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第一話:転職

戦力外通告を受ける事となる会社・シーブルーに転職したのは一年前。

内田は、その時のことを振り返る。

「だらしない仕事人生に終止符を打ち、今度こそ、忠節を尽くして参りたいと思います」


ちょうど一年前。

リーダーたちとの会合でのあいさつ。


外資系を渡り歩いていたことは周知のことだったので、自分をネタに軽く笑いを取った。

でも、その気持ちは嘘では無かった。


ーーー


社会人デビューした時は、定年までその会社に勤めるつもりだった。

ひょんなことから初めて他社の面接を受けた。


小さな会社だったから、大手での経験は武器になった。

君を必要としている――

心地よい言葉に舞い上がって転職してしまった。


小さな会社で、経験を積もうと思っていた。

でも、子供の成長に伴って、リスクを冒せなくなる。


長期のローンを組んで家を買う。

習い事や塾、”まわりがそうしてるから”という抗しがたい暴風雨に流される。


大企業にもどらないと……そんな強迫観念に苛まれるようになった。


そこからだった。

”キャリアアップ”という枕詞で、転職エージェントから定期的に連絡が来るようになる。


直前に勤めていたアメリカ系の企業・ロードシャインは、M&Aで最大手のムンダックに吸収された。

弱い立場から、もう一度頑張るしかない。

そうあきらめていた。


ロードシャインの幹部たちの多くは、社員の雇用を守るため、最後まで残ってムンダックと統合の協議を重ねていた。

自分も、自らのチームメンバーの行き先の確保に東奔西走したり、複数のプロジェクトをムンダック側に引き継ぎながら両社の混合チームを立ち上げたり、ムンダックから要求されたリストラのプロジェクトの汚れ役も引き受けた。


そんなある日、本部長から携帯に連絡があった。

本部長は早々にロードシャインを去り、老舗のシーブルーに勤めていた。


ロードシャインで担当していたプロジェクトの中には、本部長の部門を助けたり、全社的な極秘プロジェクトもいっしょに取り組んでいるものもあった。


だから、本部長はシーブルーに呼んでくれた。

頑張っていたら、誰かが見てくれている。

助けてくれる。


その時は、そう思った。


でも、ロードシャインの幹部役員からは警告もされていた。


「あいつは、気を付けたほうがいい」


ーーー


担当する品目も魅力的だった。


もう落ち着こう。

これからは転職するより、信頼を得よう。


オファーレターに書いてあった役職は、”部長”。



でも――

リーダたちとの会合であいさつをした後、その会議室を出る。

いままでのような、幹部対応では無かった。



入社してすぐ。

社内の組織図を見たら、自分の役職には”マネージャー”と記載があった。


「日本語では、役職は本部長が自由に決められるのです」


人事部に質問した時の返答。


好意を持って、呼んでくれた人への感謝。

それが自分の役割や待遇を細かく確認することへの障害となった。


本部長に質問しても、今準備している、と言われた。

それ以上聞くのをためらった。


役職が下がっても、頑張ればいいか。。。。。


いずれの会社でも、それなりに活躍してきた。

自信もあった。


ーーー


「よろしくお願いしますね、内田君」


新しく担当する製品のプロマネは、ロードシャインにいた本橋。

そして同じチームに山下がいた。

山下も、ロードシャインにいた。


この時知った。

本橋も山下も、本部長がロードシャインに連れてきた子飼いの社員だった。

本部長がシーブルーに来てから、早々に本橋と山下を呼んでいたらしい。


本部長は、とぼけていたのだ。

組織の準備なんてしていなかった。


はじめから本橋が部長。

既に埋まっていた。


「内田君が来てくれて、本当に心強い!」


本橋は、ロードシャインの市場調査部門の一員で、必要な時に仕事を発注していただけ。

山下は、営業では優秀だったが、ビジネスフレームワークを知らずに、気持ちと情熱でプレゼンをするタイプだった。

当然、プレゼンの後は、上層部のため息を耳にした。


ーーー


「本橋さん、もうタイムライン的に厳しいですよ。

もうそろそろ決めないと……」


「いや、少し考えたい」


数か月たってから、こんなやり取りが増える。


でも、きっとプロマネをやったことが無い。

何かを調べてからでないと、イメージがわかないのかもしれない。


そんな反発を押しとどめながらも、自分の口調も厳しくなってくる。


「私の方で提案しましょうか、本橋さん」


「もう少し待ってくれるかな、内田君」


「はあ……」


そういえば、自分の部下には良く言っていた。


”提案しないのは罪。

でも意思決定された後に従わないのは罪。

意思決定したアクションの結果をフィードバックしないのも罪”


タイムライン、チームの役割分担、発売計画のタスクリスト、マーケティングや販売戦略のフレームワーク、そしてテンプレートに入れ込む自らの考え。

業務が終わってから、休日もつぶし、使命感を持ってベストを尽くした。


それを本橋に渡す。


「私の方で整理してみました。

少しでもお役立ていただけたら」


「これはありがたい。

感謝するよ内田君!」


しかし、その後のチーム会議でも、他部門との協議でも、相変わらず進まなかった。

頑張って作った資料も埋もれたまま。



考えてみたら――

自分はプロマネの意気込みで入って来た。

でも、任命していないのは会社。


自分は与えられた役割に集中すればいい。


家族のために、お給料を持って帰る。

そのためには、大人にならないと。


こんな言葉を呪文のように頭の中で繰り返す。

通勤の時間は、こんな自分との戦いを繰り返していた。


ーーー


年が明ける。

オフィスで顔を合わせるたびに、儀礼的に新年のあいさつを行う。

わざわざ、あいさつのためだけに、オフィスを歩き回る人もいる。


でも、そんな儀礼的なものは鬱陶しい。


正月休みでリフレッシュした。

初詣でも、企業人として”正しい”行動をとれるように、祈った。

自分の与えられた役割を全うする。

もうリーダーでは無いのだから。


新たな決意。



製品発売の準備は、物理的に間に合わない状況。

マーケティングの基本戦略も固まらず、それにともなうプロモーションチャネルの策定も無い。


営業本部からは厳しい突き上げがある。

当然そうなる。


でも、自分は関係ない。

そう思わないと、自分がもたない。


ところが――


「皆さま、まことに申し訳ありません。

自律神経失調症になってしまいました……。

いまの職務を継続できそうにありません」


申し訳なさそうにする本橋。


「まことに申し訳ありませんが、私の後は内田君に引き継いでもらいたい」


「いや、それは……!」


神仏に対して、あきらめられるように力添えを頼んだ。

……覚悟を決めて出社した。


逃げたな……。



ロードシャインの役員からの言葉を思い出した。


「あいつは、気を付けたほうがいい」

お読みいただきありがとうございました。


吸収合併された企業に残るのもリスク。

しかし、声をかけられてよろこんだ先で、何が待ち受けているのかも予測がつきません。


内田の戦いは、ここから始まります。


この後も、お付き合いいただけたら幸いです。

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