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わんぱくフリッパー

カーン、カーン

俺が船底に辿り着いたとき、まるで与作のBGMでも流れそうな音が響いていた。

音の方向に突っ走っていくと、やはりアレか・・・

茶色い兎がローリングソバットをターキー01に決め続けていた。

その様は毛皮の独楽が跳び上がってはキックを出しているようであった。

「また意味不明なことを・・・」

俺はぼやきながら弥生の首筋をつかむとぶら下げて、ぶん回すと部屋の隅に放り投げた。

空中で体をひねると猫のように足から壁にぶつかった。

床に降りると前足で顔を洗っている・・・何がしたいんだ・・・

ほんの少しだけ気を取られたが、緊急事態を思い出しターキー01に飛び乗る。

瞳孔確認つづいて静脈確認、生体キー解除、ブートアップ。イグニッションスタート。

背中のパワーユニットからロータリー特有の滑るようなエンジン回転音が立ち上る。

「FUEL 76% バッテリー98%充電開始。バッテリーの劣化は結晶度5%未満か新品同等だな。」

最近は書類仕事がメインだったのでAPに乗るとそれだけで心が浮き立ってくる。

「CPU並列起動開始。強制冷却スタート。」

「兵装メインEPC(ERECTTRON PROJECTION CANONN)?オールグリーン。スモークディスチャー連装2基、グリーン」

いつの間にかHUDに表示される主兵装の名前が変わってた?・・・ああ、この間真田さんがパワーアップしたしたときか・・・電子射出砲か、好きそうな名前だわ。

チックがフル稼働しているのが赤くなった稼働メーターでわかる。

12個常備している防御プログラムが次々に交換・投入されていく。

いつもならHUDに遊びで表示されるテキストも割けないほど高速で対応しているようだ。

リソースが全部回されている。

たぶん今ターキー01を動かしてもサポートはないだろう。

純粋に俺の筋肉出力と平衡感覚で動かすしかない。

毛づくろいを終えた弥生がやってきた。

コクピットガードを上げると中に飛び込んできた。

「緊急、緊急!敵襲中!対応指示要求!」

は?敵襲?

レーダーには別に異状ないが?ネット攻撃かな?

「敵潜水艦からのアクティブソナー感知。OPCbS(全方向海水投射膜)による水流のため位置情報の確定に戸惑っている模様。早急の対応を要求する。」

「潜水艦?!」

船内警報が鳴ったのはその直後だった。

「二時方向に30kmに敵潜水艦捕捉、MU隊は全機機雷装備の上で迎撃せよ。」

スピーカーからうららの声が響き渡る。

・・・まあ魚雷の1発2発で沈むような船でもないが、浸水がドックに来られるとすごく不味い。

耳元で弥生が叫んでいる。

「フリッパー、フリッパー」

フリッパー?いるかもしくは青の6号の小型潜航艇の名前、お前どっからそのネタ拾ってきた!

って、くろしお号搭載予定の小型潜水艇ことか!

「こちらターキー01 試製小型潜水艇で迎撃にむかう。」

固定ラックに信号をおくってターキー01を開放する。

サポートがないターキー01はドラム缶1本を全身に巻き付けて動くようなものだ。

筋肉に大量のATP(アデノシン三リン酸) が注ぎ込まれ、フルスロットルで動き出す。

久し振りの負荷に骨が軋むが、一気にスタートダッシュする。

ワイヤーが変わったおかげで伸びによる動作の遅れがない分、かっちりした動きに仕上がっている。その分、バランスをくずすと直ぐに転倒するピーキーな仕上がりになっているが、冗長な動きのせいで動作が遅れて弾に当たるよりは軽快に動ける方が圧倒的にメリットが多い。

50mを6秒台で駆け抜けると試製潜水艇に辿り着く。

「アリス、入口ハッチを開けてくれ。」

俺の命令に反応して弥生からアリスの声が流れ出す。

「貨物ハッチオープン。搭乗願います。」

貨物扱いかよ。とは思ったが人間用のコクピットにはターキー01は入らない。当然のことだった。

飛び乗ってハッチを閉めるとそのまま、潜水が開始された。

「エアーコンデッション、スタート。」

貨物ルームに空気が流入してくる。

「ターキー01をベルトで固定してください。」

近くにあったベルトをターキー01につなぐと締めつけて固定してくれた。

「ウォータージェット稼働準備、プライマリードライバ作動。フライホイール回転開始。」

どう見ても兎なのにアリスの声で喋り出すというのも違和感がバリバリだ。

AIスピーカーと思い込むのも難しい。

「フライホイール6000rpm到達。水深50mに到達次第エンジン始動します。乗員はショックに備えてください。」

水深50mというのは深いようだが船の喫水が20mはある。ジェット水流の影響を考えるとそれでもやや浅いかもしれない。

「50m到達、3・2・1コンタクト!」

フライホイールに蓄えられた運動エネルギーがジェットエンジンの主軸に伝わり無理やり最初の回転を始めた。圧縮された海水から電気分解された塩素と水素が水酸化ナトリウムを挟んで爆発的な反応を始め、タービンブレードを回していく。

「エンジン回転7200rpmで安定。全速前進用意完了!」

もはや荷物になってしまったが、弥生を通じてアリスに指示を出すことはできる。

「アリス。敵潜水艦の位置は把握しているのか?」

「領域は確定、座標は不確定です。」

「OPCbSの音を使ってパッシブ探知しろ。」

「方位030距離27500、水深150mに感有、数1」

「VLアスロック、安全装置解除、敵方位に向かって全速、水深50m距離20000でアスロック発射後90度転進、進路120へ変更。」

「了解」

その返答直後、急激な発進のGが襲ってきた。

足長蜂よりもきつい。

なによりも波のうねりを拾っているらしく微妙に上下する。

胃の奥からせり上がってくる不快感を飲み込みながら

(小型ってことはこういうことだよな・・・大型なら無視できるんだろうけど・・・)

まだ天気が良かったことを感謝しよう。

全身に冷や汗が流れ、運動で出た汗とは違う、粘ついた冷たい感触の不快感を堪えていたら、一気に背中側に張り付かせられた。

急旋回のGである。

「発射完了、進路変更しました。」

「し・んろぉ・・・うぷぅ・・・180、りだぁあーーつ」

こみ上げる胃液を押さえつけながら進路を指示する。

もう一度旋回のGをかけられた直後だった。

いきなり巨人につかまれてシェイクされたような挙動に、胃の限界がきてディスポーザーに向かって胃の中身をぶちまけた。

APの標準装備だが使ったのは新兵の時以来かなり久し振りだ。

だが、長いことシェイクが止まらない。

ろくに会わない目の焦点でHUDを見ると、どうもMUの機雷破裂の衝撃波がこっちに伝わったせいらしい。アスロックのカウントダウンは未だに続いている。


敵の潜水艦は急速潜航で回避したようだが・・・ダメージは観測できない。

HUDからカウントダウン表示が消える。

アスロックの着弾時刻だ。

5秒ほど遅れて潜航艇が操作不能の大回転を始めた。

大規模爆発の水流の余波だ。

どうやらアスロックが無事命中して爆発したらしい。

今頃は海面に噴水が上がっていることだろう。


しかしこっちは、まるで缶詰に放りこまれて坂道を転がされたトマトの気分である・・・どうにもならない。

しかし弥生は平気な顔でバランスをとって俺の目の前でクルクル縦横無尽に回転している。

いやクルクル回っているのは俺の方なのか?


あ、まさかあの階段の地獄車・・・このためのデータ取りだったとか・・・うーむAIの考えることは奥が深い・・・


とりあえず決めた!この小型潜水艇は絶対に無人で運用しよう。

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