第五十九話 江戸
「起きて、大変。今度は本当にキスすれば目が覚めるの?」
吉川は大きな声で怒鳴っている少女の声で目が覚めた。
「ここは?」
「王子よ。多分王子稲荷神社の横の林よ」
「そうか。再転生できたのか」
「それがそうでもなくて。
多分今は戦国時代のまま。
向こうの王子稲荷神社の境内に参拝する人たちの服が、着物や小袖ばかりよ。武士らしいひとは刀を鞘にいれているわ」
「だめだったのか」
「伏見から王子には飛んだみたいね。でも時代は戦国時代のままのよう」
「どうしてだめだったのかな」
「多分原因は二つね。
一つは私が伏見で気を失う直前に、葛の葉さんの幻が見えたの。
『黒幕の正体を家康様に伝えないと危機は去らない。
勝吉さんが言っていた違和感をあなたが確認したほうがいい』
と言っていたのよ。
そのあと私の脳に何かものすごい光が入ってきたの。
脳がフル回転する感触だったわ。
そして気を失った」
「なるほど。」
「もう一つは、伏見であなたがちゃんとキスをしてくれなかったことよ。
私が眼を瞑ってファーストキスを待っていたのに、あなたはしっかり確認もせず目を瞑って、あなたの唇が私の頬あたりに接触したと思ったら、あなたは気を失ったわ」
「唇に確かに柔らかな感触があったはずだが。緊張をして眼を瞑ってしまったか」
「貴方と私が合わさると認識されなかったのよ」
「ほら、スマホのアイコンが輝いているわ。
伏見の鍵アイコンは完了の文字が浮かんでいる。伏見でこのアイコンは光り輝いていたの。
一方で王子の鍵アイコンは作動していないの。光っていな。」
「どうしたらいいのだろう」
「黒幕を家康様に伝えるのよ。今まで見落としていたことがどんどん脳に浮かんでくるの」
「黒幕をそのままにしておくのは確かにまずい」
「まず勝吉さんに会わないと。
黒幕を家康様にお伝えしたら、今度こそファーストキスだからね。唇と唇でないとファーストキスとは認めないから。
そうすればあなたと私が合わさったと認識されてスマホの王子の鍵アイコンも輝くはずよ。
今、脳がフル回転している感じ」
「今度こそそうするよ。
それにしても今度こそ女子高生天才女流棋士の誕生だな。
前に葛の葉さんも辛い気持ちになるかもと言っていたよな。
これは試練だと思う。
江戸城に行こう」
真夜中だったが二人は江戸城に着いた。
勝吉がびっくりしていたが、笑顔で歓待された。
「新年早々来客とは」
宗古は新年のやり取りも省略し勝吉に早口で、浜松城での出来事、肥前名護屋城での宗桂のおっさんとのやりとり、安宅船や静勝軒の状況を聞いていたが、納得したみたいだ。
手加減とか、だからいつもとか、淀君とかの言葉が聞こえた。
「そういうことね。すべてつながったわ。
家康様のところに行く前に、淀君に聞きたいことがある」
宗古はそう言うと吉川の手を引っ張り、早足で勝吉に淀君の離れの部屋を案内するようにお願いしていた。
勝吉は、宗古に勝吉たちでは会うことは難しい、茶阿局様をお呼びするからここで待っていてほしいと言って茶阿局の部屋に走って行った。




