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ドクズのマキさん

 魔人ゼクウ……その本当の名は嘉神(カガミ)征崇(マサタカ)。皇国幕府の初代将軍だった男。

 彼は四年前に秘密結社のメンバーとしてこの火倶楽で大きな事件を起こし、そして壬弥社ユカリと仲間たちによって倒され命を落とした。


 そして、その死から全ては始まった。


 ……………。


 深夜営業のレストランに入った二人の女性、天河マキナと儀仗トモエ。

 傍から見れば夜遊びの若者二人。

 しかし一人はド陽キャのもう一人はド陰キャでタイプが正反対だ。


 テーブルに着いてマキナはアイスクリームを頼んだ。


「ガッツリいくねぇ~……こんな時間にさぁ」


 ニヤニヤしつつも感心しているマキナ。

 その視線は正面に座ったトモエと彼女が食べているうな重(大盛)に注がれている。


「……う、運動、したら、お腹が空きました、ので」


 ほんの数十分前にトウガを血祭りにあげてきたばかりとは思えない健啖っぷり。

 トモエはそう言って口元を手で覆う。


「ン~で、どこまで話したっけ? そうそう、そのゼクウさんがさ、実は初代のショーグン様だったのよ。だけど好き放題やらかした挙句に四年前にここで殺されちゃったの。そしたらさ~、皇国のエラい人たちの間で『遺体を回収するべきだ!』って話が持ち上がっちゃってさ~。まぁ、わかんなくもないけどね。自分らの大ボスのご先祖様だもんね。その人祀ってる神社とかあるしさ」


 初代マサタカといえば皇国での通称は「大権現(だいごんげん)さま」

 扱いは神様である。

 もちろん崇めている人々はまさかその大昔の偉人がつい最近まで生きていて世界をひっくり返そうと各地で暗躍していた事など知る由もない。


 ぺらぺらと重要機密事項であるはずの情報を喋るマキナ。

 聞かされているトモエは微妙な表情だ。

 そんな事喋っちゃっていいのかよ、と表情で語っている。


 ……………。


 ……そして場面は切り替わる。


 蛇沼シズクの私室だ。

 シャワーを浴びたばかりの彼女が裸身にバスタオルを掛けただけの格好で誰かとスマホで話をしている。


『だが、その後お前から遺骸は灰となって崩れ去ったという報告が入りその話は立ち消えとなった』


 通話の相手は彼女の父、皇国の大幹部五大老のゼンマである。


 あの夜にシズクは目の前でゼクウの亡骸が爆ぜて飛び散り灰となって崩れ去る所を目の当たりにしている。

 そしてその有様をそのまま求められて本国へ報告していたのだ。

 シズクからの報告で皇国の一部重鎮たちによるゼクウの遺骸回収計画は消滅した。


 ……しかし、話はそれだけでは終わらなかった。


『その後、「紅い雨」の情報が入ったことで事態は再び動き始めた』


「雨に打たれた超人(オーバード)を皇国へ迎え入れると?」


 シズクの言葉をゲンマは「いいや」と否定する。


『仮にそうした場合、もしもその者たちがゼクウの後継者を称し将軍家(ゆかり)のものであるとして振舞えば混乱が起きる。いくらゼクウから魔力を継承したとはいえ彼らは皇国との関係はないも同然の者たちだ』


 眉を顰めるシズク。

 では重鎮たちは何をどうしたいというのであろうか。


『奴らは雨に打たれた者から()()()()()()()()()()()()()()()()という結論に達した』


「そんな事は不可能でしょう」


 ふう、と乾いた息を吐くシズク。

 超人(オーバード)から魔力を失わせるというのならまだしも、回収する事などできるはずがない。


『ところがそうではないのだ、シズマよ』


 再びシズクの言葉を否定するゼンマ。


『五大老のある家が長年に渡ってその研究を行ってきた。その家がその技術を提供すると言い出した。……無論、容易いことではない。巨大な装置が必要で、対象は完全に無力化されている必要があるなど条件は多い。……ともあれ、五大老会議でその件は了承され技術を出す家が全ての指揮を執ることになった』


 スマホで話をしながらシズクがノートPCを開く。

 父からのデータを受信した音が聞こえたからだ。

 添付されているファイルを開いてシズクがデータを見る。


 身分証明の添付画像としては思いっきり笑顔なのだが……ともかく若くて美しい娘。


『五大老、天河(テンカワ)家からその娘が送り込まれている。名前はマキナ。分家の娘だが恐ろしく腕が立つ。遭遇した際には注意しろ』


 五大老、天河家が擁する一族最強の超人(オーバード)天河マキナ。

 その顔を目を細めて見つめるシズクであった。


 ……………。


 再び場面は深夜のレストランに戻る。


「その装置ってのがさ~。もーホンットにばかでっかいの! とてもじゃないけど皇国から組んで持ってくのは無理って事んなってね。うちがこっちで組ませることになったんだけど~……」


 そこで言葉を切ってマキナはニヤリと意地悪く笑った。

 それだけでトモエには何か彼女がロクでもない事を仕出かしたのだということがわかる。


「うちはこっち来て早々にゼウスにそのデータを持ち込んで売っ払っちゃったってワケ! ん-でゼウスでさらに研究開発して装置はここまでちっさくできましたとさ! やったぜ!」


 得意満面で銀色の小さなアタッシュケースを持ち上げるマキナ。

 そんな彼女を見るトモエはジト目。


「……は、はぁ、あの、ですね……今更、なんですけど、マキさん本当に、ドクズです、よね」


 そしてトモエは湯のみのお茶に口を付けてから嘆息する。


「まぁ、そんな、マキさんの話に乗った、私も、同類です、けど」


「そうだよ~、仲良くしよーぜトモちん。うち最初に見た時からピンと来てたんだよね」


 トモエを見て笑うマキナが目を細めた。

 その全てを見透かすような視線にトモエは首の後ろに冷気を感じる。


紅雨の騎士(この中)で一番強いのってトモちんだな~ってさ」


「……………」


 マキナの言葉を……トモエは否定しない。

 あまり目立ちたくないので低めに抑えていた自分の魔力の総量を見抜かれていたことには少し驚いたが。


「魔力チューチューすんのはリーダーでいいかなって思ったから声掛けたんだよね。うちはトモちんと組んで遊ぼーってさ」


「わ、私も……やりたいこと、ある、ので。その為には……お金も、社会的な地位、も、必要……です、し」


 視線を逸らして少し気まずそうに言うトモエ。


「うんうん、()()は一番高く出してくれるトコに売ろうぜ~。ガイアードだろうとゼウスだろうとどこでもいーや」


 マキナが銀色のアタッシュケースをペシペシと手で叩く。


「お金は山分けね。それからなんだっけ? 会社やりたいんだっけ? そっちに取り掛かろうよ。うちらが組んだら無敵だかんね。なんだってできちゃう、うひひひ」


 白い歯を見せて笑ってからマキナは卓上のスタッフ呼び出しボタンを押した。


「語り倒したらうちもハラ減っちったよ。ピザでも食ーべよっと」


 上機嫌で自分たちのテーブルに向ってくるウェイトレスに向って手を振るマキナであった。


 ─────────────────────────────────────


 朝の光が眩しい病室に一人立つ男、久我峰カイ。

 扉が開いて入ってきた日焼けした肌の男……鷲塚ガモン。


「なんや、もう起きてええんかいな」


 窓辺に立つ普段の装束に着替えているカイに向かってガモンが言う。


「ああ、体調自体はもう何ともない」


 振り返らずにそう応えたカイの表情は冴えない。

 何者かの手により彼は八割近くの魔力を失った。


(……せやけど、そんだけ取られてもうてもまだワシの魔力とどっこいちゅうとこやんけ)


 ガモンが内心で苦笑する。

 彼の見立ての通り、最大時から二割程度に落ち込んでしまったカイの魔力はそれでもガモンと拮抗するかやや上回るかといった程には残っている。

 元々はガモンの五倍以上の魔力を有していたという事だ。

 ガモンだって超人(オーバード)の中ではかなり保有魔力量が多い方の上澄みであるというのに。


「いつまでもしょげ返っているわけにもいかない。やれる事をやっていかないとな。……メンバーの様子はどうだ?」


 振り返ったカイはガモンの何とも気まずそうな表情を見る。


「あー……それなんやけどな。起き抜けにあれやけど、よくない報告があんねん」


「聞かせろ」


 カイが躊躇わずに言う。

 魔力を奪われたという事の他にも自分が眠っている間に状況が悪い方へ傾いたことは何となく想像できている。


「マキナとトモエの二人と連絡が付かへんねん。……なんや知らんけど、社長さんにも呼び出せ言われて非常連絡のコール入れても音沙汰無しや。逃げたかもしれん」


「……………」


 ショックを受けた様子は無く、カイは何かを冷静に考えている。

 このタイミングで音信不通となった二人。

 天河マキナと儀仗トモエ。


「二人の内、俺を見舞った者がいるか?」


「記録を調べたんやけど、マキナが来とる」


 カイが何を考えているのかはガモンも薄々感付いている。

 カイの魔力を奪った者は身内だ。

 恐らくはブラッドレインのメンバーの内の誰か。


 ……そして、マキナはカイが心配で見舞うような性格(キャラ)ではない。


マキナ(あの女)か……。そして社長(ヴィルヘルム)も噛んでいるな)


「どないする? 探しに行かすか?」


「いや、それは駄目だ」


 軽く首を横に振ってガモンの提案を否定するカイ。

 二人が造反者だとすれば……誰かを向かわせれば討たれてしまう可能性が高い。


「考えてみれば……あの二人だけ能力について何もわかっていないな」


「せやなぁ。女のコやさかい、あんま根掘り葉掘り聞くんもなぁと思っとったけど……初めからこのつもりで能力(チカラ)を伏せてたんかもな」


 やれやれ、と肩をすくめるガモンを横目で見ながらカイは歩き出す。


「行くんか?」


「ああ、まずはヴィルヘルムに会ってくる」


 肯きながら病室を出ていくカイであった。


 ────────────────────────────────────────


 煌神町のさる小さな病院の廊下を早足でミレイが進む。

 連絡を受けて慌ててやってきた彼女。

 ここは御門(ミカド)製薬の系列の病院で、小さいが設備は大病院にも劣らない。


「リュアンサさん……!」


 廊下で行き会ったのは白衣の女性。

 紅いショートヘアのツリ目の美人。

 ミレイの師であるアムリタのパートナー、リュアンサだ。


「トウガは……無事なんですか!?」


「あ~、もううっせェな。こっちは寝てねェんだからキンキン喚くんじゃねェよ」


 鬱陶しそうに表情を歪めて首を斜めに傾けるリュアンサ。


「殺して死ぬようなタマかよ、あれがァ。もうなんともねェからとっとと連れて帰りやがれ。デカ過ぎて邪魔なんだよ」


 野良犬を追い払うように手を振りながら言うリュアンサに安堵したミレイが全身で大きく息を吐くのだった。


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