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宴の終焉

US-3の中でベンチプレスをしている佐藤3尉に付き添っていると、彼が話しかけてきた。

「一昨日の作戦な・・・ちっとまずいことになるかもしれない。」

「まずいことですか?」


どうも正式に中華人民共和国がロシアを通じて抗議を申し込んできたらしい。


「まだ、詳しいところまでは聞いてないがな、高麗国と亡命韓国の関係も絡んで、この際正式に日米に朝鮮半島の領有を認めさせようという腹らしい。」

「実効支配ではなく領有をですか?」

「そうすれば中国は南シナ海での領土確保に専念できるからな。」


そうなると困るのは日本である。

マラッカ海峡を抑えられると、中東からの石油があっという間に干上がる。

それを考えると南シナ海における中国の台頭を認めるわけにはいかないのだが・・・


「調べてみたが、あの兵器は役に立たない。せいぜい使えても田んぼの案山子ぐらいだろう。」

まあ、それは理解している。

「だが中国は我が国の軍事機密を盗み出すため作戦を行い、新兵器を略奪していったと主張している。」

・・・まあ、そういうだろう・・・

「そこで亡命韓国からは返還の話も出たんだが・・・」

「はい?」

「韓国としては自国のPKOに伴う証拠品だから、所有権を自国にすることで返還という形をとったとしたいらしい。」

「つまり自分の領土での押収物という形にしたんですね。それで中国に恩を売ろうとしていると。」

「まあな・・ところが中国から、こんな屑鉄ではないと言ってきた。」

「屑鉄って、確かに屑鉄ですが・・・」

「先方の話を聞くと、どうもAPの特徴を上げてきたらしい。」

「・・・つまりAPをよこせと・・・」

「APの製造法は最高機密だ。」

・・・ママチャリのアシストシステムとからくり人形の組み合わせなんだし・・・製造は簡単にできそうな気もするが?逆にまずいのか。


「必要な部材の強度や精度、低排気量でのロータリーエンジンを使った発電システム等をどう配置するか・・・ノウハウの塊だぞ。」

そういえばそうかもしれない。


使ってる動力伝達ワイヤーもアイオノマー素材での通電収縮素材を使ってたし・・・


「まあ、渡したところで2年3年じゃ安定した製造は無理だろうが・・・もし生産されると数が怖い・・」

「低価格で数をそろえるのが楽なのがAPの売りですからね。」

「もし人民軍に装備されてみろ、万単位のAPが来るんだぞ。支えきれん」

まあ確かに手も足も出なくなるだろう。

「その上、どうも足長蜂もセットで要求してきているらしい。」

「それは、笑えないですね。」

何しろ組み立てはともかく、調べても殆どの部品はメイドインチャイナだ。

中国製だといわれても証明できない。

この二つを引き渡さないと回収のための強制措置を講ずるといってきたらしい。


確かに面倒だ。


「強制措置といっても全面攻勢はありえないから、情報戦、不正規戦に持ち込むつもりだろう。」


この状況下でも日本の商社マンは海外を飛び回って食料や資源を買い付けている。

彼らすべてに護衛をつけることはできない。

彼らを誘拐、人質交換の形で返還を要求というのは有りうる。


海外駐在員の事情は中国も同様のはずだが、彼らは相手国の同胞の支援が受けられる。

面倒なことに世界中にチャイナタウンは存在する。


結論から言えば手段を択ばないなら相手の方が有利になる。


「いまお嬢が岩国に呼ばれて出ている。そのあたりを連隊長と相談中だろう。」

そういうと佐藤3尉はホルダーにバーベルを戻した。


いままでAPは国内運用だけだったので海外で鹵獲という例はない。

今後はその対策も考えないといけないだろう。


・・・俺の見通しは甘かった・・・


その夜、帰ってきた春3佐の表情は重かった。

そしてすぐに召喚命令がきた。


「高橋3尉、ご命令により出頭します。」

「入れ。」


US-3 1号機の作戦室に呼び出された俺は無表情の春3佐に面食らっていた。

意図的にすべての表情を消したようだ。

さすが指揮官・・・それくらいはできるのか。

だが彼女が制服に無表情だとデパートのマネキン人形を彷彿とさせる。

特にランドセル背負ったタイプを。


「高橋3尉、統合幕僚本部からの命令を伝達する。」

「はい。」

「JTF-JSから防衛装備庁、装備政策部への赴任を命じる。」

「はい。ってはい?」

「APの開発技官になるということだ。同時に新型AIの育成についても要望があった。」

「・・・それはターキー01は置いていくということでしょうか?」

「YESでもあり、NOでもあるな。ターキー01は人民軍での潜入工作を命じられることになる。」


つまり、日本政府は足長蜂とAPの提供を拒み切れなかったのだ。

APにターキー01が選ばれたのは、判明した性能から利権争いが激化し、結果として大岡判決どこにもわたさないで、中国での内部工作用という理由で選出されたらしい。

潜入工作というのは人民軍ネットワークの情報を光レーザーでみちびき5号に通信し、データ漏洩を行うもの。いうまでもなく机上の空論である。

彼らがチックの思考ユニットに興味を示さないわけはないし、システムを調べるにもROMは外してプログラムの吸い出しをしないといけない。

その最中で繊細な人工知能は変質し、壊れるだろう。


「チックの損失はあなたが生み出す新型AIで代用が可能と判断されたようよ。」

無表情のまま淡々と続ける。

「えらく買い被られたものだな。」

「足長蜂はFCフライトコントローラーを破壊しておけば、ただの失敗ドローンにすぎないわ。」

そこで彼女は顔に血が上り赤くなった。

「最悪なのは、アリス01を人質にすればチックはゆうことを聞くと、幕僚本部が判断したことよ。彼は運よく生き延びてもアリス01を人質に、無茶な仕事をやらされることになるわ・・・バレて破壊されるまで・・・」


幕僚本部の意見はある意味、納得せざるを得ない。なぜならかかっているのは人間の命ではなく装備品なのだ・・・しかし・・・


「確かに、効果・費用は最高の作戦かもしれない。でも・・・」

悔しそうに顔を顰める春3佐はとても納得した表情ではなかった。


「今回の辞令でアリス01も後方に行ってシュミレーター母体に改装よ。彼女も空を奪われるの。」


人質を失うわけにはいかないから、当然の処置か・・・


「JTF-JSは解散されるわ。たった1回の作戦で・・・」

彼女は楽しい夢が終わってしまったような、遊園地から帰らなくてはいけない子供のような表情を浮かべた。


「さよなら タカハシ 楽しかったわ。」

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