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40話

 俺が目を覚ますと見知らぬ天井が視界に入って来た。


 こっちの世界に来てからこういうことが多い気がするな。まあいい。ゆっくり休んだおかげで身体の調子は良さそうだ。


「おや、お目覚めですかい?」


 俺が起き上がると声をかけてきたのはこの家の主である老婆だ。


 海に飛び込んだ俺達はあのまま海流に流されてこの家の近くの海岸に流れ着いたところをこの老婆に拾われた。


 聞けばこの老婆の家は代々この辺りに住み海から人が流れてこないか監視するのが役目だったらしい。今はその役目自体がなくなってしまったみたいだが。


 元々は国の方でそういった役目を作っていたみたいだけど海を監視するだけのために碌を与えるのは予算の無駄ということで弾正によってバッサリと切られてみたいだ。


 それでもこの老婆は昔からやっていた習慣が抜けきれずたまに海岸を訪れて海を監視しているらしい。そしてちょうどその時に俺達が流れ着いたというわけだ。


 もしかしたらあの天竺城を作った明石って人物は海流の流れを読んでここに流れ着くことを最初から計算していたのかもしれない。万が一城が落ちた時の脱出経路としてあの海流を使って城を脱出するために。


 あそこの海流は流れが速いし海に落ちたら人を探すのも一苦労だろう。それにわざわざわ自分が荒れた海流の海に落ちて探すことなんてする人間なんていないだろうからあそこの海流がこの場所に流れるなんて普通はわかるはずもない。


 亜希はもしかしたらこの脱出経路のことを知っていたのかもしれないな。だから俺に海に向かう様に指示を出したのかもな。この老婆も亜希のことを知っている様子だし。一方の弾正はここのことは知らないはずだ。知っていたら切り捨てなどはしないはずだから。


「俺のことよりも他の二人の具合はどうだ?」


「愛宕様は衰弱がひどいですが峠は越えたようでなんとか命に別状はなさそうです。目を覚ますには今しばらく時間がかかると思いますが」


「そうか」


 地下牢に閉じ込められて衰弱していた亜希だったけど、どうにか助かってよかった。あの海流が暖流だったみたいでそこまで冷たくなかったのも大きい。


「ですがひより様は……」


「あいつか……」


 俺は海に飛び込む前のことを思い出す。


 弾正はひよりを殺そうとした。この国の当主だろうと関係なく。それなのに周りにいた家臣達は味方になってくれず、みんな自分を見限ったと知らされたのだからショックは相当大きいはずだ。大きな外傷はなかったとはいえ心の傷は大きいかもしれない。


「そんなにひどいのか?」


「実際に見ていただいた方がいいかと」


 そう言い老婆は俺をひよりが休んでいる部屋に案内する。


 一応この老婆にはここに流れ着いた経緯を説明してはいたけどこの国の当主の部屋にそう易々と案内をしても大丈夫なのだろうか。


「こちらです」


 そんなことを思っている間にひよりが休んでいる部屋までやってくると老婆は戸を開いて部屋に招き入れる。


「……」


 部屋に入ると部屋の隅っこに布団に包まりながら虚空を見つめるひよりの姿があった。


「おい」


「……」


 俺が声をかけてもひよりは返事もしない。頬をペチペチと叩いてみるが反応は一切ない。


 心ここにあらずって感じだ。


 これは確かにヤバいな。


「目が覚めてからずっとこんな感じでして。食事にも手を付けない状態なんです」


 言われてみると部屋の真ん中のあたりに食事が配膳されているが手を付けた様子はない。


「いかがいたしましょうか?」


 いかがしましょうかと言われてもな……。俺は精神科医でもないわけだしこんな時どうしていいかなんてわかるわけがない。


「とりあず様子を見るしかないんじゃないか?」


 こっちが下手に何かして自殺なんてことになったらたまったもんじゃない。今は落ち着くのを待つのが一番いいんじゃないだろうか。


「それに、もしかしたら腹が減ったらメシを食うかもしれないし」


 腹が減って食べてくれるのならいいが、食べてくれないとなると困ったことになるな。


 拒食症なんてなったら手も付けられないからな。点滴なんて便利なものがあるわけじゃないし食べなかったら衰弱死することになる。


 そうなったら無理やりにでも食わせないとな。


「そう……ですか」


 老婆の方も渋々と言った感じで納得する。この国の当主がこんな状態なので心配するのはわかる。


 だがひよりのことも心配だが今はそれよりも心配なことがある。


「天竺城の方がどうなっているかだな」


 弾正のやつはひよりを俺達もろとも殺そうとしていた。


 つまり今頃あいつはひより殺しの罪を俺達に押し付けるために動いているはずだ。いや、もうすでにそのことを大々的に発表しているかもしれない。


 俺達が死んでいることになっているのならいいけど、生きていることにして手配書なんかを回されたら天竺城の城下町を歩くのは危険だ。


 しばらくここで大人しくしていた方がいいかもしれないな。


 亜希のことも心配だし。亜希が目覚めるまで待っていた方がいいかもな。


 ただ、そうなると今城下町がどんな状態なのか情報が欲しいな。まだらとかにも連絡した方がいいかもしれない。だけどこの屋敷にいるのは老婆一人だけみたいだからな。どうするかな……。


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