表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/63

第二部 すぐ目の前に③


今、何て?


私のこと、好きだって?


いやいや、そんなわけない。空耳に決まってる。



…それ、本当?



これは、現実なの?



「由佳」


泰樹が私の目から視線を逸らさない。私、ドキドキしてる…。


「俺、由佳のことが好きだ」


ああ、夢じゃない。現実だ。


「…だから、早智子とは復縁しない」


そうなんだ。そう、なんだ…。

由佳は飛び出そうな気持ちを一生懸命押さえつける。


「…それだけ。んじゃまた」


我に返ったのか、顔を真っ赤にした泰樹は、『んじゃまた』と言ったはいいものの帰り道が全く同じだということに気づき、どうしようかと焦っていた。かわいいなぁ。

最終的に泰樹はどうしようもなくなり、走りだそうとする。


「ちょっと待って!」


由佳は泰樹の腕を掴んだ。今度は、私がつかむ番。


「私も言いたいことあるんだけど、その前にやらなくちゃいけないことがある」


そう伝えると、由佳は携帯電話を取り出した。


人通りが少ない夜の住宅街。

先ほどまではタダでさえ寒い秋の夜風を一層冷たく感じていたが、今は携帯を操作する指の先まで温かくなっていた。


-----------------------------------------------------------------------



「分かってたけどよお…」


戸田は自室の机に突っ伏した。


由佳から送られてきた4文字のメッセージ。シンプルだが、とても重みのあるもの。


「ああああ…」


戸田はベッドに携帯を放り投げた。その画面には、『ごめんね』の文字が表示されている。


分かってはいたけどさ、分かってはいたけど…実際、こう来るとかなり精神的にくるものがある。てか、早くないか?早くても明日に来るもんだと思っていたし…こんなもんなのかなぁ。


沈む気持ちを引きずりながら、放り投げた携帯を再び手に取る。由佳とのメッセージ画面を閉じ、亜里沙とのメッセージ画面を開く。


『ダメだった』


そう亜里沙に送ると、携帯の画面を閉じ、再び布団に投げようとした。が…


ブーッ、ブーッ。


右手に握っていた携帯電話が急に震えだした。電話だ。画面を見ると、『亜里沙』という文字。


「もしもし?」


『もしもし…』


電話に出ると、鼻声の亜里沙の声が聞こえてきた。時折鼻をすする音がする。泣いているのだろうか。


「ど、どうした?」


亜里沙も振られたのか?それにしては泣き方が深刻である。


『あ、あのね…』


亜里沙が嗚咽を間に挟みながら、ゆっくりと、ゆっくりと話し始めた。だんだんと、事の深刻さが分かってくる。

亜里沙が話し終えると、二人の間に沈黙が流れた。これは、何とかしないと。


「亜里沙」


戸田から沈黙を破った。正直、この状況で何と言っていいか分からないが、これだけは言える。


「大丈夫。何かあったら、俺が守ってやるから」


-----------------------------------------------------------------------



「よし!おっけ!」


由佳は携帯をしまうと、泰樹の方に視線を向けた。泰樹は依然、顔を真っ赤にしている。かわいいなぁ。


「私が言う前に聞きたいこと、あります!」


「お、おう…」


泰樹が狼狽えている。完全に私のペースだ。


「薫のことはどう思うの!?」


「か、薫!?」


「あの子、ひいき目に見ても泰樹のこと好きだと思うよ」


果たして泰樹は勘づいていたのだろうか。夏の廊下の件と言い、戸田と亜里沙が止めてくれたからまだよかったものの、あれはわざと以外他ならない。あれがなければこんなに長引くこと無かったのに…。


「えっと…薫か…」


「なに、気になるの!?」


「ち、違う!だって俺は由佳のことが好きだから…」


泰樹がさらに顔を赤くする。全く、かわいいやつだなぁ。


「薫は後輩としていい子だと思う」


「よろしい。じゃあ次!」


「え、まだあるの…」


泰樹は観念したと言わんばかりに両手を挙げた。手を挙げても無駄だぞー!


「亜里沙のことは?」


「ん、どういうこと?」


「亜里沙のことは好きなの?」


「あー、それはね、」


泰樹が先ほどのオドオドした感じとは全く異なり、すぐに返事をしてきた。

ちょ、ちょっと待った心の準備が…。


「亜里沙は幼馴染だよ。それ以上でもそれ以下でもない」


「な、なるほどね…」


泰樹は『幼馴染』と言い切った。ああ、じゃあ好きではないってことね…安心した。


「おーけ!以上で終わりである!」


「えっ、結局由佳の言いたいことってこれ?」


泰樹が困惑した顔で聞いてくる。全く…。


「もう、気づけよこのにぶちんが!」


由佳はつかんでいた腕をグイっと引っ張り、無理やり泰樹を自分の体に近づけた。泰樹はバランスを崩し、由佳に寄りかかってくる。寄りかかってきた泰樹の体を由佳はがっしりと受け止めた。


今度は、ハプニングではなく、わざと、泰樹を抱きしめた。


泰樹の耳元に口を近づける。まるで時が止まったようだ。


そして、由佳は…



「好きだバカヤロー」



そう、泰樹の耳元で囁いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ