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第九話

堀尾吉晴と小那姫は金蔵の前から去った。

宗古と吉川が金蔵の前に残された。

「ちょっと肩車をしてよ。上のほうが見えないから」

吉川は宗古を肩車して、蔵の前や蔵の中を歩き回った。

宗古の二つの柔らかな太ももと、太もものつけ根にある柔らかい部分が吉川の首回りに接触してきて、吉川の心拍数があがっている。

吉川は令和の事件を頭に思い浮かべて冷静さを保つように努力をしていたが鼓動の高まりが限界に近付いてきた。

「金蔵の上のほうは確認できたのか」

蔵の向こうのほうから女中が近づいてくるのが見えた。

「蔵の中や天井には人間や小面が通るような隠し扉は無いわね。しかたがないか、降りるわ」


案内され階下の部屋に行くと、二人の寝具と机に食事と飲み物が置いてあった。驚いたことに部屋の中は意外と広々としていて、部屋の隅には簡素な厠と水洗い場があり部屋の外に出る必要がない和風ホテルのようだった。

宗古の顔は更にニンマリとして女中に言った。

「さっさと話を聞いて調査を終わらせましょう」


月の小面が無くなった前の夜に待機していた女中が部屋に来たので、その夜のことを聞いた。

「家康様が城に来られた日、皆さんは一晩中部屋から出なかったのですか」

「はい。皆さんとも部屋から出ておりません。部屋はこの出入口と厠から外の廊下に出入りできますが気づいた限りでは部屋や厠からの出入りは無かったような気がします。ただ部屋の外から見張っていても全部を見ることができるわけではありませんので気づいた限りでは部屋の出入りは無かったと思います」

「変わったことは無かったですか」

「無いと思いますが」

宗古は吉晴の札を見せて再度女中に聞いた。

「些細なことでもいいので何かありませんか」

女中は少し躊躇するそぶりで宗古と目を合わさずに言った。

「月様は算砂様の娘様と聞いていたのですが、夜、子の刻くらいに月様の嬌声が聴こえてきましたので、そういう関係だったのかと思いました。

翌朝お食事を部屋にお持ちしたときに、月様の腕やひざ下の筋肉が見えたのですが鍛えられたお体でしたのでびっくりしたことを覚えています。算砂様は月様に次は肥前に一緒に行こうと誘っておりました」


宗古は、月の小面が消失した夜より前に何か無かったかを聞いた。

「家康様が来られる前ですが、小那姫様のお供で来電様の興行を何回か観に行きました。小那姫様は興行が終わって来電様の楽屋で一刻程度いつもお打合せをしておりました。

算砂様と月様は、城主様や家臣の方々何回か囲碁や将棋の対局をされるためによくここに来られることがあります。

算砂様や月様から、高級な囲碁や将棋盤を寄贈していただいたりしています」

女中は依然、下を向いて宗古と目を合わそうとしない。

宗古は吉晴の札を見せながら女中に、にじり寄った。

「本当にそれだけ?

何でもいいから言ってください。

何か隠してない?

絶対に誰にも言わないから」

女中が下を向いて俯いたままだ。しばらくして意を決したように女中が話し始めた。

「あの夜、牛の刻くらいに来電様に用事があると部屋に呼ばれました。甘い言葉を囁かれて手を握られ抵抗したのですが体から力が抜けてしまいました」

これは能面消失の聞き取り調査なのか。吉川は咳払いをした。

「それで」

興味津々な顔で宗古は畳みかけた。

「限界を超えるほどの夢心地になり、部屋は真っ暗でしたので来電様が喜ばれるのなら何でも言うとおりにしようという気持ちになりました。

見えないので恥ずかしいことをされても平気になり、来電様の思うままにされてしまいました。

事が終わり『小那姫様にもこのようなことをされたのですか』とお聞きしたら、それにはお答えされずに『私はあなたが想像もできないような方と楽しんだことがある』とおっしゃられました。

どうか、お殿様や小那姫様には内密に」

宗古は「わかった。これで調査は終わり」と宣言した。


吉川と宗古は無言で夕食を食べた。食べ終わって宗古が目を吊り上げて言った。

「さっきの小那姫さん、あなたを嫌らしい眼で見ていたわ」

吉川が興味は無いと回答すると、普段の顔つきに宗古は戻り瞳を大きくして話した。

「まだも調べないといけないことがあるけれどそれよりも」

吉川は食後のお茶をゆっくり飲んでいたが湯呑を落としそうになった。

宗古はそれには答えず、高級そうな綿の布団を見て吉川の前に来て目を閉じた。

「キスもしたことが無いのに死ねないわ。ねっ」

吉川も不思議な感情で相手が未成年なのを忘れそうになり、宗古に顔を近づけた。


あと1ミリで接吻というときに、

「ごめんください」

女中の声だ。

襖が開くと、宗桂のおっさんと布団を持ってきた女中が居た。

「浜松で行商していて浜松城に来たら小那姫様が息子さんたちも来ていると聞いた。どうしようかと思ったら小那姫様が同じ部屋に案内させると言われて来たのじゃ」

おっさんは酒臭い息だ。

「浜松のお客様に宴を張ってもらった。いい気分じゃ。

そこで算砂に会ったのでよかったら明日浜松城で堀尾様と一局囲まないかと誘ったぞ。わしは厠に行ってもう寝る」

厠に行ったおっさんが再び部屋の外から入ってきて、おっさんは女中が敷いた布団の真ん中でいびきをかき始めた。


宗古の顔はかつてないほどに不機嫌だった。

しかたがないので、吉川は宗古の手にキスをして

「お姫様、キスをしたよ。静かに寝るしかなさそうだな。事件が解決して令和に戻れたらその時は」


宗古は後ろを向いて、

「さらしがきついわ。全部とっちゃう。私のほうが張りもあってみずみずしいわよ」

女子高生は一糸纏わぬ柔らかな後ろ姿のプロポーションを吉川に見せつけて、

「今度は手にキスだけでは済まないからね。

それから現地調査は役立ったわ」

「それは良かったな」

「だいたい分かったわ」

「えっ。どうやって月の小面が消失したかわかったのか」

「確か歴史では来年に豊臣秀頼が生まれるのよね」

「そうだが。月の小面がどうして消えたのかわかったのか」

それには宗古は答えず、

「さっきの続きは、必ずしてもらうから。おやすみ」

宗桂のおっさんのいびきと宗古の可愛い寝息を聞いて、吉川は月の小面消失の謎が気になりなかなか寝付けなかった。


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