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プロローグ

数ある中からこの作品を選んでいただきありがとうございます。

この話は、短編小説を長編小説にしたものですが、ちょっと話が違う部分や話を盛っている部分もあるのでぜひ見ていただけると嬉しいです!


今回は結構長いかもです。

「――フランシスカ・アイゼンベルク! 貴様のような笑わない女など、我が王家の妃の座にふさわしくない! 今この場をもって、貴様との婚約を破棄する!」




きらびやかな魔法具のシャンデリアが眩いばかりに照らす、王宮の熱気溢れる大夜会。


満座の貴族たちの視線が文字通り一堂に集まるホールの中央で、私の婚約者である王太子レナードが、喉を枯らさんばかりの勝ち誇った声を響かせた。彼の脂肪のついた腕には、これ見よがしに男受けの良さそうな、いかにも守ってあげたくなるタイプの男爵令嬢がしがみついている。






呆然と立ち尽くす私の目の前で、まばゆい金色の光がふわりと弾けた。


光の中から現れたのは、手のひらサイズのとても可愛らしい金髪碧眼の美少年の妖精。




「涙を拭いて、フラン。失恋の傷を癒せるのは、男の愛じゃない。――大胸筋だよ」




……こうして、私の筋肉と愛が織りなす、新たな異世界奇譚が幕を開けたのだった。


 









話は、私がこの『フランシスカ』として世界に生を受ける前――いや、前世の最期にまで遡る。

前世の私の人生の幕引きは、なかなかにスリリングでかつ理不尽極まりないものだった。

当時の私の名前は、如月美優きさらぎ みゆ。どこにでもいる、ちょっとお人好しなだけの二十代の会社員だった。

その最期の日となる一日は、まさに私の人生における「最悪」をすべて凝縮したような時間だった。

私は、当時付き合っていた恋人の大輝だいきに、文字通り全身全霊で尽くしていた。

彼が「仕事が忙しくて自炊する暇がない」とこぼせば、栄養バランスを考えた手作りのお弁当を毎朝早起きして用意した。彼が「部屋の片付けが苦手なんだよね」と甘えてくれば、自分の仕事で疲れているのも忘れて、週末ごとに彼のマンションへ通っては健気に掃除や洗濯をこなした。

『美優は本当に気が利くし、将来いい奥さんになるよ』

その言葉を信じて、彼の喜ぶ顔が見たくて、ただそれだけで頑張っていたのだ。

しかし、現実はあまりにも非情だった。

ある週末、いつものように彼を驚かせようと、内緒で合い鍵を使って部屋に入った私の目に飛び込んできたのは、見知らぬ若い女性と、私の手料理ではないデリバリーのピザを囲んで親しげに笑い合う大輝の姿だった。

部屋の隅には、私が何時間もかけて磨き上げたはずのフローリング。その上で、私の知らない女が我が物顔でくつろいでいる。

頭が真っ白になり、持っていた買い物袋が床に落ちて、中のトマトが虚しく転がった。

修羅場の最中、浮気が発覚した大輝は、悪びれる様子もなく、むしろ邪魔者を払うかのように私を冷ややかな目で見下ろして言ったのだ。


「……はぁ。美優、勝手に入ってくんなよ。っていうかさ、お前、なんか重いんだよ。毎日毎日お弁当だの掃除だのって、ぶっちゃけ母親面されてるみたいで息が詰まるんだよね。もっと楽に、お互い楽しく付き合える可愛い子がいいわ。だからさ、もう終わりにしよう」


私のこれまでの努力や、彼を想って重ねてきた時間は、すべて「重い」という身勝手な四文字でゴミ箱に投げ捨てられた。

怒りと悲しみ、そして自分への情けなさで視界が涙で歪む。


「都合のいい家政婦扱いだったってこと……!?」


怒鳴り散らしたい衝動を必死に抑え、私は彼の部屋を飛び出した。

泣きながら夜の街を走り、とにかくこの胸を切り裂くようなモヤモヤと怒りをどこかにぶつけたくて、気がつけば私は遊園地の絶叫マシン乗り場へと向かっていた。

(男に尽くすなんて、もう絶対にやめる。これからは自分のためだけに生きるんだから……!!)

そんな固い決意を胸に、時速百キロで急降下するフリーフォールに乗り込んだ私の人生が、まさか直後に「神様の起こした風」によって強制終了させられるとは、この時の私は知る由もなかったのである。







深い絶望と怒りに震えながら、私は人生の憂さ晴らしのために一人で遊園地へと向かった。選んだのは、その遊園地で最も恐れられている絶叫マシンの王様――垂直落下型のフリーフォールだ。

シートにガッチリと固定され、地上の人間がアリの頭ほどにしか見えない高さまでじわじわと巻き上げられていく。失恋の傷も相まってハイになっていた私は、時速百キロ以上の猛スピードで地面に向かって真っ逆さまに落下した。

本来なら安全にブレーキがかかるはずのその刹那、凄まじい爆風のような衝撃と共に、私の視界は完全にブラックアウトしたのだった。










次に目を覚ました時、私の視界を埋め尽くしたのは、抜けるような青空ではなく、足元まで一面に広がる真っ白な雲の絨毯だった。

まるで高級な羽毛布団の上に寝転んでいるかのようなフカフカした感覚。おそるおそる上体を起こすと、そこには神聖なオーラをこれでもかと放つ、二人の男女が立っていた。

一人は、彫刻のように整った顔立ちをした、いかにも「偉い神様です」という風貌の男。

もう一人は、流れるような銀髪をなびかせた、この世のものとは思えないほどの超絶美女――女神様だった。

しかし、その神々しいビジュアルとは裏腹に、二人の間に流れる空気は最悪だった。


「いや~ごめんね! 悪気はなかったんだよ悪気は! まさかあんなことになるとは思わなくてさ!」


男の神様は、神聖な法衣をまとっているくせに、頭をボリボリと掻きながら冷や汗をダラダラと流している。完全に「やらかした」人間の顔だ。

その隣で、美しい女神様が鬼気迫る表情――文字通り、般若のような恐ろしい形相で男の胸ぐらを掴みかねない勢いで詰め寄っていた。


「ちょっと、ちゃんと謝りなさいよこのバカ神! 本当にごめんなさいね。この人が定例の神会議に全然来ないから、私がわざわざ『サボってないで来なさい!』って天界の境界線まで直接言いに来たら、もう……っ!」


「いや~だってさぁ。アミリアが普段はツンツンして冷たいのに、わざわざ俺を迎えにきてくれたのが嬉しくてさ。テンション上がって『おーい! アミリアー!』って大きく両手をブンブン振っちゃったんだよ。そしたら、その時に起きた神風が気流を狂わせちゃって……君が乗ってたマシンのワイヤー、一瞬でふっとばされちゃった(笑)」


「(笑)じゃないわよ!! この筋肉脳!! あなたのその無駄に鍛え上げた広背筋から繰り出されるスイングがどれだけの破壊力か、少しは考えなさい! 今度からお迎えは高位の精霊に頼むわよ!」


「ごめんってばー! だからそんなに怒らないでよアミリア、次も君が迎えに来てよ〜。アミリアの怒った顔も可愛いよ?」


「誰がバカ神のお迎えなんか行くもんですか!」


天界を揺るがすレベルの、実に見苦しい神々の痴話喧嘩。

自分が死んだ理由が「神様のノリノリの両手ワキワキ運動による風圧」という、あまりにも理不尽かつアホらしすぎるものだと知った瞬間、私の頭の中で何かが限界を迎えてプチンと大きな音を立てて弾けた。


「あの~……私ってここで一体、何を見せつけられてるんですか!?」


私の魂の底からの大絶叫が、真っ白な空間に響き渡る。


「あっちの世界では! 恋人に二股かけられた挙句に『お前重いんだよ』ってゴミみたいに振られて! そのボロボロの傷心を癒やすために勇気を出して乗った絶叫マシンで! 神様のイチャイチャの巻き添えの爆風で墜落死したんですか!? 現世でも浮気されて苦しんで、死んだ後まで神のバカップルロードを見せつけられるんですか! 私のライフはもうゼロよ!!」


私の気迫に押されたのか、女神――アミリア様がハッと我に返り、頬を赤らめながら哀れみと同情に満ちた目をこちらに向けた。


「ご、ごめんなさいね、本当に……。え~と、如月美優さんだったかしら? あら……? あなた、前世のカルマの履歴を見ると、随分と理不尽で尽くし損な大変な人生を送ってきていたのね。同情するわ……」


「そ、そうなのか? 浮気男に振られた直後に俺の風で死んだのか……うぐっ、さすがに良心が痛む! よし! だったらお詫びに、俺が管理している乙女ゲームみたいなファンタジー世界に転生させてやろう! そこならお貴族様だし、今度こそ勝ち組イージーモードだぞ!」


「ちょっと待ってください! 勝手に話を進めな――」


「確かにそれだけでは、俺の起こした神風の威力(時速300キロ相当)へのお詫びとしては足らんかも知れんな。よし、特別だ! 俺が直属で従える最高位の精霊たちの中から、どれでも好きなやつを一つ、契約者として選ばせてやろう! どれがいい!?」


どこまでも人の話を聞かずに自分のペースで進める独走状態の神様に、アミリア様が深く深い、地響きのようなため息をついて私に目配せをした。


「……はぁ。ごめんなさいね、この人、脳みそまでプロテインでできてるから本当に他人の言うことを聞かないの……。でも、あっちの世界はちょっと身分社会でドロドロして大変だから、今のうちに強力な味方ガードマンを選んでおいた方が身のためよ?」


差し出された、淡く光る精霊のホログラム画面を半眼で睨みつける。

画面には、周囲を威嚇するように燃え盛る炎のトカゲや、絶対零度の冷気を放つ巨大な氷の鳥など、いかにも「私が最強です」と言いたげな、ド派手な魔法タイプの精霊たちがずらりと並んでいた。

だが、私の目は、画面の最下層の、さらに一番隅っこでちんまりと正座している一つの小さな精霊に釘付けになった。


「……ん?」


ちっちゃくて、背中には昆虫のような透き通る羽が生えている。

しかし、その体は他のどの巨大な幻獣タイプの精霊よりも、背筋がピンと伸びており、体幹の軸がミリ単位すら一切ブレていない。

そして何より――まるでお人形さんのように整った、金髪碧眼の顔の造形が恐ろしく綺麗だった。


「それじゃあ……この子にします。金髪碧眼で、なんか王子様みたいだし、将来イケメンになりそうだから。目の保養にします」


「おお、そいつを選ぶか! 見る目があるな! そいつは『肉体言語』の極みに達した精霊だ。それじゃ、そいつと仲良く、異世界を泥臭く(マッスルに)生き抜くんだぞ!」


「っえ? ちょっと待ってくださ――肉体言語って何ですか!? この可愛い妖精、魔法タイプじゃなくてまさかの物理特化型なんです!?」


驚愕する私を無視して、神様はすでに送り出す準備を始めようとしている。慌てる私を見かねて、女神様が横から割って入ってくれた。


「ちょっとバカ神、この子の話を聞きなさいよ! ……美優さん、せめてものお詫びに私からも特別な加護を授けるわ。お手入れいらずのツルツル美肌と、誰もがひれ伏す絶世の美女になる加護はどうかしら?」


「えっ!? い、いえ、顔が良すぎると男が群がってきてロクなことにならないので、それはご勘弁を……!」


前世の二股男で男アレルギーになっている私の懇願に、アミリア様は「あぁ、なるほどね」と深く納得したように頷いた。そして、私の肩にそっと手を置き、顔を近づけて、男の神様に聞こえないように小声で耳打ちしてきた。


「(……それにね、美優さん。その精霊を選んだ時点で、あなたは多分、あっちの世界で体をものすごく鍛えることになりそうだから……)」


「えっ?」


「(だから、しなやかさや栄養効率を高める加護の方が、絶対にあなたを助けてくれるわ)」


アミリア様はそう言って悪戯っぽく微笑むと、再び凛とした声に戻って宣言した。


「それじゃぁ『流麗なる白鳥エレガント・スワン』。それから、『声帯の美調クリア・ボイス』と、『美の食事効率アクティブ・プロテイン』のスキルを追加してあげるわ!」


「ちょっとアミリア、俺を無視してその子とばかり喋るなよ! もういい、時間切れだ!」


ジェラシーを爆発させた神様が、不満げにパチンと指を鳴らした。

その瞬間、私の足元に奈落のような大穴がポッカリと開き、私は本日二度目となる真っ逆さまのフリーフォールを体験することになった。

ご視聴いただきありがとうございました。

一応短編小説版のURLリンクを貼っときます。


https://ncode.syosetu.com/n8541ml/

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