の女性は結構気が強くて、自分をはっきり表現する人が多いんだ。それに背も高いし、骨太だしね。だから花純ちゃんのような可愛い日本人を見るとほっとする」

 直哉が椅子を引いてくれたので、そのままカウンター席に座った。

 もちろん直哉も、その隣に腰掛ける。

 目の前にはお箸。それに湯呑み。

 もしかして中身は緑茶なのか?

 花純はドキドキしながら、湯呑みにくちづける。

「あ~・・・、お茶」

 しっかりと緑茶だった。もっと緑茶まがいのものかと思っていたのだが。

「紅茶があるから緑茶は作れると思ってね。試行錯誤で作ったんだよ」

「え・・・、お父さんが作ったんですか?」

 拓哉は花純の言葉にきょとんとしてる。

 何か悪いことでも言ったかな? ちょっと不安になる。

「・・・・・・お、お父さん」

 拓哉が花純の言葉を鸚鵡返しのように繰り返す。

 直哉のお父さんという意味で言ったのだが、名前で呼んだ方がよかったのだろうか?

「あ・・・・・・、お名前で呼んだ方がよかったですか?」

「ううん、お父さんでいい。ぜひお父さんと呼んで下さい」

 拓哉の言葉に、直哉は微妙な顔を向けている。

「女の子はやっぱりいいな~。可愛いな~」

「はいはい。ご飯作りなさい」

 間に入るように母親が入ってくる。仲のいい夫婦のようだ。

 魚の焼くいい匂い。もしやこれは・・・っ!

「はい、どうぞ」

 キラキラ艶々と輝く脂の乗った・・・。

「ほっけ? ・・・・・・ほっけ?」

 ほっけの開き。干しものがきた。

 コトコトと次々に置かれる皿に、花純はとうとう涙を流した。

「ご・・・ご飯。お味噌汁・・・、おしんこ」

 これぞ、ザ・日本のご飯というメニューに花純は感動しまくりだ。

「味は保証するよ。調味料も僕が必死になって作ったんだからね。苦節うん年って感じで、挫けそうになった時もあったけど」

 何とっ! すべて手作りだというのか? す、凄い・・・。

「い、いただきます」

 お箸を持って両手を合わせる。

「はい、どうぞ」

 まずはご飯だ。口に入れてその甘さともっちり感に、また涙を浮かべる。

 お味噌汁の中身はお豆腐にわかめ。合わせ味噌だ。お出汁もしっかり効いている。

 きゅうりと茄子の浅漬けも、絶妙な塩加減で美味しい。

 ほっけは脂が乗り、ふっくらと焼きあげられている。

 久しぶりに食べる日本食に感動し、思わず立ち上がって拓哉の手を掴んだ。

「ありがとうございますっ! お父さんっ」

 拓哉がいなかったら、日本食なんてこの世界では食べられなかっただろう。日本食を開拓してくれた拓哉には、大いに感謝しなくてはならない。

 これは作り方を教えて貰わなければ。お味噌もお醤油も、作り方を一から教えてくれるかな?

 すぐに座って、また食べ始めた。

「美味しい・・・、美味しいよ~」

「おかわりもあるから、ゆっくり食べてね」

 さり気なく、お茶のおかわりも注いでくれる優しい拓哉。

「花純ちゃん、学校卒業したらここで暮さない? 直哉も戻ってくるって言うし」

 ご飯を口の中に入れたばかりの花純は、顔を上げて拓哉を見た。

「うちの子に、ならない?」

 ぶほっ! と隣で直哉がお味噌汁を吹き出した。

「あらあら・・・・・・」

 母親が慌てることもなく、お味噌汁塗れのカウンターを拭いていく。

「母さんとも話したんだけど、いきなり街で一人暮らしは危ないだろうって。女の子だし」

「落ち着くまでは、うちにいて貰おうって話してたのよ。どうかな? カスミちゃん」

 二人に言われて、ちょっと考え込む。確かに、いきなり一人暮らしはもの凄く不安だ。ここには同じ日本人の拓哉もいるし、解からないことをすぐに聞ける環境はとても有り難い。

「な、何だ・・・。そう言う意味か」

 動揺したような直哉の声を聞きながら、花純は二人を見上げた。

「もう少し学園には通おうと思っているんです。その後はまだ今の段階では考えることが出来ない・・・かなって」

「いいのよ、ゆっくり決めて」

「そうだよ。ここを自分の家みたいに思ってくれていいからってことなんだから」

 とても有り難いお話だ。

 この世界での家族が出来た気分になれた。

「ちょっと恥ずかしい勘違いした子もいたけどね・・・」

「・・・・・・・・・っ!」

 母親は頬を真っ赤に染めた直哉を見て、唇を歪めて笑いを堪えた。

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