第三話 チームへの提案
忙しく働くチームメンバー。
自分が盾となり切れずに、さらなる負担をかけることになる。
それでも、なんとか事態を打開しようと、いくつかの提案を用意して、ランチに向かった。
「早めに出ようか」
メール処理や、資料作成、社内外への連絡。
チームメンバーは息つく間もなく、手を動かしてくれている。
でも多少の事は犠牲にしてでも、今は話をしないと。
今よりも、もっと大変になる。
ランチタイムで混み合う前に、話ができそうなテーブルを確保したい。
「あと5分だけ、よろしいですか?」
商品開発から製品に携わってきた、商品をこよなく愛する女性、藤村。
電話を塞いで、頭を下げながら伝えてきた。
営業との会議で、今週中に仕上げると約束した資料。
自分のその場しのぎの対応だった。
それを他部門とやり取りをしながら、藤村がパソコン画面に映した資料を修正している。
藤村は、すぐに電話口の相手との話に戻った。
両手を合わせ、藤村に向かって、すまない、と合図を送る。
相手と話をしながら、こちらに手を上げる藤村。
「では、10分後にエレベーターの前に集まりましょう」
チームメンバーは、おのおののやり方でオーケーのサインを送ってきた。
藤村も電話対応をしながら、指を丸くして笑みを浮かべる。
ーーー
「これが、本部長からの話。営業本部も、大賛成だって」
ランチの注文が終わり、お手拭きで手を拭いたり、水に口をつけたりしていたが、皆手が止まる。
「勘弁してくださいよ〜」
「営業もひどいですよね!」
「すごい事になりましたね……」
各々の口から言葉が漏れ出る。
「申し訳ないね、力不足で」
リーダーとしてどうあるべきか――
考えるのも面倒だった。
でも、自然とチームに謝らないわけにはいかなかった。
営業から上がってきた、チームの最若手、山口が口を開いた。
「評価を追わないと言っても、それって解決にならないですよね」
本社経験の浅い山口が口にすることは、その他のチームメンバーが口にせずとも思っていたこと。
でも、そのレベルの話が、本部長には分からないのだろうか。
「山口の言うとおりだね。
でも、本部長なりに考えてくれたことだから……」
納得できない。
そんな表情を浮かべる山口。
「そこで相談なんだけど」
注文したランチが、ばらばらとテーブルに並べられ始める。
ナプキンを膝に開いたり、食器を手に取ったり、テーブルの上で皆の手が忙しく動き出す。
「今、みんなで必死になって、火消しをしてくれている。
でも、モグラたたきになっちゃって、いつまでもモグラが顔を出してる。
それどころか、モグラがますます増えてるよね……」
「本当にそうです、部長の言う通りです」
笑顔で相づち打ってくれるのは、樽橋という女性。
この領域に長く携わっていて、外部の関係者や業界に関係する専門家との顔が広いらしい。
リーダーの許可を得ることなく、神出鬼没に全国を飛び回っている。
でも、外部との人間関係を壊すわけにもいかず、ベテランでもあり、あらためて介入はしていない。
ただ、対人関係の能力が秀でているのは、間違いない。
その樽橋が笑顔で賛同する。
「そこで、急がば回れ。
終日ワークショップを開催するのはどうかな。
今うちのチームは分単位で追われてるよね。
でも、まだ戦略のコアも無いから、定まらない事も多い。
俺も、じっくりみんなと製品について話した事ないし、教えて欲しいし。
一度しっかりと製品のプロファイル、ポジショニング、ターゲットの見直し含めて、マーケティング戦略のコアを固めてみない?
それさえ固められたら、チーム内でも持ち場を分けて、モグラに対応できるかもしれないし……」
真っ先に口を開いたのは山下だった。
「いいですね、そうしましょう。
私もそれを考えていたので、大賛成です」
"溺れる者は藁をもつかむ"
今だから思う。
あの時の山下の言葉は、自分にとって藁だった。
顔を合わせる他部門すべてが敵のような状況下で、まさに、溺れていた。
そこに、山下の言葉は、すがりつきたくなるもの。
当然藁だとは思わないし、すがりつく対象の選択肢も無かった。
「では皆さん、よろしいですね」
そこで、若手の中山が発言をする。
「では、そのワークショップ、私が企画しますよ。
内田さん、あとで相談させてください」
中山は、外部のコンサルから転職してきた若手。
製品知識は古参のメンバーに劣るものの、ベースのスキルが高く、何でもこなせる。
他のメンバーが、"顧客のため"という言葉を多く使う中、中山は一貫して"どうしたら評価されるか"という社内での位置づけを一番気に掛ける。
いい仕事をしたら、結果として社内で評価される。
それがあるべき姿。
そんな話を中山にしたことがあった。
でも中山は納得しない。
『なんのために働いているかって、評価されるためですよね』
と迷いなく答えていた。
その中山が、自ら手を挙げる事を厭わない。
――これも、評価につながるからかもしれない。
でも、今は助かる。
「それはありがたい。
では、申し訳ないけど、後で予定を調整させてください」
ようやくランチのサラダにフォークを入れた。
サラダを半分ほど減らす。
チームメンバーも、無言でランチを食べ始めていた。
「それから、もうひとつ相談したいことがあって」
食べながら、みな目を向ける。
「ワークショップの後でいいんだけど、営業との定例会を別途持ちたいと思ってる。
何も知らないと、向こうもどうなってるんだと思うだろうし。
相談しながら進めるという体裁も整えたら、多少は気がおさまらないかな」
「それは、いいですよ。是非やりましょう!」
営業上がりの、最若手の山口が反応した。
「支店長連中との定例会だと、朝早くの電話会議になるから、また負担が増える。
皆はどう?」
チームメンバーは、等しく頷いた。
一人を除いて。
「外部とのアポイントが結構入っているので、参加できないことも多いかと思いますが……」
外出の多い樽橋だった。
「樽橋さんは、外部の関係者との面談を最優先してください。
チーム全員が出る必要も無いので。
ただ、俺だけでは対応しきれないし、営業が何を考えているかは一緒に見てもらえると助かる。
出れる人は極力参加をお願いする」
「ありがとうございます、部長」
樽橋は、嬉しそうに目を細めて返してきた。
基本は役職で人を呼ばない。
でも、この樽橋だけは、"部長"と役職で呼ぶ。
それなのに、役職の力が一番通じないチームメンバーだとも感じた。
それでも得難い人材だから……。
ーーー
オフィスに戻る。
エレベーターの前で、山下がそっと離れていくのが見えた。
「ちょっと、本部長に報告だけしておきますね。
ワークショップの件、応援していただけるかもしれませんし」
「ああ、頼むよ」
助かるな、と思った。
自分が本部長に直接話すよりも、山下から伝えた方が、本部長は耳を傾けてくれるかもしれない。
ロードシャイン以前からの長い付き合いだ。
その背中が、エレベーターに吸い込まれていくのを見送って、自席に向かった。
お読みいただきありがとうございました。
魔法の杖が無いビジネスシーンで、忙しいからこそ基礎を固める。
それを選択した内田。
多様な背景や価値観を持つチームメンバーと、力をあわせて難局を乗り切れるのか。
事態は改善するのか。
この後の展開も、是非おつきあいください。




