最終部 前触れのない波乱①
12月最後の登校日。
年内最後の登校日だからか、教室のピリピリした雰囲気は若干緩やかになっていた。
「まあ、最初からちょっと変だったし…そんなことだろうと思ったわ」
そんな雰囲気の中、教室の一角にいる女子集団のリーダー格である佳代がひそひそ話しているのを、泰樹は聞き逃さなかった。
(いやいや最初信じてたやん…)
泰樹は大きくため息をつくと、ついこの前まで起こっていた論争を思い返した。
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12月のある日。もうすぐクリスマス。
波乱は、何の前触れもなく突然起こることもある。
「おまえ、なんか変な噂立ってるぞ」
昼休み。一緒にお昼を食べていた戸田がひそひそと話をしてきた。
「え、付き合ってるのばれた?」
泰樹も箸でつかんでいたレモンバジル風味の唐揚げ(冷食)を弁当箱の蓋の上に置くと、戸田のひそひそ話にひそひそと返した。
あの一件の後、泰樹は由佳と付き合っている。が、そのことは最低限の人にしか話していなかった。ただでさえ由佳は依然男女両方から人気があるのに、その状況で付き合っているなんて言う勇気など到底なかった。唯一知っているとすると、戸田と亜里沙くらいだろうか。
「んーそっち方向の話ではあるんだが…」
「え、どういうこと?」
戸田が意味を持たせた言い方をしてくる。その言い方をされると気になってしまう…。
「えーとな、落ち着いて聞いてほしい」
戸田が泰樹から一旦離れて一つ咳をすると、またひそひそ話の体勢に戻った。
「お前が由佳のストーカーをしているって話と、由佳が大久保のことを好きだって話」
「はぁ!?」
泰樹はつい大声を出して立ち上がってしまった。周囲の視線が一斉に泰樹を向く。戸田は泰樹に「とりあえず落ち着けって…」となだめると、泰樹を席に座らせた。
「こんなの、誰も信じないと思うんだけどな…ストーカーの話はいいとして、大久保って夏、由佳に振られてただろ?由佳なんてお前と付き合ってるんだし…何でこんな話出てるのか俺にはわからん」
「いやストーカー話もよくねぇわ…」
泰樹は頭を抱えた。
「情報源は?」
「亜里沙が文系クラスの友達から情報をキャッチしたらしい」
「なんでそんな話に…」
俺、何かしたか…?やはり、俺が関わると波乱が起きてしまうのだろうか…。
ん?あれ?そういえば…
「そういえば、前まで由佳のことちゃん付けだったのに、いつの間に呼び捨てになったんだ?」
戸田に嫉妬しているわけではないが、さっきの話で若干引っかかっている部分でもあった。
「それは、秘密」
「言えないのか?」
「企業秘密」
「なんだよ企業って…お前は会社か」
泰樹はため息をついた。まあ、この調子だとこれ以上追及しても戸田は口を割らないだろう。
「あ、あと一つ」
泰樹は普通の声量で戸田に話を振る。
「前から思ってたけど、亜里沙といつからそんなに仲良くなったんだ?」
「えーとね、夏くらいかな?」
「何かあったの?」
「んーまあいろいろ」
「それくらい話せよ…」
「んー、まあ、いろいろあって付き合ってるよね」
「え!?」
泰樹は再び大声を出してしまった。再度視線が泰樹のもとに集まる。泰樹は「ごめんなさい」と周囲に頭を下げまくった。
「え、知らなかったの?亜里沙から聞いてるかと思ってた」
「い、いつから…」
「お前らと同じくらいだな。ほら、亜里沙のおじさんが亡くなったあたり」
泰樹は驚きのあまりこれ以上言葉が出なくなってしまった。
映画を一緒に見に行った後の急用というのはおじさんが亡くなったことであると知ったのは、家に帰ってからだった。亜里沙はおじさんのことをとても慕っていたのを知っていたし、それを聞いて泰樹は胸が痛くなっていた。
「まあ、それよりもお前の噂だ」
戸田が何事もなかったかのように話を戻す。
「どうするよ」
「どうするって言われても…」
「まあ、そうよな。何もできんよな」
戸田は話をどんどん進めていくが、泰樹は一つずつの事柄を飲み込むのに時間がかかっていた。
「とりあえず、彼女に聞いてみたら?」




