漂流船(グロ想像注意・・・)
ようやく真田さんの活躍開始です。
いつ「こんなこともあろうかと」のセリフが出せるかわくわくです。
ともあれ、今回は想定した朝鮮内部事情を端的に示すエピソードです。
作者が頭の中でグロの部分は削りましたので無理に想像しないように。
ちょっとヒロインが空気化しかかってますね。アリスがんばれ!
次回からは朝鮮半島で侵入作戦になるといいなー(フラグ)
真田さんが着任して15日目。
彼はいまだに会議室とトイレと船内ドック以外には足を運んでいない。
・・・ここまでマッドだとは思ってなかった。
佐藤顧問はまだトレーニングジムに顔を出すだけ人間的だったのか。
ともあれ、彼は自衛隊と違って外観に気を使わなくていいことが非常に気に入ったようで、短く整った角刈りも、伸びてくると緩やかなカールを描くことがわかってきたし、髭も濃いことがわかってきた。
さすがに放っておくと、どこぞの仙人みたいになりそうだったので、開発部長付けの秘書として一名を配置することにした。
・・・力ずくで・・・髪を切らせるとか・・・小学生かあんたはという、ツッコミが入りそうだが、幸い陸自のAP乗りには筋肉好きが多いのでそっちの方の人員に問題はない。
佐渡1士(25才男性)を配置したが、毎朝押さえつけても身支度させないとすぐに作業に入ってしまうというのは予想外だった。
これじゃ海自も持て余しただろう。
従兵、大変だったろうな・・・佐渡の自慢の筋肉が段々絞り込まれてきてる気がする。
特に上腕二頭筋と三頭筋が太く血管、浮き出るくらいになってきた。
そんな佐渡1士以外は大きな問題もなく、天気のいい平穏な日だった。
「高橋、10時方向20kmに船影発見。指示願います。」
インカムにチックの声が飛び込んできたとき俺はジムで佐藤顧問のベンチプレスの補佐に入っていた。
「佐藤さん、チックから連絡です。ブリッジに上がりますので、チェストプレスに移動願います。」
「おお、仕事じゃ仕方ないな。あっちでやるわ。ちょっとバーのセットは深めでやろうか」
やはり大胸筋狙いか・・・大分張ってきてるから、仕上に向けてるな・・・
楽しいトレーニングから一転、お仕事である。
チックは晴天にはドローンを常時4機以上飛ばして周囲を索敵している。
このドローンはベースは鹵獲品をそのまま流用しているので、性能はいまいちだがカメラと発煙弾を搭載しているだけなので何の問題もない。
カメラに映る画像はブリッジのモニターに映し出されるが、チックの便利な点は不審物を発見すると通報してくれることである。
隠密作戦の関係で、見張りの負担が少しでも減ってくれるので大助かりである。
ブリッジのモニターに映ったのは200t級の延縄漁船だった。
「該当する日本漁船あるか?」
俺の問いにブリッジの通信士が返答する。
「レーダー反応、登録なし。国籍不明です。」
ドローンが兵器になって大きく変わったのが漁船の運用である。
何しろ超安価で小型の空母みたいな使い方ができる。
このため日本近海の漁船は全て登録済みの電波発信機をつけている。
その上で、予定海域を漁協を通じて申告し、国籍不明船がいた場合には通報の義務を負っている。漁船からの視点というのも非常に重要だ。結構な頻度で通報が入ってくる。
通報を受けた場合、だいたいが海上保安庁が臨検して拿捕ということになるのだが、まれに武装している船の場合には海自もしくは空自のMUが応戦して破壊する。
今では排他的経済水域は事前に申告ナシの船がいた場合、攻撃されても文句が言えない状況である。
「かもめ」は一応YO-101という船舶番号で登録されているのでフレンドリーコードは持っている。
ただ詳細がマル秘なだけである。
俺はモニターを見ながら気になった点を指摘した。
「漁にでるというには喫水が深すぎるな・・・」
上がってきたうらら社長が聞きとがめたらしい。
「密輸かしら?」
「いやたぶん亡命希望だ。舳先は日本に向いている。もっともエンジンは止まってる、、たぶん漂流していたんじゃないか?」
明らかに過積載の状態で速度が落ちている船かつ整備不良な船で、密輸をするようなバカはもういない。
「チック、ドローンに発煙弾発射指示。様子を見る。」
「了解。」
画面の漁船に発煙弾が着弾したらしい、前甲板からピンク色の煙がモクモク上がっている。
慌てて船室から一人の男が飛び出してきて白旗を振っているのをカメラが捉えた。
「・・・変だな・・・?」
「何が変なの?」
同じモニターを覗いていたうららが不思議そうな声で聞いてきた。
「喫水から大量に人間が乗り込んでいるかと思ったんだが・・・飛び出してきたのが一人というのが・・・どうもな?」
「何を積んでるのかしら?」
過去の事例では汚染化学物質満載で撃破されることを前提の船もあった。
日本が撃破すれば自業自得、自分は手を出していない、という作戦だ。
「チック、ドローンを接近させて接写しろ。嫌な予感がする。」
「了解、高橋。国籍不明船に着艦させます。」
画面で漁船が急速に大きくなる。
旗を振っている男の詳細がはっきり見えてきた。
意外に二枚目の青年である。
白のTシャツに7分丈のズボンをはいている。
筋肉はほとんどないので、軍人ではなさそうだ。
男を通り越し船室の入り口が見えてきた。
「ひぃ!」
横で息を飲んだような悲鳴が聞こえる。
船室の入り口から人の足の裏だけが見える・・・・床に寝そべっているのだろう。
問題なのはその足の裏がしわしわで真っ黒に縮んでいることだろうか。
「難民船だったということか。」
症状からみて黒死病であろう。
すでに根絶して、研究用の株しか残っていないはずである。
おそらくは実験施設からの脱出者がいて罹患・流行したのであろう。
「旗振りの男も罹患していると思われる。焼却処分を提言する。」
チックがわざと感情を消したマシンボイスで報告してきた。
「ドローン緊急発艦、FAE(燃料気化爆弾)の使用を許可する。」
たちまち船内でロボットアームがドローンの武装を換装し、2機のドローンがエレベーターで上がってきた。
「作戦開始、作戦概要はディスプレイに上げます。」
すぐさまディスプレイに表計算ソフトの画面が立ち上がる。
作戦は一号機が船内に突入。船底を目指し、内部で自爆、タイミングを合わせて外部から2号機による爆撃でFAEを爆発させ12気圧の爆風による船体破裂を防止して、3000度の熱で滅菌燃焼させる。
正直、えげつない作戦だ。
恐ろしいことに1号機には陸走用のラジコン戦車のキャタピラがついている。
機銃で破壊してどこまでも進む予定だが・・・操作電波は中継用のブースターで保持・・・民生のWi-Fi用と差はない・・・このドローンはaバンド帯で操作している。
作戦そのものは開始から15分で終了していた。
着艦、侵入、到着、船内酸化剤噴霧、BLAVEによる燃料噴射、外部でのFAE爆発に合わせ内部で爆燃させる。爆発1秒以内で目標蒸発。
比喩抜きで船一隻が蒸発したのである。
鉄の沸点は2862度、船体のFRPのプラスチックは300度もあれば熱分解される。中のガラス繊維も1700度もあれば融解するし12気圧の変動で粉々に消える。
この作戦の指揮は俺、高橋が一人でとった。
たぶん精神的なトラウマになるだろうと推測して、指揮官が全滅するのを防ぐ目的だったが、大正解だった。死体から屍汁が漏れ出て水たまりになった中を進んでいく光景は、AP戦での死傷者を見慣れている俺でも吐いたほどだった。
チックに全部任せたいという誘惑を払いのけるのは、並大抵の苦労ではなかった。
一人だけでも生き残った人間がいなければそうしていただろう。
確認しただけでも100人以上の人間がいたと思われるが、最下層は侵入できない状態だったので正確な人数は不明である。
まったく戦争の方が100倍ましな任務であった。
その日はトランキライザーで無理やり精神を押しつぶして睡眠をとった。
その次の日に真田さんが話しかけてくれたのは非常にありがたかった。
「潜水艦の改良設計が終わった。」
すごい量の要求部品リストや工作手順書など、チックの学習の問題上すべてデジタルデータだったが画面を見ているだけで数日はかかりそうな量だった。
「よく打ち込めましたね・・・?」
「打ち込みはチックが全てやってくれた。こちらは以前に作った資料データからモジュールNoを指定して、その部品を彼がリスト化してくれたんだ。こんなに楽な設計は初めてだよ。彼を僕の端末に常駐させていいかい?」
彼は非常に上機嫌でこっちも昨日ことを一瞬でも忘れることができた。
「要求部品は艦内で製造できるものが8割以上だが、残りの2割はUS-3かCH-47で運んでもらった方がいいな。」
「じゃあ、その分仕事をしないといけませんね。」
俺がディスプレイから仕事のリストを見ていると、金額的には敵ドローン基地の破壊が相当しそうだ。
「ちゃっちゃと攻撃してきますか。」
「ああ、APを改造して捕獲されても量産不可な感じにするからちょっと時間くれ。」
真田さんのセリフがすごい。
軽自動車からフェラーリ並みにいじるそうである。
そっちの資材はコンテナで運び込んで来たので試作・搭乗試験のみとのことで、佐渡さんに協力を依頼させた。本当は俺がやりたいが、作戦立案と潜水艦改造案件でトレーニングの時間すら減りそうである・・・これ以上は無理だ。
ともかく、ようやく傭兵会社としての初作戦である。
社長とも経営方針のすり合わせやっておかないと・・・俺たちは国際救助隊じゃない。ただの傭兵なんだ。昨日の分もきっちり政府に報酬を請求しないと・・・




