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41話

「た、大変ですぞまだら殿!」


「今度は何が大変なんだい?」


 まだらは部屋に飛び込んできた信三を見てややあきれる様に訊ねる。連日のように大変だと言ってやってくるのでまだらとて反応がおざなりになるのはしかたがなかった。


 信三はそんなまだらの反応にやや憤りを感じながらも自分の報告を受ければまだらも表情が一変するはずだと思い話す。


「愛宕様が……」


 話しだそうとした信三だったがその先の言葉を言おうとして言葉に詰まる。報告しなければならないとわかっていてもそれを口にしたら本当にその事実を受け入れることになると思うとどうしても口に出せなかった。


「愛宕家の当主がどうかしたのかい?」


 言葉に詰まる信三にまだらが先を促す。


「……愛宕様が……ひより様殺害の罪で殺されました」


「……ふうん、そう」


「そう……ですと! それはどういうことですか!」


 まだらの素っ気ない反応に信三は腹に据えかねたようで声がやや荒くなる。


「愛宕様だけでなく九十九殿も一緒に殺されたのですぞ」


「大和も? へー」


「へー! ではありませんぞ! 愛宕様がひより様を殺害するはずがありません! 間違いなく弾正が殺めたに違いありません! それを全て愛宕様に擦り付けようとしているのです。こうなったら仇討をするしかありません」


「やれやれ、何をそんなにかっかしているんだい?」


「まだら殿こそどうしてそんなにのん気にしていられるのですか?」


「何でだって? それは僕もその情報ぐらいとっくに知っていたからさ」


 まだらは両手を広げて肩をすくめる。


「それならばなおさらのん気にしていられるのですか! 仇を討ちたいと思わないのですか」


「仇討ね。そんなことをしても無駄死にするだけだよ。敵もそのことを考慮して警備を厳重にしているだろうからね」


 愛宕家の当主の死亡を発表すれば愛宕家に仕える人間がどう出るかなど火を見るよりも明らかだ。弾正がそれを見逃すとは思えない。むしろ好機だと思い自分にあだなす人間をハメて始末するはずだとまだらは読んでいた。


「無駄死にだろうが構いません! 愛宕様をみすみす殺されたとあったらもう生きていく意味などございません。他の者達も愛宕様が殺されたと知ると仇討ちの準備に動いています」


 亜希を殺され腹をくくった信三は命を捨ててでも弾正に一矢報いるつもりのようだ。


 まだらはそれをみてため息をはく。


「まあ落ち着きなよ。殺されたというが君達は愛宕家の当主の死体をその目でみたのかい?」


 キッと目を細めるまだらに信三は少したじろぎながら答える。


「い、いえ。それがどうかしたのですか?」


「それならどうして二人が死んだと言えるのさ? 普通に考えればおかしいと思わないかい? この国の当主を殺しておいてさらし首すらないのはなんでだい?」


「た、確かに……」


 言われてみて信三は初めてそのことに違和感を覚える。亜希が殺されたと聞かされて冷静さを欠いていた。


 普通ならばそれだけの重罪を犯したのならさらし首にしたり見せしめにするはずだ。それをしていないということは……。


「愛宕様は生きている……ということでしょうか?」


「絶対とは言わないけどね。向こうが罪人を見せしめとして使わない理由として考えられるとしたら死体の原形がなくなるほど損傷がひどいか、もしくは生きているか、それか逃げ出されたかといったところだろうか」


「逃げた! つまり愛宕様はひより様をつれて逃げたかもしれないということですか!」


「あくまで可能性としてだけどね。あの鉄壁の守りの城を抜け出すのは普通じゃ難しいだろうけど大和ならなんとかやってのけるかもしれないからね」


「……九十九殿をそこまで信用しているのですか」


「信用? 違うさ。僕は彼に期待しているんだ。それぐらいのことをやってのけてくれないとこれから先困るからね」


「……は、はぁ?」


 これから先とはいったいどのことをさすのだろうかわからず首を傾げる信三。


 まだらはそんな信三のことなど意に介さず話を続ける。


「仮に大和が逃げたとして大和がどこに逃げたんだろうね? いや、正確にはどうやってあの守りの厳重な城から逃げたんだろうね?」


「普通には……無理ですからね。第三者の手を借りた……とかですか?」


「なるほど。けど、その可能性は低いんじゃないか? あの城の警備は弾正の手の者達で固められていたんだ。協力者になってくれる人物がいたのなら君らはもっと早く愛宕家の当主の救出に動いていたはずじゃないか?」


「……そうですな。今城の警備を任されている人間は弾正の手の者ばかりで我々に力を貸す人物には心当たりはありません」


「となると大和達は人に頼らず城から脱出したということになる。あの城には城主を逃がすような抜け道のようなものはないのかい?」


「……いえ、さすがにそこまでは我々には知らされていませんので。ですが愛宕様ならもしかしたら……」


「知っているかもしれないのかい?」


「おそらく。愛宕家はこの天竺城を作るに携わっていたのでもしかしたら……」


「そうかい。なら大和達はその抜け道を使って脱出したわけだ。あとはどこにいったかわかればいいんだけど……」


 と言いまだらは大和がどこに逃げのびたのか推測していると、不意に部屋の戸を乱雑に開け放たれる。


「まあああああああああだあああああらああああ!」


 呪詛のような言葉を言いながらやってきた栞那の顔を見てまだらはめんどくさそうに言う。


「やれやれ、厄介なのが来たな」

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