終わりと始まり3
「どうしたんだ、2人とも」
「どうしたんじゃないですよ! バカなんですかオーマさん!」
「そうですよ! サラマンダーですよ、元素精霊ですよ!? ウィル・オー・ウィスプが雑魚に思える程の奴なんですよ!」
「……そう言われてもな」
放っておけば俺の家も……ナナの宿っていた場所も燃えかねない。
やるしかないんじゃないのか?
「火の加護を持った即応部隊が『出現前』に倒されたんです! 火の加護を持ってないタケナカさんに何が出来るっていうんですか!」
「それにオーマさん、魔力消費してますよね!? 万全でも危ないのに、何する気なんですか!」
「しかしな……」
「せめて明日! それまでにタケナカさんをサポート出来る体制を整えますから!」
「ちょっとミーシャさん!?」
「仕方ないでしょう! この人、止めてもこっそり行くタイプですよ!?」
良く分かってるじゃないか。いや、俺が読まれやすいのか?
ちょっと問題か……? いや、何考えてるか分からない男よりはナナからの好感度が高いかもしれん。
だが、どうだろう。こういうのは本人の意思を無視するのは問題だ。
相互理解は会話から……直接聞いてみるべきだろう。
「ナナ」
「へ? なんですかオーマさん」
「分かりやすい男は好きか?」
「いきなり意味わかんないです!?」
「君好みの男に寄せていこうと思うんだ」
「助けてミーシャさん! オーマさんが何かおかしいです!」
「大丈夫です! タケナカさんは私の知る限り、そんな感じです!」
「それも困るんですけど!?」
おかしい。何かを間違えたらしい。
俺の言葉が足りなかったのかもしれないな。
「すまない、ナナ。君を困らせてしまったようだ」
「困ったっていうか困った人っていうかですね」
「俺はただ、君が『何考えてるかすぐ分かる男』と『感情の読めない男』のどちらが好みか知って、君好みの男になっていこうと考えただけなんだ」
「……改めて説明されてもワケ分からないんですが、聞く程分かんない気がするから、これ以上聞くのはやめときますね」
……ううむ、相互理解とは難しいな。
「とにかくオーマさん、今日は休んでください。それから考えましょ?」
「だが……」
「そのくらいの時間はありますよね、ミーシャさん?」
「ええ。予測出現時間までは、およそ3日はあると思われます。あれだけの魔力量……顕現まで相当の時間がかかります。この計算は間違いないでしょう」
「ね? オーマさん。それからでも間に合います」
「すでに始まってはいるようですが、周辺住民の避難も進めていきます。人員の追加も要請中です。急いては事を仕損じる、ですよタケナカさん」
……なるほど、確かに2人の言う通りなのだろう。
ナナの事があるせいで、俺も少々昂り過ぎていたようだ。
これは猛省しなければならない。
「分かった。2人の言う通りだ……すまない。反省する」
だから、俺はしっかりと頭を下げる。
そう、その通りだ。周辺住民の避難が終わらないうちに俺が何かをすれば、当然被害が出る。
ナナの為を想うのであれば、それは当然回避すべきことであるにも関わらず……俺からはその考えがスッポリと抜けていた。
愛を言い訳に、俺は多大な犠牲を出そうとしていたのだ。そんな愛でナナを幸せにできるはずはない。
独りよがりのエゴ。相手を火傷させるだけの愛。そんなものは間違っている。
「俺は、自分の愛を間違えるところだった。ナナの為を語って、自分の為にやろうとしていた」
なんと醜悪な事だろう。そんな愛で何を為せるというのか。
俺は……サラマンダーと戦う前に、自分と戦うべきだったのだ。
「……ミーシャ」
「は、はい」
「俺は戦いに備えようと思う。準備が出来たら教えてほしい……それまで大人しく待機する」
「助かります。ウィル・オー・ウィスプを倒したタケナカさんは、現状で頼れる最高戦力です。可能な限り有利な状況で挑んでいただきたいと考えています」
「助かる」
そう言って、俺は部屋の中へと歩いていく。
……備えなければならない。
サラマンダーを……俺の愛の障害を、打倒するために。




