第六十一話
吉川は隣で可愛い寝息を立てている少女にそっと布団をかけた。
二人とも何も身に着けていない。
もうすぐ夜は明けそうだが部屋の中はまだ暗い。
周りは鶏の声しか聞こえない。
人はまだ眠っているようだ。
隣の少女が目を覚ましたようだ。
一糸纏わぬ宗古が吉川に被さってきた。
夜中に引き続き再び心地よい疲れを感じた吉川は再び眠りについた。
「おはよう。もう起きないと」
顔の下に豊かな双丘が揺れている宗古に起こされた。
1593年元旦、家康の新年の祝い宴が、江戸城西の丸の最上階で始まった。
淀君、大野春氏を貴賓席として用意させ、家康と側室の茶阿局が上座に鎮座している。
勝吉が下座に座り、趣向の準備をしている。
家康から遠く離れて、算砂が家康の正面に座っている。家康の家臣たちも算砂と同じ場所だ。
宴では、勝吉の正月を祝う能楽が行われる予定だ。
末席に宗古と吉川が本日は、正装し座っている。
家康が算砂に聞いている。
「宗古殿が江戸城に戻られた。せっかくだから、御前対局が観たい」
「家康様のご指示であればわかりました」
サイズが合っていないのか算砂の和服の着こなしは似合っていない。
「それでは勝吉の舞のあと、将棋と囲碁で一局ずつ真剣にやってもらおう」
「承知しました」
宗古が囲碁を打っているところを見たことが無いが知っているのか。
宗古もお辞儀をしているということは承知したということか。
そのあと吉川の耳元で宗古が囁いた。
「今は何でも勝てそうな気がするわ。脳から体全身にどこからかエネルギーが集中している気がする。
大晦日の夜は最高だったし、うふふ。
あっ。王子のアイコンが輝いている。合わさったと認識されたみたいよ」
肴と酒や飲み物が運ばれた後、家康の新年のあいさつで宴は始まった。
勝吉が新年にふさわしく高砂を演目に選び、西の丸の最上階で、簡易的な能を演じている。
月の小面はないが、正月にふさわしい流石の演目だった。
その後、算砂と宗古の御前対局の準備が始まった。
御前対局が始まり、将棋は宗古の坂田流向い飛車で、短手数で宗古の圧勝で終わった。
「まだ、風邪が長引いているみたいで調子が出ないな」
正月なのに算砂の額に汗が滲んでいる。
続いて、算砂の先手で囲碁の対局が始まった。
算砂に三隅を取られて、宗古は中央に厚みを敷く。
宗古は最後の隅の右上も目外しを打ち、黒の小目に対し大斜で対抗し、ねじり合いが広がって行った。
算砂の黒石が中央一面に勢力を伸ばしたが途中で分断され大きな黒石が仕留められそうな状況になってきた。
算砂が唸り始めた。
算砂が「厠」とだけ言って中座した。
宗古は勝吉のもとに行き、囁いた。
勝吉の顔に緊張が走り、家臣と話をしている。
算砂が席に戻り、「中央の黒石がまるで兵糧攻めにあっているようだが負けるわけにはいかん」と額の汗が増えてきている。
家康が盤面を見ようと上座から降りてきた。
家臣が留めたが、「まあよい」と言って家康が宗古の後ろに近づいてきた。




