第三十七話
吉川と宗古は宗桂のおっさんの部屋に戻った。
大きな瞳で満面の笑みを浮かべた宗古は吉川を見て笑った。
「白塗りに似合っているわ」
「月の小面を引っ張り出したところまでは良かったが、手足を縛られるとは思わなかったよ。
助かったが、何故堀尾吉晴が小那姫の部屋にタイミング良く入ってきたのだ」
「スマホを持って家康様のところに行ったのよ。
本物の月の小面がこの浜松城に有ると言って。
あなたが小那姫の部屋に入ったところからスマホで家康様に聴かせたの」
「スマホから声が聞こえることについて家康は何も言っていなかったのか」
「ますます、私たちが未来から来た人だと思ったようね。
それで、小那姫が将棋盤の開く音で月の小面という単語が飛び出したら、すぐ堀尾吉晴様をお呼びになったのよ」
「なるほど」
「それで家康様は、あえて月の小面とは言わず、小那姫様の部屋に私が大事にしているものが有ると堀尾吉晴様に言ったの。
そうしたら、堀尾吉晴様が急に立ち上がって小那姫様の部屋に突進したというわけね。
すぐに家康様と私は堀尾吉晴様を追いかけたわ。
そして小那姫様の部屋をのぞいたら、あなたが縛られていて、そのすぐ横に本物の月の小面が転がっていたのよ」
「まあ、これで本物の月の小面が家康様のところに戻ったわけだし、めでたしというわけか」
宗古は前に写したスマホの画面を吉川に見せた。
『江戸城大火で失われた月の能面は神の使いが導く。伏見と王子を結ぶ真ん中に月が現れる。
伏見と王子の真ん中は遠江。
月を持つ伏見の女と王子の男が合わさるとき、大晦日の夜に伏見から王子への扉が開かれる。
そして新たな王が誕生する』
「最初の二行がここで解決したのね。
大野修理や忍びの月もここまでは読んでいるはず。
家康様は、私たちが神の使いだと言っていたわ。
でも最後の三行は私たちと家康様しかしらない。
月を持つ伏見の女が私で、王子の男があなただとしたら、戦国時代の伏見から令和の王子と読めるから、この文章は令和に再転生するヒントが書かれていることになるわ。
家康様と江戸で話をする必要があるわ。
それから王子のことを何も知らないから江戸に行って王子稲荷神社について調べないといけない。
大晦日まであまり時間もないし急がないと」
宗古の横で例のごとく、宗桂のおっさんはいびきをかいてぐっすりと眠っている。
「スマホの風神雷神は何の役に立つと思う?
今、風神のアイコンを押したけれど何も反応が無いのよ。
今度は雷神のアイコンを押してみるよ」
突然、城外に雷鳴が轟いた。
「行ってみよう。あの城内の小さな稲荷神社の祠に」
吉川は宗古の手を取り、階下の祠に下って行った。
スマホが輝いた。
「ほら、レベル7よ。レベルが上がったのよ」
画面には、狐のような動物と7/10と書かれた数値とレベル7という文字が浮かび上がった。
それにスマホのアプリ画面で、また文字が追加された。
「宗古は武器の風神が使えるようになった」
宗古は風神のアイコンを触った。
急に雷鳴に加えて、城内に押し寄せる強い風の音がした。
城がミシミシと音がするくらい強い風だ。
しかし、しばらくたつとやがて雷鳴が止み、その後風も止んだ。
三十分くらい持続するようだ。
「雷鳴は、私が稲荷神社でレベルアップをするときに使えそうね。
風は何に使うのかな?」




