第五十一話
王子稲荷神社の土御門という宮司から手紙を貰った宗古は、宗桂のおっさんに聞いた。
「手紙の内容は、わかる?」
「なんとなく。葛の葉から聞いていた。
令和という所がどこかにあって、葛の葉はその遠い国を破滅から救うことが使命だと言っていた。
大きな声では言えないが、家康が偉くなることが破滅を救うらしい。そうなればわしも名人になれるかもと言っていた。」
「ちょっとここで待っていて」
宗古は吉川の手を引っ張り、鳥居をくぐってスマホの雷神のアイコンを操作していた。
急に黒い雲が近づき、雷鳴が聞こえている。
「私を抱きしめて」
さらしをとった宗古の体は丸みを帯びて柔らかい。
吉川は宗古を抱きしめて愛おしいと感じる感覚に身を任せていた。
スマホが輝いた。
「ほら、レベル8よ。レベルが上がったのよ」
画面には、狐のような動物と8/10と書かれた数値とレベル8という文字が浮かび上がった。
それに宗古のスマホのアプリ画面で、また文字が追加された。
「宗古は葛の葉からのメッセージが見られるようになった」
葛の葉のアイコンを押すと、茶阿局によく似た女性が画面に現れた。
『今のまま歴史が歪んだまま進むと、徳川家康は暗殺され豊臣秀吉の子供と大野の一派がそのあとも日本を牛耳る世界になってきます。
ある日世界的な緊張で、豊臣家の末裔と大野の子孫が最終兵器を全世界に発射して地球は滅びます。
将棋の名人も囲碁の算砂が兼務し、家康亡き後にも大橋宗桂一世名人は生まれません。
家康が新しい王になるためには月の小面が必要です。
そして月が小面になったとき、歴史はあなたたちが知っている歴史に戻り、宗桂が一世名人に着いた後、宗古は表舞台に上がり二世名人の道を歩めるようになるという天啓を私は受けました。
これから辛いことが待っているかもしれませんがそれを乗り越えて、大橋家を救って下さい』
宗古は大きな瞳を更に大きくして、スマホを見て何か決心したような顔つきだった。
吉川の画面が壊れたスマホはガラスが割れて良く見えないが画面は光っていた。スイッチは入るようだ
吉川が持っていても役に立たないので、再びさらしを巻いた宗古の胸元にスマホを仕舞った。
「きゃー。スマホ冷たいよ」
そのとき吉川は、背後に殺気を感じた。
宗古を後ろにしゃがませて、短筒を背後の上に向けた。
鳥居の近くに鬱蒼と茂っている木が動いた。
吉川は発砲した。
何か影のようなものから何かが投げつけられ、影はそのまま後退して跳んで見えなくなった。
後ろを見ると宗古が気絶している。
胸元に何か刺さっている。
「大丈夫か、しっかりしろ」
その声を聴いて宗桂のおっさんも走ってきた。
ゆっくり宗古が目を空ける。
「血は出ていない? 胸が痛い」
吉川は胸元を空け、さらしをずり下した。
「大丈夫だ。またこれに救われた」
吉川は、手裏剣が刺さり画面が粉々になったスマホを、そっと宗古の胸元から取り出した。
非常事態なので、乳首までは見えないように宗古の胸元を少しずらしてみたら、うっすらとした打撲痕が白い胸元にあったが、それ以外の傷は無く体は無事だった。
「スマホが救ってくれたようだ。少し痛むが大丈夫だと思う。江戸城に帰ったら医者に診てもらおう」
「歩けないから抱いて。
だいぶおおきくなったでしょう。わたしの胸。
見ていいわよ」
宗古の顔に笑顔といたずらっぽい瞳が戻った。
吉川は顔を赤らめながら、宗古をお姫様抱っこしたまま、江戸城に向けて王子稲荷神社を後にした。
家康が残してくれた兵が回りを警戒し守ってくれた。
宗桂のおっさんが割れたスマホにある手裏剣を見て言った。
「九曜の紋がある」
宗古がお姫様抱っこをされたまま言った。
「忍びの月ね。
さっきのスマホのメッセージ、聞かれたかもしれない」
江戸城に戻ると勝吉が待っていた。
「宗古殿 如何なされました」
「いや。大丈夫です。甘えていただけですから」
「それでは、家康殿がお待ちです。
昨日の死体は、大野修理様のようです。
大変なことになりました」




