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宇宙への準備

 「オーライ、オーライ、チョーイ、ストーップ」

 作業員の声でクレーンアームの回転が止まった。

 海上工作艦「かもめ」の舷側には大型護衛艦とわかる船が停泊していた。

 大きさで言えば「かもめ」は10万トンクラス、護衛艦は5000トンクラスなのだが風格はどちらも負けていない。

 なぜか艶の異なる外板がモザイクのようにちりばめられた護衛艦の姿は古武士のような雰囲気をたたえていた。

 護衛艦の艦側にはDD110たかなみの文字が白く描かれていて、たかなみ級のネームシップである「たかなみ」であることを誇示していた。

 「ロの列全部がご要望の大型ストライクレングスのMK-41だ。賞味期限が近いのは2と6と8だな」

 「ではその3つを戴きます。ありがとうございます」

 謝辞を述べながら頭を下げたのは真田開発部長だ。

 「いや君の設計でこの船の寿命が10年以上延びたんだ。礼を言うのはこちらだろう。使いやすいいい船だよ。」

 

 たかなみは進水が2001年ですでに四半世紀以上も前線にいる古豪である。

 この船は東日本大震災において「レスキューフロム ザ シー」を初動で行った唯一の自衛艦でもあり、海外との合同訓練も多い著名な武勲艦である。

 そして大規模延命改修を行った結果、現時点でも大陸と日本を隔てる動く壁としての任務を続けている。

 改修設計者が優秀すぎて左遷されたということも広く伝わっており、現場組としては真田3尉に対する好意は非常に高い。


 デリックで吊り上げられた3つの細長い箱は、エアクッションの付いた台車に垂直に置かれるとロープで固定され、PAが手押しでエレベーターに運んでいった。

 「小浜1佐、第343増強航空隊 開発部部長 真田六郎 セルならびにSM3 3基受領しました。」

 「引渡し確認しました、当方は任務に戻ります。」

 お互いが敬礼を行うと護衛艦乗員は速やかに撤収し「かもめ」から離れていった。

 


 「さなだ、何を受け取ったの?」

 艦橋から見たことが無いほど細身のPAがやってきて尋ねてきた。

 見た目は小柄なランドセルを背負わせた、銀色のマネキンにしか見えない。

 「隊長、MK41セルとその中身のミサイルです。」

 「ミサイル?」

 「ええ、新イージスシステムで中核のICBM迎撃用ミサイルのRIM161スタンダードミサイル3ⅡBです。」

 「それって確か1発250億円するミサイルよね。確か到達高度500kmとか」

 「良くご存知ですね。」

 「取引条件の説明でいろいろ調べたからね。そんなの3発って一体いくらしたの?」

 「ほぼ、ただです。」

 「ただ?」

 「このタイプのミサイルは固体燃料ベースなんで推進剤の経年劣化が起こります。そのため使用期限が過ぎ次第、破棄しないといけないんですが。機密と危険の山ですので費用が嵩みます。」

 「でうちが代わりに打ち上げて消費するということでただにしたということ?」

 「発射時の軌道観測データを渡すことで、実質無料です。」

 真田の説明に春も納得したが、少しだけ疑問が沸いた。


 「なるほどねー、でもなぜ自衛隊も自分で打ち上げ処分しないの?」

 「推進剤が劣化するということは不安定になっていつ爆発するかわからないということとも同義ですから、備品を廃棄してる最中に爆発、市街地に落下とかなると大問題です」

 「そんな危険なもの持ち込んだの?」

 「ターキー01の電磁波対策で作った船底の防壁はロケット墳進剤程度の爆発ではびくともしませんからご安心ください」

 「安心していいのか、あきれるべきなのか悩む回答ね?」

 こうやって見るとターキー01の規格外ぶりが改めて納得される。


 「ともあれ隊長のPAパワードアーマー不具合は無いですか?」

 「ええ、筋力増強装置がないからパワードアーマーといっていいのか悩むけど」

 「動力は緊急時用翼の展開に使ってますから、滑空性はウィングスーツより性能いいですよ」

 「防弾性を向上させながら、パイロットスーツの赤外線シグナルを維持するとかその頭、何考えてるの?」

 「軽金属は赤外線を透過するんですよ、それだけ知っていれば超々ジュラルミンの応用で作れます。」


 春のPAはMU搭乗を前提とした緊急脱出用にフライングスーツになるギミックつきの金属製の殻といっていい。

 3Dプリンタで作った素体の上にイオンプレーティングで金属薄膜を数十層重ねた装甲を切り出して従来のスーツに取り付けたワンオフ物である。


 「装甲板に不思議な模様が見えるんだけど……」

 「板の構造と結晶での強化を両立させたんで……模様に見えますか?」

 「まるで魔方陣みたいね」

 「非科学的ですね。技術の求める形は機能美を生み出すのです。」

 「前ほど扇情的でない部分デザインは評価するわ。」


 そういうと春は金属的な足音を立てながら艦橋に戻っていった。

 (体型維持が大変だけど……)

 多少の変化はアンダーの伸縮で対応してくれるのだが、どうしても装甲版の隙間に黒いアンダーが見えて目立ってしまう……それはプライドにかけて防ぎたい。

 春は装甲を定期的に作り変える2年を目処に、体型維持を心がけようと心に決めた。


 打ち上げだけならばSS520民生型のはくちょう1型が民間で一発5億円で打ち上げてくれるが、今回のミッションは移動する人工衛星に到達させなくてはならない。

 その標的は直径150m、半数必中界(CEP)で75mですら成功率50% 時速1万kmを越える中、針の穴を通すより難しい作業だ。(ミサイルは秒速3km、つまり0.05秒のずれで外れる)

 真田は普段見せないような笑みを見せながらミサイルの改造を楽しんでいた。

 時折何か思いついたのかメモを取っている。

 そのメモを渡すと部下が足長蜂に走っていき整備調整している。

 彼は嬉々ととして改造を楽しんでいるようだ。


 その頃、高橋は海の中に沈んでいた。

 無重力で用いられる慣熟訓練だが 弥生とやまねの見張りだ。

 彼らは水中でどのようにバランスを取って動くかのデータ集めだ。

 ただ弥生が遊びで泳ぎだすのを捕まえてテストを続行させるための教官代わりである。

 やまねは思ったよりもすぐに水中になじんだ。

 姿勢制御もチックのフィードバックプログラムをレーザー通信でパッチをあてることで、だいぶしなやかに動いている。

 それに対して弥生は無意味に高速機動をしたがる。

 これはアリスが元来高速機動向けのAIだった影響もあるのだが……

 泳いで捕まえる身になってほしい。

 全身トレーニングなので不満は無いが徒労感はなんともいえない。

 この二体ほんとに宇宙にいけるんだろうか?

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