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FMー日本海 開局

 日本海上の一点から超短波ビーコンが発信されている。

 今回試験的に運用しているリンク161βのテストだ。

 超短波の直進性は水面ギリギリで発信すると水面上では半径2km圏内以内しか受信できない。

 高い位置にアンテナを置けば受信距離は伸びるが、通常、ローVHFと呼ばれる超短波よりわずかに長周波の部分が軍用移動対象の専用周波数として用いられていて電波の特質が変わらないことを考えると、民間放送局その他との混線も有る分、運用上では不利と思われていた。

 (何しろFMラジオで普通に音が聞けるのである。)

 しかし新しい暗号を設立するに当たり、従来の軍用周波数が存在しない波長域というのはメリットが大きかった。

 このため複数の電波域を同時に流しつつ、波長数と受信時間の選択の命令を流すことでリンク16を超える暗号化を行うという名目でこの実験は行われている。

 ビーコンの信号は高空を飛ぶエイ型飛行母艦によって受信解析され、リンク16に変換して自由陣営に配布されている。

 今回のビーコンのデータは前日の楽浪軍管区偵察の分析結果である。

 十分に軍機に該当する内容のなのだが、この情報すら漏洩前提でこの日の作戦は決行されていた。

 「ビーストはまだベイトに食いつかず。」

 「弥生、161βの防御プログラム選択を自動から手動切替、準備」

 薄暗い密閉状態で、HUDのわずかな光に映し出された兎が目の前にいて、その言葉に真剣に対応するマッチョがいた。

 彼らは足長蜂に乗り、日本海を北上しながらの対応だった。

 前回の帯同出張で自分の心情を理解した高橋は、結局うららには告白していない。

 ヘタレである。

 代わりに、うららが何を望んでいるかを綿密に調査して、アリスの自立という結論に辿りついていた。

 この結論はチックも賛成し、そのためにアリスの特訓を行おうとしているのである。

 特訓相手はUI。

 リンク16の改良も、通信データの堅牢確認も、すべてアリスを鍛えるための建前である。

 単にUIが興味を抱きそうな情報をばら撒いたにすぎない。

 うまく食い付いてくるのを祈るだけである。


 アリスの外部端末である、弥生も成長していた。

 ノウサギの夏毛の茶色から冬毛の白に変わっていて、一回り大きくなっている。

 これは帯同出張の間に真田さんが改造してくれた。

 以前はアイデアのみで資材が足りなかった分を佐渡経由で入手して大規模なバージョンアップを施している。

 ……自重しなかったともいう。

 このためハードの処理能力なら持久力以外はターキー01と並ぶ性能を有している。

 ただアリスではハードをもてあますのがわかっているので、ターキー01と有線接続が行われている。

 そう、有線接続なのである……

 「差込は口と尻のどちらがいい?」

 と真田さんから聞かれたときには思わず絶句した。

 「女の子なので尻はやめてください。」

 その返答の結果、口から何本もコードが延びていて、牧草を食べる兎そっくりになっているのは御愛嬌である。

 今回の作戦の安全策でネットワーク緊急遮断(物理)で本来はケーブルを引っこ抜くという手法を考慮して設けられた接続らしいが、ターキー01の中にいたら俺が引っこ抜けないんじゃないだろうか?

 実際にケーブルには爆薬が仕込まれていて、爆発で断線するようになっている。

 殺傷力はないとは言え、目の前に爆竹がぶら下がってる状況は、神経的にあまりいいものではない。

 ともあれ、そのケーブルを使ってリンク161βサーバーと接続し電力もターキー01経由で足長蜂から供給している。

 弥生は上機嫌で時々口をモグモグ動かしている。

 俺はそのたびに冷や冷やしながら首をすくめている。

 「ジン、弥生に異常は無い?」

 スピーカーからうららの声が流れてきた。

 今回彼女はかもめに居残りだ。

 さすがにMU飛行中にアリスが機能をロストすると生き死にに関わる。

 じゃあ俺はいいのか? という気もするがチックとターキー01で積み重ねてきた経験値がまったく違う。

 最悪でも軟着陸は可能だろう。

 おまけに足長蜂は今回フロートを装着して海面着水も覚悟している。

 「弥生に異常が無いときは無いよ。そういう意味では今も異常なしだ。」

 「今は何やってるの?」

 「爆薬入りのコードを噛んでスリルを楽しんでいる。俺もスリルの巻き添え食らってる。」

 「あー、なんか、ごめん」

 なんともいいがたい雰囲気がスピーカーから伝わってきた。

 こればかりは彼女にはどうしようもないことだろう。

 感情表現が劇的に増えたのはチックと接触してからのことだ。

 そういう意味では俺のほうが責任が重い。

 「UIは未観測、試験を続行する」

 「了解、十分に気をつけて」

 彼女からの連絡が消えると、兎が機嫌がいいときに出すチチチという泣き声がコクピットに広がった。

 「弥生どうした?」

 「UI発見。トレースモジュール発振……あれ?もう一体発見??」

 「待て、チック補助に入れ。自律戦闘許可。」

 「高橋、確認されたUIは3体いますが、それぞれ別々の行動をとっています。当方への攻撃意志はなし。リンク161βの解析に全力で取り込んでいるのが一体。リンク16を監視しているのが1体。もう1体は? 何を考えているかはわかりません。」

 「まずいな。想定外だ。」

 少し考え込むとチックに指示を出す。

 「海面に着水。全エンジン出力は発電機に振り分けろ。弥生はトレースモジュール追跡。やばくなったらチックの援護で逃げろ。」

 「了解!」

 弥生の向こうにいるアリスも最大戦闘出力でスタンバイ中だ。

 「安全第1、こっちの被害は最悪でも弥生のゲートまでで止めるぞ。」

 そういうと俺はヘッドホンの装着を再確認した。

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