第二話
このおっさん誰だ。婿殿とは?と吉川は考えていると、想子が言った。
「父上、能面を作る名人石川龍右衛門様が先日、秀吉太閤殿下に雪・月・花の三つの能面を献上されたと聞きましたが本当ですか」
「そのようだ。そういえば婿殿、いやもうすぐ婿殿になる早月殿、将来わしは将棋で扶持を頂くことが希望じゃ。そのためには時の天下人に扶持のある将棋所名人として命じられることになる。その跡継ぎも世襲制の名人になってもらう必要がある。そうこに、昨晩伝えたのじゃが、世襲制名人は後継ぎがいるし男でなければならん。二か月後の祝言で正式の夫婦になったら子作りに励め」
吉川はひっくり返りそうになった。
どうやら目の前のおっさんは転生した女子高生の父親らしい。そして私は女子高生の婚約者なのか、二十一年間年齢イコール彼女歴ゼロの俺が結婚?
一応下半身を確認したが、あった。女に転生したわけではない。
おっさんは続けた。
「今の大橋家は男の跡継ぎがおらん。しかし娘のそうこがいる。孫ができるまで対外的には、娘を男の後継ぎとして活動させたい。結婚を機に成人の儀を行うが、女の裳着ではなく対外的には男子の元服の儀を行い結婚することになる。幸い早月殿は顔つきも中性的で名前も別の呼び方をすれば、早月になる。早月殿は江戸の王子稲荷神社の宮司の子じゃったが、商売で縁があった宮司が病死をする前に頼まれて子供を引き受けたのじゃ。早月殿も宮司以外なら何でもいいとわしについてきた」
おっさんは更に続けた。
「どうじゃ、外では、娘は大橋宗古と漢字にし、婿殿は大橋さつきとひらがなに変えることでいいな。宗古は男、さつきは女。二か月後の元服と祝言が楽しみじゃ。今日からしばらく早月殿はわしと尾張へ行商じゃ。二か月娘に会えないのは寂しいか。わっはっは」
どうやら僕は戦国時代の王子稲荷神社の宮司の子に転生したらしい。そしてあの瞳の大きな整った顔立ちの女子高生は大橋宗古、確か将棋の二世名人になる予定の人に転生したらしい。そして二人は夫婦に?しかも男女逆転で。行商に旅立つ前に女子高生に聞くと、彼女の父親は宗桂という商人で将棋も強くて豊臣秀吉とも盤を囲うらしい。
あっという間に二か月が過ぎ、行商先の尾張から明日京都の女子高生の家に戻る。
女子高生は十六歳になったらしい。
「ただいま」
女子高生が走ってきて俺に抱きついた。着物の胸の先端が当たっているのだが。
俺の顔はトマトのように赤くなった。彼女も女のまま転生したようだ。