炎の日々
俺はいま、師匠に魔法を教わっている。
魔法の訓練は、自分が思っていたものよりも過酷なものだった。
初日は良かった。師匠が火の魔法をたくさん見せてくれた。火の玉。中級から上級まで。この世界の大半の火の魔法を見せてくれた。
次の日からは座学だった。
魔法には初級、中級、上級があって、その上に超級というものがあるらしい。普通の人なら、得意な魔法でなければ中級までならどの魔法でも使えることができる。だが上級からは、その人の属性が大事になってくる。
超級に限っては、国に一人いるかいないかだそうだ。
他にも属性の魔法であったら魔法を作り出せる事ができたり火を自由自在に操ることができるらしい、だけどこれは自分の想像力と魔法の制御技術が大事になるらしい。
(つまり……アイデア次第で無限に魔法を増やせるってことか)
ラウルスは心の中でメモした。
そしてそのまた次の日。
師匠――リリア・フォンティーヌは、こう言った。
「まずは魔法制御と魔力量を増やす訓練をしましょう」
お庭で訓練が始まった。
そこから毎日がきつかった。
毎日毎日、体の中から魔力を感じ、魔力出力を師匠の求めている出力まで出したり弱めたりする。それがとても難しかった。
「もっと弱く……そうそう。じゃあ今度は、さっきの倍の出力で」
「はい……!」
何度も失敗した。火の玉が消えたり、逆に暴れたり。
魔力量増大の訓練では、師匠曰く――
「ミラー様は人間離れした魔力量です。でも、もっと伸ばせますよ」
毎日、魔力が空っぽになるまで出す訓練をさせられた。伸ばすのにはこれが一番いいらしい。
魔力がゼロになると、体が鉛のように重くなる。目まいがして、立っていられなくなる。
それを半年続けた限界に近かった。
自分が思っていた訓練じゃなかった。
でも――
そんなことも、クレアのことを考えると苦しくなかった。
(またあの子に会いたい)
(その時に、何かあったら守れるように)
その思いが、ラウルスを支えていた。
そして半年過ぎたくらいで、師匠との仲も深まった。
ある日、ラウルスは思い切って尋ねた。
「師匠……実は俺、人の魔力量がおぼろげながら『視える』んです」
リリアは一瞬、目を丸くした。
「そうなのね……」
「物心ついた時から、なんとなく。父様や母様、兄様や姉様町の人々の魔力の大きさが、なんとなくわかるというか……」
リリアはしばらく考え込んだ後、静かに口を開いた。
「その能力はね、たまに特別な力を授かって生まれてくる子がいるらしい」
「特別な力……?」
「ええ。でも、あまり人には言わないほうがいいわ。勘違いされるから」
そう言って、リリアは微笑んだ。
その表情は、どこか曇っているようにも見えた。
(師匠……何か隠してる?)
ラウルスは思ったが、それ以上は追及しなかった。
そして半年、
魔法制御の方も、求められているレベルは上がっていたが、他の訓練もできるように、早めに終わらせることができるようになってきた。
その空いた時間に、ラウルスは師匠に言った。
「師匠、まず初級の魔法を覚えたいです」
するとリリアは、首を振った。
「火の玉はいいけど、初級の魔法はまだダメね」
「えっ……?」
「まだ基礎ができていないから。でも――」
彼女はそう言って、手のひらに火の玉を浮かべた。
「火の玉の使い方の訓練は教えてあげる」
それから、また毎日が始まった。
火の玉を出すとき、昔はひとつだけだった。それが今では、10個も同時に出せるようになっている。しかも、その威力も格段に上がっていた。
「師匠、見てください!」
「ミラー様、流石です。もっと魔法を極めましょう」
リリアはそう言って、優しく笑った。
その言葉が、ラウルスのモチベーションをさらに上げた。
そして、さらに半年。
師匠からは、初級の全てを教わった。
だけど、ラウルスはまだ火の玉の訓練を続けていた。
「なぜ、初級を全部覚えたのに、まだ火の玉なんですか?」
ラウルスが尋ねると、リリアは静かに答えた。
「火の玉は、最もシンプルな魔法です。しかし、最も奥が深い。制御力、出力、数、速度……極めようと思えば、一生かけても足りない」
「そうなんですか……」
「ええ。ミラー様はもう、初級魔法使いとしては十分な力を持っています。でも――」
リリアは真っすぐにラウルスを見つめた。
「あなたはもっと上を目指せる。だから、基礎を疎かにしてはいけません」
ラウルスは深くうなずいた。
「わかりました。師匠」
――こうして、ラウルス・ミラーの修業の日々は続いていく。
魔法制御はさらに精度を増し、魔力量も1年前とは比べ物にならないほどに成長していた。
(クレア……今の俺なら、もし君に何かあっても、守れるかもしれない)
ラウルスは窓の外を見た。
そこには、まだ見ぬ未来が広がっていた。
それが、4歳の終わり頃の話だった。
まだまだ強くなれる。
まだまだ、遠い。
でも、確実に――前に進んでいた。




