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一本の路地を、直哉としばらく歩く。路地はいろんな角度から道が出ているので、花純がもし一人で歩くとなるときっと迷子になるだろう。
そう思いながら、花純は小走りになって必死に直哉について行った。
花純の小走りに気付いて、直哉が振り向く。
「あ、ごめん。早かったよね?」
「ううん、大丈夫」
直哉は充分ゆっくり歩いてくれているのだが、何しろ身長差があり過ぎる。というか、足の長さが違い過ぎると言えばいいのか。
この間の外出時にはカイトが手を繋いでくれていたので、もっとゆったりと出来たのだが今回は勝手が違う。
「もう少しだからね」
気遣う声を出す直哉に、花純は笑顔で頷いた。
一つの扉の前で立ち止まる。勝手知ったるという感じで、何の窺いもなく直哉は開けた。
「ただいま~」
「ああ、お帰り」
扉を潜ると廊下があって、その奥から男性の声が返ってきた。
「花純さん、おいでよ」
「はい・・・、お邪魔します」
廊下の先に布製の暖簾がかけられていて、ちょっとそこに日本らしさを感じた。
その暖簾を、掻き上げるように手で押さえた男性が目に飛び込んでくる。
黒髪に黒い瞳。ほりの少ない顔立ち。
間違いない。日本人だ。
直哉の父親拓哉は少しだけ驚いたように目を見開いて、花純をじっと見詰めた。
「ああ~・・・、やっぱり日本の女の子は小さくて可愛らしい」
何だか泣きそうな表情でそう言われると、何も言えなくなってしまう。
「入って」
花純は遠慮がちに玄関を潜った。
「お邪魔します」
「・・・・・・その言い方も懐かしいよ」
日本独特の挨拶に感じたのかもしれない。
「父さん、止めてよ」
「お父さんは、今ちょっと日本を思い出して感慨深くなってるのよ。許してやってよ」
拓哉の肩越しに女性が顔を出した。
「いらっしゃい、貴女がカスミちゃんね。自分の家と思って寛いでね」
「はい、お世話になります」
花純がペコリと頭を下げると、またも拓哉がぶわりと涙を溜める。
「頭、頭下げた・・・・・・」
「はいはい、お客さんから注文が来たから頑張って作ろうね」
「う、うん・・・」
拓哉を厨房に引っ張って行き、母親だけまたすぐに顔を出した。
「ナオヤ、三階の向かいの部屋。掃除しておいたからカスミちゃんに」
「うん、解かった。花純さん、こっち来て」
「あ、うん」
手を振る母親に、ぺこりと頭を下げてから階段を上った。
「ごめん、あんな父さんで・・・・・・」
少し動揺したけど、拓哉の気持ちも解かるから花純は笑顔で首を横に振った。
花純だってもし久しぶりに日本人を見たら、もっと感情的になるかもしれない。
「ご飯は食堂で食べようか。いつも帰ってきたら下で食べるんだ」
いつもがそうなら、それで花純は構わない。
「日本食が食べられるよ。期待してて」
久しぶりの日本食。凄く嬉しい。直哉が言うまでもなく、期待も大いに膨らむ。
「お米、・・・食べられる?」
「ご飯? 食べられるよ。米もあるんだよ、この世界にも。でも食べる習慣はないんだ。家畜に食べさせるからね」
何とっ! もったいない。
花純は瞳を瞬かせた。
「今、もったいないとか思ったでしょう? 父さんも母さんに話を聞いた時、もったいないっ! って叫んだんだって」
可笑しそうに直哉が言う。
「この部屋が花純さんが使う部屋ね。向かいは僕の部屋」
直哉が扉を開くと、すでに蝋燭に火がつけられていた。
「うわっ! 何じゃこの部屋っ」
ピンクの可愛らしい日用品で溢れ返る部屋に、花純まで部屋に入るのに躊躇した。
「す、凄い・・・・・・可愛い」
可愛いという言葉で誤魔化してみる。
ちょっと度が過ぎる女の子仕様の部屋に、直哉はドン引きしている。
「か、母さんの仕業だな・・・・・・」
直哉の呆れ返ったような声に、花純も何故だか可笑しくなってきた。
きっと気を遣って必死に揃えてくれたものなのだろう。
「そう言えば、母さん・・・女の子欲しいって言ってた」
思い出したように直哉が茫然と呟く。
「嫌じゃない? 花純さん」
「大丈夫、可愛いよ」
そうかな~? というような顔で見詰めてくる直哉に、花純は笑みを浮かべた。
そこに母親が登場。
階段を上ってくる足音に、直哉が鞄を置いて下を覗き込む。
「母さんっ! やり過ぎだよっ」
「え~? 可愛くない?」
「エグいよ・・・・・・」
男の子の直哉には耐えられないようだ。
「カスミちゃんは気に入った?」
「はい」
母親の肩越しに直哉が『嘘だろ~?』という顔をしたので、花純はくすくすと笑った。
「あ~・・・、女の子はいいわね~。んん~・・・、可愛い」
「男で・・・・・・悪かったな」
ああ、直哉が拗ねた。




