寺子屋に死神
「ん、そろそろいい頃合いかな」
「ん?何処かで待ち合わせかなんかだったのか?」
「寺子屋が空くまでの時間つぶしだったんだよ」
本を閉じ、元の場所にしまう。
魔理沙は…自分で持ってきた本に視線を落としながら「ふーん」と頷いていた。
「慧音さんに用事…というか訪ねたい事があってね」
「そうだったのか…竹林にでも行くのか?」
「よくわかったね…」
「んー、というかそれくらいしか思いつかなかったんだよなぁ。慧音に用があるってのは…で、なんで竹林に?」
「式の訓練をしてて、まぁ…その過程で怪我もするんだが…」
「ああ、その治療に使う薬が切れたのか。式神ってことは…あの犬耳の」
「狼なんだけどな。じゃ、また今度」
「ああ、じゃあなー」
「また来てくださいねー」
寺子屋に行く途中で数人の子供とすれ違ったので、おそらく今日の授業は終わっているはずだ。
「…妹紅さんも一緒に居たら二度手間にならないんだけどなぁ」
ぼやいているうちに、到着した。
…話し声が聞こえるが、片方は男性のようだ。
「すいませーん」
「…ん、黄か?」
「ふむ…君が最近来た…紫の従者か」
その男性は二十代くらいの顔立ちなんだけど…髪が真っ白だ。しかも、幻想郷では殆ど見ないような黒いコートを羽織っている。そして…紫様を呼び捨てにしていた。
「はい、八雲黄です。…慧音さん、こちらの方は…」
「ああ、彼は…虚空。『林檎の死神』と言ったら通じるか?」
「あー、ちょっとだけ聞いた事があります。林檎を齧りながら散歩をしているって」
「ん、まぁ…その噂の本人だ。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
死神だというけれど、普通に接することもできるみたいだ。でも…
「…紫様を呼び捨て、ですか」
「あー…そのくらい付き合いが長いってこった。幻想郷ができる前から顔馴染みだしな」
とんでもない長さの付き合いだった。
「…そうだ、黄。何故ここに?」
「永遠亭に行きたいので、妹紅さんがどこにいるか場所を教えてもらおうと思いまして」
「あー…今日はちょっと厳しいかもな…」
「…ああ、あの日か」
慧音さんと虚空さんの表情で、何が起きているかは大体わかってしまった。
…輝夜さんと、闘う日なのだろう。
「うーん、困ったな…」
「…一応、俺も案内できる。お前が良ければ案内してもいいが…」
「あ、じゃあお願いしてもいいですか?」
「…ああ、わかった」
道中でどんな話が聞けるのかな、と少し楽しみだったり。




