模擬空戦
睡眠時間無いから設計に向いてるとか、知り合いのブラックなプログラマーの影響もろ受けですね。・・・残業、月300時間越えはやりすぎだと思います。
大宴会から一夜あけ、教導団の全面的協力のもと足長蜂は試験飛行に出ていた。
「速い、速いってば!」
俺はチックの中で視覚狭詐現象というのを堪能していた。
急激に速度を上げていくと流れる景色がどんどん前にせり出てきて、前方の狭い角度しか普通に見えなくなる。
自動車でも時速160kmぐらいまで上げる途中でこの現象を実感できるが、足長蜂は速度が違う。
100kmから600kmまでほぼ17秒・・・安全性を考えて加速1.5Gですらこの性能だ。
もう高度は2000mを超えている。
正常に見える角度は前方10度未満だろう。
慣れて動体視力が上がれば若干角度は増えるがHUDのレーダー反応の方があてになる。
WWⅡのパイロットや機銃手はこれでよく敵を狙えたものだ・・・と思ったら相対速度が近いと結構側面でも見える。
右手にMUが回り込んできたのが見えた。教導隊の1機らしく派手な赤のストライプ2本が主翼に書き込んである。
「仮想敵役はアリス02が務めてくれるようです。」
チックは俺がMUを視認したことを確認してから伝えてきた。
俺の空戦の訓練でもある。ネットワークでの情報は極端に制限されている。
本日のメニューは盛り沢山だ。
教導隊相手の模擬戦闘訓練、プロペラ負荷によるエアポケットの判断、対応プログラムの組み立て、索敵、ECM,ECCM状態におけるC4Iデータリンクテストetc・・・
本来ならそれぞれが1週間単位でやりたいのだが、機体にフィードバックしてハードも改修するので、いつまでたっても終わらない予感満載だ。
それなら走りながら改修するしかないだろうということで、本番にむけた最低限のデータ取りである。
あとは作戦をこなしながらの改善していくしかない。
「チック、敵機距離2000以内に入ったら射撃軸合せ、よろし」
「了解!あと5秒・・・4・3・2・1、今」
足長蜂は速度を緩めることなく水平に回転し機銃を敵機に向ける。
敵機もそれに気づいたようで急上昇する。
「姿勢制御、敵機追尾・・・」
「了解」
足長蜂は若干機体を傾け敵を追尾する・・・が急旋回で振り切られる。
「推定10G、かなり無茶な機動です。」
副翼兼エアブレーキとT型ターボファンによる左右推力の調整を使って半径100m程度の機動をこなして見せた。
速度600kmでは危険な領域の機動である。
「こっちが同じ機動したら一発で腕が折れるかな?」
「おそらく50%の確率で折れるとは思いますが・・・6本無事の確率は1.6%です。機動プログラム組んでみますか?」
「プログラムでどの程度改善できる?」
「通常機動のプログラムを流用してセンサーの数値も変動値で組み込めば安全係数は10倍です。」
「それでも生存15%か、意味ない。敵機来るぞ、追尾よろしく。」
それから15分間MUは接近してきてはロックオンされ攻撃に入れず、高G機動で振り切るを繰り返すことになった。
「燃料、ビンゴ!硬いなー、そっち。」
スピーカーから燃料が空のため戦闘中止の通信がスピーカーから流れ出た。
この声は金原2佐だ。
彼は隊長よりも階級が高い。この辺はMU部隊の教導隊ならではの現象らしい。
旧日本帝国陸軍航空隊の制度を改良したとか言ってるが、ようは若い奴の方が適性が高いので指揮権と階級は別問題みたいな形になってる。
年功序列が通用しない実力オンリーの部隊がMU教導隊なのである。
ほんと春3佐、恐ろしいな。
燃料計を確認すると、こっちも細かい機動修正のために結構燃料喰っている。
「模擬戦闘中止了解!ありがとうございました。」
「高橋3尉、なんだその機体は・・・まるで旋回機銃が空飛んでるみたいだったぞ。」
「こっちは空戦素人ですから、中の人間に高Gかけないように機動してますんで。」
「あれでか・・・」
機銃方向が180度回転しても機体の機動が変わらなければ遠心力の負荷はほとんどない。
ましてや、回転の中心とAPの位置はほとんど一致している。
戦闘中に2Gを超える機動はほとんどなかった。
そのあたりの遠心力のデータはC4Iリンクでで地上基地に送信してある。
今後のアビオニクス改良の重要なデータになるはずだ。
「次はフェイズドアレイレーダー兼発振器のテストです。」
やや旧式になるが岩国基地のEP-3が第31航空群から出張ってくれた。
同航空群の71航空隊からPS-3を供出してもらう関係で、協力が得られた81航空隊所属機である。
「距離10kmECM発動確認・・・電波ノイズ・・・レッド域。フェイズドアレイシステム、ECCM作動。」
今EP-3が使っているのは広域波長に対する電波ジャミングのようだ。前方でデカい電気ショートを起こして電波を充満させ通信の精度を下げていると思えばいい。
それに対抗するのにミラーボールのようについたフェイズドアレイの発振端子を選択的に作動させて電波出力の強弱にもデータを乗せる。
「敵機ECCCM発動。電波波長合わせてきました。」
「ECCCCM発動、指向波変調、目標みちびき5号」
こちらは敵が電波の波長を捉えてきたのに対応して人工衛星に向かって波長変動のアルゴリズムを送信する。
地上基地では人工衛星からのレーザー通信による電波変調アルゴリズムと同時にこちらの電波を解析してデータを得ることになる。
「高橋、地上よりデータ欠損3%未満、対処良好の連絡あり。」
「よし、チックここまでを自動対応プログラムで組め、エンジン出力の何%が発電に喰われた?」
「だいたい15%ですね。燃料が満載でも問題はないでしょう。」
「OK、EP-3に連絡、機材試験終了。協力に感謝する。」
「先方より受信確認、ECM停止しました。連絡「コンドサケオゴレ」だそうです。」
「受信応答、今度本場のマッコリ持ってきてやると送っておけ。」
「高橋・・・朝鮮は経済制裁対象国です。密輸になりますよ。」
「売買しなきゃ大丈夫だよ。貰ったものをあげるだけだ。」
しかし思ったより強力な電子戦ができるなって、よく考えてみたらエンジン出力の15%って6基分足すと、エンジン1基で換算すると90%が発電負担・・・そりゃ強力だわ。
計算出力335000W・・・って冗談みたいな出力で電子戦してたのか、とても2週間で組んだとは思えない性能だな。
フライトコントローラー(FC)も特に問題なく動いているし、AIは睡眠時間ない分、設計に向いてるのかな?そのうちエンジンでも設計させて調べてみよう。
「次は特車との射撃管制連携か?」
「特科射撃管制装置(FADAC)使っての99式自走砲の自動操作と遠隔射撃か・・・盛りだくさんだな。」
「手早く終わらせないと燃料がなくなりますよ。」
「了解・・・さっさと済ませよう。」
足長蜂は高度3000のまま射撃訓練場に向かって進路をとった。




