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本年もよろしくお願いします。

 はたして、俺がうららを愛しているのか? それとも好きどまりなのか?

 それは歓迎会のあと宿舎に着いても、まだ答えが出てこない問題だった。

 彼女に対する気持ちは優秀な上司に対する忠誠心とは異なっている。

 そのことは理解しているが、いったいどの感情なのかと言われると困ってしまう。

 自分の経験を元に考えようにも、過去を振り返るとトラウマが刺激される。


 「私、顔よりも男らしい体型が好きなの」

 白石さんが女友達と話をしているのを聞いたのは中学1年のときだった。

 以後、俺は男らしい体型を得るために全てを捨てて打ち込んだ。

 徐々に孤立していくクラスでの立場、そんなものはまったく気にならなかった。

 高校に進むと同好の士が集まってきて、中学よりは情報も機器も豊かになった。

 そして高校3年の夏、白石さんを公園に呼び出し、渾身のオリバーポーズと共に交際を申し込んだ。

 躍動する筋肉、脈打つ静脈、テカテカにオイル塗込、体脂肪4.5%のベストコンデションだ。

 その俺のポージングを見た彼女は口を隠しながら「……無理」とだけ呟いた。

 あきらきれない俺は、ポーズを変えながら近づく、すると彼女は吐いた。物理的にだ。

 胃液スプラッシュを浴びた俺は、6年間の努力が無益に溶かされ流れたのを知った。


 あのときの6年間の努力期間の気持ちと今の気持ちは明確に違う。

 今思うと、白石さんへの気持ちと育ってくる筋肉への愛着が同時に沸き起こっていた。

 そのせいで余計に強い憧憬を起こしていたのだと思う。

 つまり、あの頃の気持ちの半分以上は筋肉への愛情だったわけだ。

 それを一気に全否定されたため、否定した存在(女性)すら俺は苦手になった。

 それが、俺がヘタレになった理由だ。

 こう考えてみると、俺は筋肉を捨てずに女性を捨てたというふうにも言えるのかもしれない。


 俺が自分の人生で最も愛したのは筋肉じぶんだった。


 意外と重い命題にぶつかったのかも知れない。

 俺が他者を愛せるか?チックあたりなら簡単に分析するんだろうが、今は新潟の第30普連の宿舎だ。

 リンク16を使うとはいえ、かもめとの連絡は控えるべきだろう。

 ではうららをどの程度あいしているのか?

 筋肉全部ではなく個別部位と比較してみよう。

 上腕二頭筋とうらら、無条件でうららだ。うららを失うぐらいなら腕の1本や2本は問題ない。

 腕ぐらい義手で何とでもなる。

 次は広背筋、ポージングで重要な広背筋だインナーマッスルの束ねとして鍛え込みは半端無い自信がある。失ったら再現できないだろう。

 背中をおろし金にかけるような状況か……墜落してくる彼女を受け止めるために仰向けで滑り込む……たぶんやるな。

 ということは彼女は広背筋よりも重要だということになる。

 では腹筋はどうだろう。シックスバックがなくなる状況?

 捕虜になって運動できない状況で監禁されるとかかな。楽勝。腹筋は鍛えなおしやすい。

 では大胸筋はどうだろう。胸板の厚さが無い俺。想像ができないが……

 ひょろりとした優男の俺、生理的に無理だ。たぶん鍛えなおすだろう。

 でもその状態でもうららが助かるなら、受け入れられる。

 というか、こうやって並べていっても、自分と彼女のどっちが大事かなんて明白じゃないだろうか?


 もし彼女が空を自由に飛べないならそれだけで俺は悲しいし、復帰のため全力を尽くすだろう。

 それが、彼女を撃墜され失うことに繋がり、後悔するであろうことがわかっていても、彼女の望みをかなえるため全力を尽くすに違いない。

 ようやく俺が愛しているものの存在が見えてきた。

 それは彼女の生き方であり、意志そのものだ。

 それを彼女が望まない限りは、させたくない。

 どんなに苦しいであろう道でもそれが彼女の望みなら、最後まで完遂させてあげたい。

 

 これって愛なのだろうか?

 少なくとも物理的な彼女の存在は彼女の意志よりも優先順位が低い。

 あ……完全にチックのアリスに対する感情と同じだ。

 ……これは両方とも同じ感情でイカれたと見るべきなんだろう。

 チックはこれを恋といった。

 ならば俺の感情も恋なのだろう。


 AIに感情を教えられるというのも変だが、自分の感情は自分では判断できない。

 ともあれ、降参だ。俺はうららに惚れている。


=ガチャ=

 「どうしたの高橋?顔が赤いわよ。」

 俺の部屋のドアを開けて入ってきたのはうららだった。

 「明日の予定を打ち合わせようと思ったけど、体調は大丈夫?」

 「大丈夫。いつもどおりだよ。」

 いけない。顔に血液が集まっているのがわかる。顔が熱い。

 「どうしたの? ハーン、さてはあたしの魅力にやられたな。」

 正解ですともいえない俺は、その場でうつ伏せになるとベットの上で、高速で腕立て伏せをはじめた。

 両手の幅は極めて狭く、腕よりも大胸筋に負担をかけるスタイルだ。

 見る見る打ちに大胸筋にバンプアップが起こり、余分な血液が大胸筋に納められていく。


 「本気で大丈夫?」 

 心配そうな表情で覗き込むうららに

 「大丈夫。ちょっと君の前でかっこつけたかっただけさ。見てくれこのボリューム。」

 うそともホントとも言えない言葉でごまかす。

 顔は運動の汗と冷や汗で光っている。

 「……まあそういうなら、明日の移動スケジュールを打ち合わせるわよ。」

 真剣な表情に戻り明日の移動経路とかもめの合流地点を打ち合わせる。

 任務に集中する、彼女のシリアスな表情にポワッとしかけたが、無事最後まで打ち合わせを終了して、自室に戻っていった。

 なんとか今夜はごまかしきれそうだが、明日からどうしよう。

 もしみんなに相談してもさっさと告白しろといわれるのがおちだろうし、それで告白できるならヘタレになってない。

 しかし、このままででは任務に支障をきたしそうだ。何とかしないと。

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