約束(一)
この頃指の傷が痛む。
左手の薬指に今でも赤く残る、二つの傷。十二年前、彼につけられたときから消えることも薄れることもなかったけれど、最近は色が濃くなっているように感じる。夜が深くなると、心臓の音にあわせてずくずくと痛む。最初はただのこわばりか何かだと思っていたのだが、日に日にひどくなる。
傷が痛むと、私は指をかばうように右手で握り、目を凝らし、耳を澄ませ、辺りの闇の様子を伺う。そこに彼が潜んでいる気がして。私にはわかる。骨に届くようなこの痛みで、私は今も彼と繋がっている。彼。私の優しいおにいちゃん。私の頭を撫でてくれる、大きな手。
君だけが僕の喜びだよ。僕のちっちゃなお姫様。
そう言った彼だって私の喜びだったのだ。けれどまだ幼い私はそんな言葉がすぐに出てこなくて、ただ白くて長い首に抱きついて、冷たい肌に自分の頬をつけた。彼は笑っていた。彼にしか出せない、軽い、楽しげな声で。その軽さが、私にはいつも少し悲しかった。
今ならわかる。あれは、何かを諦めた者にしか出せない声だったのだ。かわいそうな、おにいちゃん。ひとりぼっちの。
彼がやってくる。予感というより確信だ。指を握り、痛みにかき乱された思考の中で、私は繰り返す。彼がやってくる。もうすぐ彼がやってくる。
呪いのように繰り返す。来るはずのそのときに怯え、私は指を切り落としてしまおうかと考える。




