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美処女高校生の天才女流棋士が転生したら戦国時代だった  作者: lavie800


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第七十話 最終回

挿絵(By みてみん)

吉川は大晦日の除夜の鐘が鳴る頃、京都府警に戻りまだ府警内に残っていた課長にホテル雪月花の目撃情報を報告した。

雪月花に加納月と以前訪れていた参考人が、別のもう一人の別人と雪月花に訪れていたことで更に突っ込んだ捜査の必要性を課長に力説した。

課長から、元旦の対局にその参考人も来ることから不審な動きを見張るよう指示を受けた。


府警を出ると、雪がちらついていた。まだ夜は明けていないが年が明けて元旦だ。

さて雪月花に戻るか、訴えられても困るからな。

シャワーだけ借りて仮眠させてもらおう。

何をするわけではないし、やましいことは無い。


夜が明けた。

「あっ、六時。対局するには元気が足りない。

和服を持ってきたから早めに京都能楽堂に行かないと。

そこのソファの端で寝ている意気地なし、朝六時、起きる時間よ」


吉川は未成年の部屋に夜遅く戻ってきた。

鍵を開けると想子はぐっすりと寝息を立てていたので音を立てないようにさっとシャワーを浴びてベッドから離れたソファで仮眠を取った。

十六歳になった美少女には、もちろん何もしていない。


「このタイムリープのアイコン動かないのよ。歴史を戻すには事件の解決と接触が必要だと思う」

十六歳の大きな瞳の美少女女子高生女流棋士がソファにやってきて、

「起きなさい。ちゃんと立って」

吉川は一瞬良からぬことを想像したが、ソファから立ち上がった。

「あけましておめでとう。未来の旦那さん」

吉川も新年のあいさつをしようとお辞儀をして顔を上げると、

「さあ着替えないと」

想子は備え付けのバスロープの紐を取ると来ていたものが床にするっと落ちた。

「令和でもおまじないが必要よ」

どぎまぎして赤い顔の吉川に想子は、「戦国時代の記憶を完全に戻すには伏見稲荷大社の大岩大神の儀式が必要だわ」と言って目を閉じた。


吉川の意識に急に戦国時代の大岩大神のシーンが浮かび上がってきた。

今度は目で想子の唇の位置を確認して、そっと吉川の唇を近づけた。

禁断の感触だ。

吉川の胸に、突き出た二つの硬い蕾と発展途上で弾力性のある双丘の感触が伝わってきた。

「あけましておめでとう。そして十六歳誕生日おめでとう」

吉川が想子のスマホを見ると何かのアイコンが輝いている。


「さっ。儀式が終わったから服を着て出発するわよ」


戦国時代と違って、キス以上の関係はお預けだよな。

まあ、ぎりぎり犯罪者ではないと思い込みたい。

吉川も警備のため慌てて身を整えて出発した。


京都能楽堂 真女流名人戦の第三局、最終局は始まろうとしている。

想子の対戦相手は、堀尾羅美亜真女流名人で二人は能楽堂の舞台にすでに着席をしている。

前の事件があったため、立会人と記録係は対局場の真正面の観客席に座っている。

本日は一般の見学者はいないが、来賓として向って左に市会議員の大野が座っている。議員から少し席を空けて正面に能楽師の来電、囲碁棋士の日海もいる。吉川は、想子に言われた通り市会議員の後ろの席に座って観戦している。


対局が静かに始まった。

今日は廊下に車いすの気配はない。

廊下の盤面モニタでは、先手の想子が角換わり腰掛け銀、後手が右玉で対抗という局面で、6筋から戦いが始まり双方の玉頭に駒が殺到し、一気に終盤に突入していく。


「負けました」

対局者の一人が声を発し、真女流名人戦は終わった。


マスコミの写真撮りが終わりマスコミは舞台から居なくなった。

来賓からの表彰に入る前に能楽堂の非常口から捜査員が一人入ってきて吉川に近づく。


吉川は立ち上がった。

「逮捕状と家宅捜査令状が出ています。

12時10分、加納月さん殺人と殺人教唆の容疑で、女流棋士の堀尾羅美亜さんと市会議員の大野春長さん、署まで同行願います」


「何を言う。名誉棄損だ。訴えるぞ。加納月など知らん。

堀尾が勝手にやっただけだ。まさかここで殺すとは思わなかった」

吉川は、大野議員に反論した。

「この席だと堀尾さんが加納さんの胸に小刀で刺すと向って左寄りに座っているので、刺す場面がかすかに見えますね。それをあなたはずっと黙っていた」

鬼の形相の大野春長が暴れて非常口の方に逃げて行った。


「すっきりしたわ。真女流名人戦も戦えたしやりたいこともやった。

性癖が直るかと思って、あんな男と付き合ってみたけれど男はやっぱりくずね。

貴方みたいな女のほうが良かった。大橋想子さん。

でも警察では判らないでしょうね。

あんな男に命令されたから加納月を殺したわけではない。

殺したかったから殺したのよ。四百三十年前の恨みが晴らせてすっきりしたわ。

浜松城と同じように、月の小面を餌におびき寄せて車いすにのって自分で胸に小刀をつけた偽装をしてきたから、正面にしか観客がいないから誰にも見られないように加納月の前に覆いかぶさって、偽装でつけてきた小刀をそのまま突き刺して殺したのよ。指紋に蝋を被せていたから指紋も残らなかった。

私の前に来るまでは彼女生きていたわ。

もう今の時代に未練は無い」


堀尾羅美亜は胸元から、カプセルのようなものを取り出し嚥下した。

「対局前から準備していたの。また転生できるから楽しみ。

他の人はどうも記憶はないみたいよ。話をして鎌をかけたけれど転生では無い感じだったわ。

本当に転生できたのはあなたとそこの居る刑事とわたしだけ」


堀尾羅美亜はそう言い残すとゆっくりと崩れ落ちて行った。

非常口から逃げ出した大野春長は、能楽堂の出口前で警察官に取り押さえられた。

吉川はすぐさま救急車を呼んだ。

「戦国時代のお父さんに娘をよろしく頼むと言われた以上こんな所で命を落とさせない」

堀尾羅美亜は救急車に運ばれていった。


堀尾羅美亜の自宅から、大野春長の精液の残滓が見つかった。

加納月の胎児のDNA鑑定をしたら、親子関係で一致した。

大野春長は加納月と会ったことが無いといっていたので嘘がばれた。


また、堀尾羅美亜のスマホに大野春長からの電話が録音されていた。

「加納月を黙らせてうまく始末してくれ。そうすれば結婚してもいい。

あの女は私を嵌めようとしている。

お願いだ。

君だけが頼りだ。妻とも別れるから」


想子が吉川にスマホを見せた。

「メッセージが流れてきたわ」

『私の子、令和の想子へ。

歴史を戻してくれてありがとう。

私は役目を終えました。

これからは宗桂殿とあなたの戦国時代の分身を大事に育てて二世名人にしてみせます。

あなたは、もう歴史をさかのぼって転生する必要はありません。私の代わりにタイムリープを手に入れたから。

あなたの許嫁と合わさって伏見稲荷大社か王子稲荷神社に来れば、二人でもタイムリープができます。

私の能力は消えました。

あなたのスマホのアイコンにタイムリープの能力が宿ったのですが、あなたはあなたの愛する人と令和で暮らしていくことが母の希望です。

タイムリープの能力を使う必要もありません。


しかし寂しくなったらいつでも私のもとに来ることができます。

ただ、再び歴史が歪むことがあればそのときにはその力が必要になってくるかもしれません。そうならないことを願っています。

令和と戦国時代に分かれての生活になりますが、あなたは決して一人では無いのです。

  葛の葉より』


想子が涙を流している。


吉川はそっと想子に寄り添って言った。

「十六歳になったから、俺と結婚してくれ」

想子は黙って頷いた。


そしてスマホを再び見ている。

「囲碁の初代家元の名前が変わったわ。

本因坊算砂よ。これですべて元通り」


その後、獄中の大野春長は妻に離縁され、無期懲役の判決のあと獄死した。

救急病院で一命を取り留めた堀尾羅美亜は大野に騙されたということもあり大野より量刑を減らされ医療関係の獄中にいる。加納月の殺害動機について戦国時代の恨みという理解できないことを検察に話しているらしい。


後日、京都伏見大社で立会人の石川安生と記録係の望月貞子と京都府警の課長や同僚に冷やかされながら、吉川と羽織袴で、想子は和装の花嫁衣裳で正装し結婚式を挙げた。


「今夜から本当の夫婦だね。合わさるのも合法よ。よろしくお願いします」

令和では経験のない吉川は焦りながら、京都鷲峯近くのホテルで、

「こちらこそ不慣れですが、よろしく」と返した。

ホテルから外を見ると大きな満月が見える。


「スマホのタイムリープのスキルを使って新婚旅行で、父の宗桂さんと母の葛の葉さんのお家に行きましょう」

「そうだね。おっさんは将棋の一世名人になっているから会いたいな」

「そうよ。任務は完了したと報告しないと。葛の葉さんは過去だけではなく令和より先の未来にもタイムリープで行っているはずだわ。スマホに装備された高性能集音装置や村正のレーザ妖刀に、風を利用した人間ドローンや気象コントロール装置などは今の世でもまだ普及していないから。

引継ぎはまだできていないわ」

「そうだな。それはそうとして戦国時代に何故魔犬ヘルハウンドが現れたのかな。」

「浜松城で月の小面の密室消失事件を調査していたときに、満月の夜に忍びの月が浜松城で月の小面を手にしたときに呟いたと証言があったよね。あれは忍びの月が『私に、あやかしを』と言ったのよ。だから忍びの月の元に西洋のあやかしである魔犬ヘルハウンドが召喚されたのよ」

「そうなのか」

「それと浜松城で堀尾羅美亜である小那姫が、月の小面に満月の夜に『必ず月を殺す。いつの世になっても』と叫んだと言っていたじゃない。

だから、令和のあの事件が起きたのかもしれないわ。」

「そうか!」


「それより今は愛し合わないと。

令和では、まだ夫婦ではないもの」


そう言ってシャワールームから出てきたバスローブ姿の想子は、顔が真っ赤になっている吉川にお姫様抱っこを要求した。

ベッドまで吉川に運ばれてきた想子はバスローブを脱ぎ捨てて一糸まとわぬ姿になり、月の小面を手に取って、小声で何かをつぶやいた。


今日も満月だよな。

戦国時代の大晦日よりも甘く激しくお願いねと聞こえたような気がした。


                          了


最終話です。読んで下さりありがとうございました。



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