異世界の空
「どうですかルダージュ。空から見る学園都市の光景は」
「……」
「あそこの大通りが見えますか? あの道を辿っていくとすぐそこに私の実家があります。私の家は飲食店を営んでいるので学園に入学する前はよくお手伝いをしていたんですよ」
「……」
「その向かいには茶々ノ樹亭という甘味処があり美味しいお茶とお菓子を売ってます。よくそこのおばさんにおまけをしてもらいました」
「……」
「そして……あの奥の門を見てください。あそこを潜り道沿いをずーっと進むと王都に着きます。王都アリアデュラン。城塞都市としても有名で、いつか私たちが住むことになる都市です。そのうち観光がてら下見でも……って、ルダージュ? 聞いてますか?」
「……あ、あのさ、セルティア」
「はい?」
「そ、そろそろ降ろしてほしいかなぁ、なんて」
「え? まだ飛んだばかりじゃないですか。それにどうしたんですか? ルダージュにしては歯切れが悪いですね」
「いや、あのね? 実は俺もついさっき知ったんだけどさ――」
「はい」
「俺、高いとこダメみたい……」
ルダージュはそれだけ言うと、また恥も外聞もなくセルティアにしがみついた。
「……………………ふぇ?」
セルティアが可愛らしく動揺した声を上げる。そこには喜色を含んだ恍惚な表情も見え隠れしていたが、眼下を覗くルダージュにはそんなことを気にしている余裕などはない。
ここは異世界の空。夕焼けに染まる魔導学園都市を一望できる箒の上。学園の屋根を優に超えるほどの高高度の場所である。
なぜルダージュがこんな状況になったのか。
それは模擬戦を終え演習場を後にした時、セルティアがミリアに「約束通り飛行魔法の練習をしましょう」と提案したのが切っ掛けだった。
セルティアに「ルダージュは部屋で休んでますか?」と模擬戦の疲れを踏まえた労いの言葉を頂いたルダージュだったが、『飛行魔法』という魅力的なワードに興味を惹かれ、そのまま2人と一羽(柱)の後を付いていくことにしたのだ。
案内されたのはサッカー場のような芝生が敷き詰められた学園の校庭の一画。他の学園生もちらほらと見うけられ、精霊と戯れたり口を開け爆睡したりと思い思いの時間を過ごすような場所で、彼女たちの訓練は始まった。
最初はルダージュも魔女のように箒で空を飛んでいる2人の姿を見て感動したり、落ちそうになったミリアを見てハラハラしたりと見物人として楽しんでいた。だが、人間の慣れとは恐ろしいもので、人が自由に空を飛ぶことに見慣れてくるとだんだんと飽きが襲ってきたのだ。スポーツを練習する姿より試合を観戦したほうが面白いように、何かしら見どころがないと手持無沙汰になる。
セルティアはそれを感じ取ったのだろう。
ルダージュの元まで舞い降りた彼女は手を差し伸ばし「空へ、お散歩に行きましょう」と誘った。
もちろんルダージュは二つ返事で答えた。断るなんて選択肢は以ての外であり、そもそも魔法で空を飛んでいる2人に憧れを抱いたことも否めない。
だが、それが間違いだった。
箒に腰掛けるように座っているセルティアに手招きで隣を促され、ルダージュは箒に跨る様に座った。
「危ないので、しっかり掴まっててくださいね」
……え? どこを? と、疑問符を浮かべる余裕すらなかった。
「ふふ、精霊さんとせっかくの空中遊泳ですから。私、本気を出しますね」
嫌な予感がした。だから止めようとした。でも、何もかもが遅かった。
爆音を鳴らし飛翔するセルティアたち。地面と直角に昇っていく箒。悲鳴を上げ夢中でセルティアの腰にしがみつくルダージュと「楽しいですか!?」と無邪気に問いかけてくる彼女。
喜んでいると勘違いしたのか、セルティアはジェットコースターのように急降下すると地面すれすれの低空飛行、バク転、三回転捻り、スクリュー蛇行と次々に華麗な技を決めルダージュを仕留めようとする。
そして一頻り学園を周り出来上がったのが、生まれたての小鹿のようなルダージュだ。
思い出に浸り、ルダージュのために街の解説をしてくれていたようだが、それどころではない。今までは建物の中から外を見下ろしたときは何も感じなかった。だが、箒という不安定な足場とも呼べないところから見下ろす地面、地上というのは妙に不安を煽る。まるで吸い込まれそうな感覚。自ら落ちてみたくなる衝動。眩暈。「これが高所恐怖症というやつなのか?」という自問自答とともに、セルティアの危険飛行にただ酔っただけなのではないかという結論に至る。
「高いところ苦手なんですか?」
「……たぶん」
「安心してくださいルダージュ。この箒には私の魔法で力場を創っているのでとても安全です。乗った瞬間から落ちたり投げ出されたりする心配はいりません」
力場が無ければとっくに落ちていてもおかしくない飛行だ。そういえばスピードが出ていたのに重力や風圧もあまり感じなかった。さすが魔法、なんでもありだ。試しに箒の上に立ち上がりセルティアと同じように腰掛けるように座ってみたがバランスを崩すこともなく何の問題もなかった。
「数種類の魔法を掛け合わせているのでそこそこ難易度の高い魔法なんですよ」
飛行魔法と一概に言っても、ただ飛ぶだけではなく契約魔法と似て複数の魔法を同時使用しなければならない。
だからミリアも苦戦している。
「いやああああああ! 止めてえええええ!」
『主よ! 魔力を込めすぎだ。霊鳥である我の召喚士ならもっとスマートに飛べぬのか!』
下ではミリアが箒を旋回させて目を回している。ヴァルトロはそれに追従するようにサポートをしていた。
彼のようにルダージュも見習わなければならない。こんな不甲斐ないところを見せていてはセルティアを支えることなんてできない、と気合を入れる。
『飛び方はスマートに! 胸は大胆に! 主よ、その円運動はパイか!? おパーイを表しているのか!?』
「ううぅ~ヴァルトロがなんて言ってるかわかりません。ルダージュさーん! 訳してくださーい!」
「俺もわからん!」
さて、なんやかんやでルダージュは平静さを取り戻してきた。たぶんヴァルトロのおかげなのだが素直に感謝はしたくなかった。
「落ち着いてきましたかルダージュ」
「ああ」
「すみません、怖がらせてしまって」
どちらかというと気分が悪くなっただけのような気がした。見栄が邪魔して怖かったというのも恥ずかしい。
「ここまでの反応は予想外でした……」
どうしたものかと言葉を選んでいると、セルティアがそんなことを言ってきた。
(……ん? ちょっと待てよ。ここまでの反応は予想外? じゃあ少なからず怖がる反応は予想してたってことか? あれ? そういえば飛ぶ直前に「危険だから掴まってて」とか言ってなかったか? でも力場があって安全なんだろ?)
矛盾に気が付いたルダージュは「もしかして!?」とセルティアを改めて見る。
「なぁ、セルティアさん」
「なんですか精霊さん」
ノリがいい。
「もしかして俺を驚かせるためにわざとあんな危険に見える飛び方をしたのか?」
笑顔が固まった。
冷や汗までかき始めた。
「そ、そんなことないですよーう」
棒読みだった。とてもわかりやすい。
ルダージュは箒を掴んでいた手を彼女の脇腹にセットすると無心で指を動かし、くすぐりの刑を執行した。
「きゃっ、る、ルダージュ! そ、それは反則です! やめてください!」
くすくすと身を捩り箒の上で笑い転げ逃げようとするセルティア。
だがルダージュはやめなかった。寧ろ逃げ場がない箒の上では彼の独擅場だった。
「ちょっ! ほ、ほんとにダメですって、わ、わたしよわいんですから……」
太ももが擦れる音、着くずれする制服、火照る頬、熱い吐息に少し涙目の蒼い瞳。
「ルダージュ……」
あ、やりすぎた。それにこれは……と思った瞬間、自分が無心じゃなくなったことを悟り手を止めた。
「で? 本音は?」
「ルダージュを驚かせたくて……」
「それだけ?」
「あわよくば抱き着いてもらおうかなぁと」
「……」
「あ! なんですかその呆れ顔!」
「いや、だって、ね?」
好きな娘とお化け屋敷に入る男の心理みたいなことを、セルティアのような美少女が口にするのだ。聞かされた方としては真顔になるしかない。
「いいじゃないですか! 精霊さんを抱きしめて飛ぶか、抱きしめられながら飛ぶか! 憧れだったんです!! あんな風に!」
と、セルティアが下方を指さす。
そこには腰の辺りを鉤爪で摘ままれ宙吊りになったミリアがいた。おそらく箒から投げ出されヴァルトロによって救出されたのだろう。まるでUFOキャッチャーだ。
「あれがいいの?」
「も、もうちょっとロマンチックな飛び方がいいです」
さっきまで暴走していた者の言い草ではないが、同意見だ。傍からみるとつままれミリアとパタパタと一生懸命羽を動かすヴァルトロがなかなかどうして可愛かったりするのだが、ルダージュが同じ立場になったらただのコースアウトしたマ○カーの選手である。
『まったく、世話の焼ける主だ』
「うぅ~すみませんヴァルトロぉ。私、重くないですか?」
『ナイチチがいらぬ心配をするな。我としてはもっと重量感が欲しいところだ。この軽さ、今後の成長に不安を覚えるぞ』
「ルダージュさーん!」
「(胸が)軽すぎて主人の身体(の成長)が心配だってさ!」
現実は残酷だ。
「ヴァルトロは優しいですね! 私頑張ってご飯いっぱい食べて健康的な体になります!!」
『うむ、全ての栄養が胸に昇華されることを祈っているぞ!』
当の本人たちが満足しているんだ。余計なことは言うまい、とルダージュは心に誓った。
「ルダージュ、さっきのこと怒ってますか?」
ミリアたちの掛け合いを眺めていたルダージュにセルティアが問いかける。
「怒ってはいないよ。けど……」
「けど……?」
「……」
「な、なんですか? 黙られると不安です」
「いや、本当にセルティアは精霊が好きなんだなぁと思っただけだよ」
一緒に風呂に入りたいとか空を飛びたいとか、精霊との夢をたくさん持っている彼女といると本当に好きなんだな、と実感する。
だがその言葉は唐突過ぎたのか、一瞬きょとんとした表情を見せる。
そして悪戯っ子がいいことを思いついたとばかりに破顔し身を乗り出してきた。
「ん~ルダージュ、あなたは少し勘違いをしていますよ」
「え?」
「私は精霊が好きです。生まれた時からノイシス様に加護を頂き、この学園にも通うことができました。子供のころから精霊に纏わる絵本や童話を時間を忘れては読み漁り、よく両親には店を手伝いなさいと叱られました」
「……」
「学園に入学した時はやっと私の精霊に出会えるのかと歓喜して、にやける顔を抑えることができませんでした。……といっても三年間魔法使いとして修業しなければならないと説明され絶望しましたけどね」
たはは、とセルティアが乾いた声で笑う。
ルダージュはそれを黙って聞いていた。相槌を打つこともなく笑顔で返事をするわけでもなく、彼女に目を逸らすことなくただ黙って次の言葉を待っていた。
「そして今日、召喚士進級試験。精霊を召喚して魔法使いが召喚士となるこの日。私はこの日を待ち望んでいました。私の、私だけの精霊に出会える記念日を」
セルティアの手がルダージュの頬を包む。それはちょうど契約したときのように紋様が重なる触れ方だ。
「私は精霊が好きです。でもルダージュのことはもっともっともーっと! 好きです! 大好きになるって確信してます! 私の召喚獣はルダージュだけ、記憶喪失とか、人型とか、魔力が弱いとか関係ありません。私の魔法で召喚されたのがルダージュだったから、ルダージュがあなただったから私は精霊が大好きなんです!」
笑顔が美しかった。夕日が沈み夜になろうというのにもう一つの太陽がルダージュを照らし、そして影を落としていく。
直視できなかった。眩しくて見ていられなかった。
この少女に嘘をついて近づいている自分が矮小で卑劣で、『人間だとばれたらセルティアにも迷惑がかかる』『精霊を召喚できなかったと知ったら彼女は悲しむ』と嘘を吐き続ける大義名分を探して、掲げようとしていることに嫌気が差す。
だからついルダージュはその感情を吐露するように「ごめん」と口に出してしまった。
「……あれ? もしかして私、振られてしまいましたか?」
「……へ?」
「ルダージュには私の精霊への愛を深さを知ってもらいたかったんですけど……重すぎましたか?」
「……え? あ、いや、今のは別にそういう意味で言ったわけじゃなくて――」
「う、うっ……大好きな精霊さんに引かれてしまいました。し、しかも真顔で謝罪されて……うっ、もうダメです。私はパートナー失格です」
先程までの雰囲気は霧散し、セルティアが泣き真似を始めた。それは今日、2人が初めて出会ったときの言葉を捩った言い回しだった。
あの時は本当に泣いていたのに……なかなか高度な悪ふざけだ。
「セルティア泣き止んでくれ、俺はどうすればいい?」
「う、ぐすっ、じゃあルダージュが私に本当に「ごめん」と謝らないといけない理由を教えてください」
「……!」
ドキリとした。まさかそんなことを頼まれるとは思ってもみなかったからだ。
「ルダージュはよく顔に出ますから、時折、思い詰めて何か考え事をしていたのはわかります」
「……そうか」
この返しはある意味肯定してしまったと言っていいだろう。セルティアもそれを察し一時の沈黙が下りる。
それを破ったのはやはりセルティアだった。
「なーんて、冗談です」
「え?」
「ルダージュが話したくないというなら無理に聞こうとは思っていません」
「セルティア……」
「それに、私もルダージュにまだ言えないことがあります。それを言ってしまうともしかしたらルダージュに嫌われてしまうかもしれないので、怖くて言えない隠し事です」
セルティアの封の開かれない告白は続く。
「だからお相子にしませんか? 私もルダージュもお互いに秘密にしていることがある。でもそれっておかしなことじゃないと思うんです。私たちはまだ出会ったばかりなんですよ? 焦らず、少しづつ、教えあって互いのことを理解しあいましょう。私たちはパートナーなんですから」
「……!」
この少女はルダージュをあの地獄から救うだけじゃ飽き足りず、心の中で燻ぶっている蟠りすら取り払おうとしてくれる。
(俺はいったい何回この娘に救われれば気が済むのか、我ながら情けない)
でも、心は軽くなり、ルダージュはもう“嘘”を貫き通す覚悟ができた。
「ありがとうセルティア。実は俺、君に一つ隠し事をしているんだ」
「はい」
「でも、ごめん。それはまだ教えられないことなんだ」
「はい」
「いつか俺が……伝えるべき時が来たらちゃんと話す。全部話す。その時は最後まで聞いてほしい」
「はい。私も一緒です。いつか伝えたいと勇気が湧いたら、その時は最後まで聞いてくださいね」
「わかった。……でもその前に知っておいて欲しいことがある」
「? なんですか?」
「例えセルティアの秘密にしていることがどんな内容でも、俺はセルティアのことを嫌いにはならない。これは絶対だ。確信を持って言える」
「え? ルダージュに首輪を着けて散歩したいって言ってもですか?」
「……」
ちょっと引いた。間髪を容れず即答するんだもんこの娘。
「あ、あれ? ルダージュ遠くないですか? 心の距離が遠くないですか?」
「……セルティア、もしかして秘密にしてることって、それ……?」
「いやですね、勘違いしないでください。冗談です」
「そ、そうか」
真顔で言うもんだから本気になるところだった。
「ちょっといいな、とは今思いましたけど」
「おい」
「ふふふ」
セルティアはよく笑う娘だが、悪戯っ子のような小悪魔的な笑みが一番似合うような気がしてきた。
「俺は真面目に話をしているんだけど……」
嘘を吐いている張本人が不服を唱えている。「何様だよ」ってルダージュは自分をツッコミたくなった。
「それです、それ! ルダージュは真面目すぎるんですよ。いいですか? こんな空気になってしまいましたが私たちは互いに秘密を持っているだけです。それはごく普通のことで当たり前のことなんです。……というかこれ以上重い空気にされると私が言い出しづらくなるのでやめてください」
「お、おう、すまない」
「――では、ルダージュが私を嫌いにならない理由……その続きをどうぞ!」
「つ、つづき!?」
「はい! 続きです! それを知ることができたら私はとても安心できそうな気がします!!」
満面の笑みだった。おそらくルダージュが言いたいことをわかっていて聞いている、そんな顔だ。
「言いたくない」
年下の女の子に惑わされる男の図ができあがる。どうやら“彼”はどの世界でもそういう運命を辿るようだ。
「え~……なんだかルダージュ、そうやってそっぽを向くと副会長のマクセルにそっくりです」
「ぐはっ、あのツンデレを擬人化した男と同じだと? 待ってくれ。それは流石の俺でも聞き捨てならな――」
と、セルティアに訂正を求めようとしたところで「ぐぅう」という情けない鳴き声が響いた。
ルダージュの腹の虫だ。
「ルダージュ? お腹が空いたんですか?」
「……すまん」
「ふふ、謝る必要はないですよ。そういえばもうそんな時間ですね」
セルティアが学園の時計台に視線を移し時間を確認する。
「では行きましょうか」
「行くってどこに?」
「学園にある食堂ですよ。今日は私たち三年の進級祝いに精霊科の先輩方がパーティーを開いてくれるんです。入場条件は自分の精霊と同伴であること。ミリー! 飛行魔法の調子はどうですか……って聞くまでもないですね」
「ひどいです! これでももう一回乗る努力はしたんですよ!」
つままれミリアがプンスカと抗議の声を上げるが、彼女の箒が学園の施設の屋根に見事に突き刺さっており反応に困る。どうやったら直立することになるのか。しかも乗る努力とはつまり飛んですらいないということだ。
「はぁ、また今度練習をしましょう。ミリーそろそろパーティーの時間です。精霊の歓迎会でもあるのでヴァルトロに乗って移動してみてはどうでしょう?」
「派手な登場になりそうですねぇ、どちらにしろ私たちは注目を浴びそうなので関係ありませんけど、フフフ」
またミリアの変なスイッチが入った。よほど目立つことが嫌いらしい。
「ヴァルトロ、霊獣化して背中に乗せてもらえますか?」
『我は巨乳しか乗せたくないのだが……主の願いなら仕方あるまい』
胸にこだわりを持ったユニコーンが渋りながらも了承する。素直ではない。
『む? そういえば友に霊獣化を見せるのは初めてだったな』
「そうだな」
『ふっふっふ、しかと括目するがいい。我の美しさを!』
「――っへ? きゃああああああああああああああ!」
ヴァルトロがそう言うとミリアを頭上より高く投げ飛ばした。
霊獣化はいたってシンプルだ。体躯が数倍に膨れ上がり、間抜け顔が見る影もなくスタイリッシュになり、翼はサファイアのように蒼く美しく光り輝き、蒼剣が羽毛の合間から突き出ている。
「ひゃい!」
そこに、ぱふっとミリアを受け止めて霊獣化終了。どうやら背中は柔らかくできているようだ。
『やはり背中の感触がもの足りぬ』
いくらかっこよくなっても中身は同じである。
「ルダージュ、覚悟しといてくださいね」
「なにが?」
「人型精霊は物珍しいので確実に同級生や先輩方の玩具です」
「あ、あー……」
「ルダージュが食べる分は私が沢山確保しておきますから。今日だけは甘んじて受け入れてください」
「別のところで食べるという選択肢やセルティアが助けてくれるという選択肢は?」
「……私も自分の精霊の自慢をしたいんです。ダメですか?」
そういうことなら仕方ないとルダージュは覚悟を決めた。頬を赤く染められながらそんなことを言われてしまっては「わかった」と肯定することしかできない。
「セルティアの召喚獣として恥じない対応を心がけるよ」
「ふふ、ありがとうございます。でも夜は長いのであまり無茶をしては駄目ですよ?」
「ん? ああ、勿論だ」
「では、ミリー、ヴァルトロ、会場へ向かいましょう」
セルティアが何かを訴えるような視線を向けてくる。ルダージュは悟り、「しょうがないな」といった感じのパフォーマンスをしながらセルティアの身体に掴まった。
その後、感激したセルティアがスピードを出し過ぎて、ルダージュが空酔いしたことはもはや言うまでもないだろう。
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ちなみにパーティー会場ではセルティアの懸念通り揉みくちゃにされた。模擬戦を見た生徒にはヒーロー扱いされ、勝負を挑んでくる上級生もいた。学園で一番偉い生徒会総長という人からは「私のものにならないか」と口説かれたりもして大変だったがパーティー自体は楽しいものだった。
けれどこの時のルダージュはすっかり忘れていたのだ。模擬戦の前に交わした言葉と「夜は長い」という彼女の台詞の意味を。
パーティーも終わり、学生寮のセルティアの部屋に着いた時。
「さあ、ルダージュ。一緒にお風呂に入りますよ!」
「俺は急用を思い出したのでちょっと外に――ぐはっ」
「ふふふ、逃がしませんよ。相変わらず水が苦手なんですね」
「だからそういうわけじゃ――」
「でも駄目ですよ? 今日から私たちは一緒に寝るんですから。あなたが汚いままでは困ります」
「……は?」
「何を驚いているんですか? ここにはベッドが一つしかないんですから私たちで仲良く使いましょう」
「俺はそこのソファーでも全然問題ないので」
「却下です。それに模擬戦を頑張ったルダージュをナデナデするという約束はベッドの中でたっぷりとする予定だったんです」
「……」
「だから逃がしませんって! ふふ、ふふふ! ルダージュ? 観念して私に抱かれましょう?」
「早まらないでくれセルティア、俺は……」
召喚士に助けられ異世界にトリップした男は、精霊になり召喚獣になり、そして抱き枕になってその一日に幕を閉じるのだった。




