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ぶつかるセカイとセカイ

 ハイビスカスの柄の青いシャツに濃い青のネクタイを締めているマキナ。

 しかしその洒落て颯爽とした美少女の手にある者は皇国で僧侶が持つ錫杖だ。

 それを振るって嵐のように打ち付けてくる。

 死の乱舞。

 氷の殺意と魔力を帯びて舞い踊る鉄杖。

 デタラメな連打に見えるが牽制ではない。一撃一撃が必殺の威力と精度を持つ。

 もし一撃でも受け損なえばそれだけで倒されてしまうかもしれない。

 火花が散る。雨霰と降り注ぐ打撃をユカリが必死に剣で捌いている。


 防戦一方。

 ユカリは何もできない。させてもらえない。

 傍目にはそう見えるが……。


(はーっ、ヤダヤダ。その目)


 刹那の間に交差する視線。

 それだけでマキナは自分の体温が下がったような気分になった。


(その目でうちを見てんじゃないって……!!)


 猛攻の中、盾として翳されている彼女の長剣の……その向こう側。

 ユカリの目は酷く冷静で。

 それは彼女が見た目の状況程精神的には追い詰められておらず、今も自分と相手を……そして戦場全体を俯瞰して把握している事をマキナに感じさせる。

 見られている。

 読まれている。

 今ユカリは頭の中で計算しているはずだ。

 どのタイミングで自分が前に出るのかを。


 ほんの少しの隙から、綻びから……。

 壬弥社ユカリは一気に攻勢に転じるだろう。

 彼女は超攻撃型の戦士。

 猛然と攻め掛かっている時にこそ本領を発揮する。


(でも、そーはさせないよーんだ)


 錫杖を右手で握って乱打を続けながら、マキナの左手首の数珠が鳴る。

 胸の前に持ち上げた左手が印を結ぶ。


(うちのターンの内に叩き潰しちゃる!)


 天河マキナの目が冷たく細められた。

 若干十九歳にして彼女は古老の超人(オーバード)たちを凌駕する実力者。


 攻守の入れ替わりは許さない。


「……!」


「『六道裂界(リクドウレッカイ)……水天落(スイテンラク)』 奈落の水よ、世界を穿てッッ!!!」


 ユカリの目蓋が揺れた。

 マキナの瞳が赤く光った。


 轟音。


 突如として二人の頭上に発生した大瀑布。

 その場に真上から降り注いだ巨大な水の柱。

 圧倒的質量で瓦礫を砕き散らして地面を深く抉る水。


 飛び散る水が霧のように周囲を白く覆って視界を奪う。


(これで()れてれば世話ないけどー……)


 水が落ちてくる直前にユカリが後ろに跳んで回避したのは見えていた。


「……そう上手くはいかんよね!!!」


 目の前の水の壁を裂いて飛び出してくる人影。


 ユカリが来る……!!

 彼女は一度背後に跳んで逃れてから目の前の水の塊に飛び込んだのだ。


 壬弥社ユカリの神速にして最強の一撃『雷霆』

 全てを断ち切る無慈悲な雷光がマキナを狙う。

 だがこのタイミングで何か大きな一撃を入れてくる事は彼女も読んでいた。


(『戮戦(リクセン)龍殺剣(リュウサツケン)』)


 それは本来なら剣技なのだが……錫杖を武器として扱うマキナは気に入っていてよく戦闘で用いる。

 鉄の杖を鋭く薄く覆った魔力が刃の代わりを果たすのである。

 魔力が刃を形成し大剣と化した錫杖がユカリの一閃を迎え撃つ。


 凄まじい不協和音が周囲の大気をビリビリと震わせた。


 ぶつかり合った二つの奥義。

 大地は揺れて空が鳴く。世界は軋んで悲鳴を上げている。

 二人の魔力が白い雷になって周囲に放出されている。


 互いに必死だ。

 ここまで互角の力比べ。

 双方歯を食いしばって自分の武器を相手側の空間へ押し込もうとしている。


「んぐぐぐぐぐ!!!」


 ユカリが唸った。

 均衡が……破れる!


「んがーッッッ!!!!」


 咆哮。

 更なる負荷。

 マキナの右の前腕部から嫌な音が響いた。


(やっべ! 折れたッッ……!!!)


 右腕が負荷に耐えられずに骨折してしまったのだ。

 これで勝負ありのはずだったが……。


 瞬時にマキナは全身の力を抜いた。

 押し込んでくるユカリに対して一切の抵抗を捨てた彼女はひとたまりもなく背後に吹き飛ばされる。


「ク……はッ……!!」


 瓦礫に叩き付けられてそれを粉砕し、破片と共に地面に転がるマキナ。

 苦悶の表情で彼女は血を吐いている。


(上手い!)


 だが、そんな彼女を見てユカリが奥歯を噛む。

 あのままではユカリの一撃を受けきれずに両断されると悟ったマキナはあえて吹き飛ばされて大きなダメージを負う事を承知で力の流れに身を任せたのだ。

 そちらもかなりの負傷は免れないというのに……。

 一瞬でその判断ができる者は中々いない。


 しかしマキナは今片腕を奪われた上に全身に衝撃を受けて相当の傷を負ったはず。

 それなら自分のする事は変わらない。

 追撃を掛けてこの戦いを終わらせるだけだ。


 走り出し自分に迫ってくるユカリを見てマキナは必死に半身を起こすとまだ動く左手を持ち上げる。

 何かする気か。

 しかしあの身体でもう有効な反撃ができるとは思えないが……。


「『無間(ムゲン)地獄界(ジゴクカイ)曼荼羅(マンダラ)』……!!」


 世界が揺れた。


 単なる地震というわけではない。

 空間そのものが激しくシェイクされてそこに満ちた魔力が乱れた。

 これは流石にユカリと言えども何が起こったのかを即座に理解できない。


 天河マキナは自分の結界魔術を使ったのだ。

 しかしここは長浜ケイスケによる『学校の怪談(ホーンテッドスクール)』の内部。

 結界の中に結界は生成できない。

 だからマキナの世界はこの廃校舎の世界の()()()()()()……二つの世界は激しく激突したのである。


 結界世界同士の衝突事故による激しい空間振動の中、完全に立ち上がったマキナがユカリに逆襲する。


「『六道裂界(リクドウレッカイ)……虚空崩(コクウホウ)』 万物を喰らえ(ウツ)ろなる(アギト)!!!」


 マキナが生み出した暗い渦状のエネルギーに魔力を込めた渾身の一撃を叩き込むユカリ。

 激しい衝撃波が発生しユカリの長剣が砕け散る。

 余波で彼女は吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。


 それでも即座にユカリは跳ね起きて再度マキナに向き合う。


 そんなユカリを……マキナは笑って見ていた。

 嘲笑というほど暗い笑みではなく、かといって楽しくてしょうがないといった風でもない。

 苦笑に少しだけ似た複雑な笑みだった。


「うぇへへ……今日はもームリ。ここまでにしましょ」


 マキナが右手を少しだけ持ち上げてみせる。

 手首と肘のちょうど中間あたりで折れ曲がってしまっている腕を。


「まぁ、しょうがないか……」


 渋い顔でそう言うとユカリは口の端を汚している血を手で拭う。


 何しろ……周囲はスタジオだ。

 事情を知らないテレビ局のスタッフたちが突然現れた異様な雰囲気の集団を何事かと見ている。

 どうやら外から別の結界をぶつけられた衝撃で廃校舎の世界が解除されてしまったらしい。


 そのまま、何も言わずにマキナがユカリに背を向ける。

 足を少し引きずるようにして彼女は去っていく。


「ひっでー目に遭った。いててて……死ぬかと思ったのはいつぶりだ~? ひょっとして生まれて初めてじゃないの~?」


 ぶつぶつと呟きながら姿を消すマキナ。


 その後姿を黙って見送るユカリにルクシエルが歩み寄る。


「お疲れ、強敵だったね」


「うん。ちょっとヤバかったわ」


 いつものようにおちゃらける訳でもなくユカリは真面目な顔で肯く。

 すぐにルクシエルは見てわかるような箇所のユカリの負傷に手を翳して回復魔術を使い始めた。


「あ~……効く~。すっごい効く。愛情を感じる~」


「まあね、そこだけは自信ある」


 ユカリの軽口に対してふふんと自信ありげに鼻を鳴らすルクシエルであった。


 ────────────────────────


 ゼウス・カグラ本社ビル。第三戦略会議室。


「……それで?」


 鷲塚ガモンの報告を聞いているのはリーダーである久我峰カイだ。

 先日のカグラTVのスタジオ内での騒動に付いてである。


「それでっちゅーか、そこまでや。ワシが着いた時にはもう全部終わっとったし、テンカワもいなくなっとったしな」


 腕組みをしたガモンが首を横に振る。


「大騒ぎやで。リキヤの死体は転がっとるし警官(マッポ)はじゃんじゃか来よるしで。ケースケのド阿呆、バックレんならリキヤの身柄(ガラ)持ってバックレんかいな。かなんわ、ホンマ」


「ケイスケはどうやらあの日の夜のうちに火倶楽(カグラ)を離れたようだ。夜行のホームで姿が確認されている。スマホはホームのゴミ箱に捨てて行ったらしい」


 フゥ、と物憂げな息を吐くカイ。

 この街のインフラの大部分に監視の目を持つゼウス・カグラの情報網によりその後の彼の挙動は把握済みなのだ。


 長浜ケイスケは逃亡した。彼の心が折れてしまっているという事は疑う余地がなく……。


「追わんのやな」


「ああ。無理やり連れ戻したってもう使い物にはならないだろ」


 そして……何となく二人は無言になった。

 フロアを覆ったガラスから差し込む陽光はポカポカと暖かいというのに会議室の中だけはどこか寒々しい空気が漂っている気がする。


「とうとうワシら二人になってもうたな」


「おい」


 苦笑交じりに言ったガモンに横合いから声が掛かった。


「わざとか? それは。わざと言ってるのか?」


 スーツ姿の中年男、財津マナブだ。

 彼はここの所、ちょっと日焼けして身体つきがたくましくなってきた。

 暇すぎてジム通いをして鍛えているらしい。


「堪忍やで。ちょっとしたジョークやんか」


 フッと笑うガモン。


(……アカンわ。素で忘れとった。そういやおったなこのオッサン)


 しかし内心では彼はそんな事を考えていたりする。


「アンタも頼りにしてるよ、マナブさん。俺たちに力を貸してくれ」


 カイが真顔でマナブの方を向いて言った。


「……ま、まぁ同じチームの仲間だし。私は君たちよりも年上だしな。任せておいてくれたまえよ」


 ちょっと上擦った声で若干視線を泳がせつつも、マナブが胸を張るのだった。


 ────────────────────────


 黒羽探偵事務所。

 その午後のひと時……。


「ちょっと……話がよくわからなかったのだけど」


 所長の机のミレイが難しい顔をしている。


「いや、だから……なんか付き合ってって言われて……いいよって返事して。それで……カレシとカノジョ、みたいな……」


 しどろもどろになっているのはチャラい兄さん。

 ハイココの「じゃない方」伊東アキラ。


 先日の一件の報告を行いつつ、彼は宇賀神ナツキと交際を始めたのだと告げたのだった。


「おもんないわぁ。どこで笑えばええんどす? その小噺は」


 言葉の通りに白けきった表情のキリヲが言う。


「違うんですって姉さん、ガチなの、これは。ネタとかじゃなくて。俺のモーソーとかでもなくて。っつか上手く説明なんてムリですって。俺もパニくってんですもん、まだ。壮大なドッキリかな? って思ったけど俺にドッキリ仕掛ける奴いないだろって自分でツッコミ入れてみたりして」


 わちゃわちゃと身振りを入れて必死に訴える黄色いアロハの男。


「芸能界いうんは酔狂なお人がおるもんどすなぁ」


 そんなアキラを冷めた目で見つつ湯飲みを口に持っていく黒いセーラー服の少女であった。


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