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恋人捜しは騎士団で  作者: 如月美樹
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 花純と直哉は第三会議室へと入り、向かいあうように座った。

「花純さん。鞄の中、何が入っているか見た方がいいよ」

 花純は頷いて鞄を広げた。鞄はノートが入るくらいの四角いもの。厚さは十五センチほどあった。

 表のようなものに、筆記具。糸で綴った白紙の紙の束。これはノート代わりのものだと思う。

 あとはケニーが言っていた財布だろうか? 巾着袋が入っていた。

 中を覗くとコインが数枚入っている。

「そうだな。その中身から説明しようか」

 直哉は花純が覗いていた巾着袋を取り、中身をテーブルの上に広げた。

 金貨と銀貨、それに銅貨が入っていた。

「父さんが言ってた。この世界のお金も十進法で助かったって」

 直哉と日本人だという父は仲が良いようだ。いろんな会話をしている様子が窺える。

「確か、金貨が一万円? 銀貨が千円だったか? それくらいの価値だって言ってた。こちらの世界の方が物価は遥かに安いって」

 じゃあ、銅貨はいくらなのだろうか?

 花純が銅貨を持つと、直哉が気付いて再び口を開いた。

「銅貨は百円? あれ? 五百円だったかな? そう言ってたような気がする」

 花純が持っていたのとは違う銅貨を拾い上げて、直哉はにこりと笑んだ。

「これでパンが五つ買えるよ」

 基準が解からない。物価が遥かに安いってことは、銅貨は百円ほどの価値と見ていいのだろうか?

「今度の休みに街へ出てみようか? 実際買い物した方が解かると思うし」

「うん」

 欲しいものがあったのだ。この世界の化粧品はどんなものだろうか? 化粧水が欲しい。

 石鹸はお風呂場についていた。もの凄いいい匂いで、髪まで洗える優れ物。リンスなしでも指通りもいい。

 質のいい石鹸があるのだから、化粧品も期待出来そうだ。

 女の子用品はケニーさんが気を使ってくれたのか、結構部屋のあちこちに備え付けられてあった。

 ブラシや鏡まであった。タオル代わりの吸収がいい布も数枚あるし、結構快適である。

「日本では普通にあった電気やガスなんかはないからね。コンロがないって父さんは嘆いたらしいよ。火の点け方も知らなかったって母が呆れてた」

「・・・・・・・・・」

 コンロがないなら花純も火を点けるのは難しいかもしれない。直哉のお父さんの苦労が目に見えるようだ。

「この国には温泉があるんだよ。日本もあるんでしょう?」

「・・・温泉があるの?」

 それは嬉しい。

「地熱を利用して、この学園の蛇口からはお湯が出るんだ。昨日お風呂入ったから解かるよね?」

 花純は素直に頷いた。お湯が出ることに感動したほどだ。この世界にお風呂に浸かる文化があって、本当によかったと思える。

「あと街に出れば解かるだろうけど、車や電車はない。移動はすべて馬だよ。直接馬に乗るか馬車だね。一般人は乗り合いの馬車があるから、それを利用することが多い」

 バスみたいに路線があるのかもしれないなと、花純は思った。

「田舎の方に行くと馬より小さい驢馬や、牛に荷馬車を引かせるところもあるよ」

 直哉の話を聞くだけで長閑な田園が見えるようだ。

「この国は王国だよ。お城もここにくる時に見えたでしょう?」

「うん、何かシンデレラ城みたいだった」

「ああ、ディズニーランドだっけ?」

「そうそうっ!」

 直哉は見たことがないだろうけど、話が通じることがとても嬉しかった。直哉のお父さんとも会って話がしたいと思った。

「何か僕、思いつくまま話してるけど・・・解かる?」

 不安そうに直哉は花純の顔を覗き込んだ。

「うん、よく解かるよ。直哉君の話は面白いし、日本の話も聞けるから嬉しい」

 にっこりと笑って花純がそう告げると、直哉は安心したような顔になる。

「あ、あと魔女やドラゴンとかいないからね」

「・・・・・・魔法ないの?」

 ちょっと、いやかなり残念だ。期待してた。もしかしたらって・・・。

「こちらの世界の成人は十六歳。学校に行くのは義務じゃないから、ほとんどの人は初等課を出るくらいの教養しかない。学園に通うと三カ月に一回学力試験があって、優秀者は上の学年に上がることも出来るんだ。六歳から学園には入学出来るよ。僕は十歳から通ってる。初等課は普通に通って六年。高等課も六年。その後、希望する人は文官課、騎士課、医師課、特級課に入る」

 ということは直哉は非常に優秀なのではないか? 十歳から通い始めたのに、もう高等課で学んでいる。

「直哉君、頭いいんだね」

 感心したように花純が呟くと、直哉は照れたように頭を掻いた。

「そ、そうでもないよ」

 謙遜する彼の性格は好ましい。

 そうして花純は直哉にこの世界の話を世間話のように数日間聞かされた。

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