表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/9

第1話 首席になりたかった

 

 首席で卒業したい。



 奨学金がなければ、リリア・エルドナーはこの学院にいられないのだから、それは夢というより必要条件だった。


 リリアは、王立アストレア学院魔法科の新五年生だ。


 王都から馬車で二十日かかる、東部地方の男爵家の娘で、この名門学院にいられるのは、ほとんど成績と奨学金のおかげだった。



 進級試験後初の実力テストの結果が貼り出された掲示板の前は、人でいっぱいだった。


 背の高い生徒たちの肩越しでは見えにくくて、リリアはつま先立ちになり、それでも足りず、小さく跳ねた。


「見えた?」


 背後から寮で同室のクラリスが声をかける。


「まだです」


 もう一度、ぴょんと跳ぶ。


 ようやく自分の名前を見つけた瞬間、リリアは止まった。


 二位。


 一瞬だけ、無言になる。


「……どうだったの?」


「二位でした」


 そう答えてから、少しだけ、がっかりしている自分に気づいた。


「十分すごいじゃない」


 クラリスはすぐに言ったが、リリアはそうは思えなかった。


 数週間前に留学から戻ってきたアルヴェイン王国第五王子レオンハルト・アルヴェインが、編入試験であっさり首席を取って以来、2回。その席はずっと埋まったままだ。


 首席ではなかった。

 なら、特別研究補助の枠は難しいかもしれない。


 けれど、生活支援特別奨学金の継続条件は満たしている、はずだ。


 できれば、学院に残って研究員になりたいし、無理でも王都の官庁には入りたい。


 王都で良家の結婚相手を紹介してくれるツテ(おせっかいな親戚)はいないし、自力で探せるほど自分が美人だと思ったことはない。

 だったら、成績で残る方がまだ現実的だった。


 それに、弟たちを騎士学校へ進ませる資金もいる。


 二位は悪くない。

 悪くないのだが、少しだけ、がっかりはした。


「一応、おめでとうって言う場面なんだけど」


 クラリスが呆れたように言う。


「ありがとう」


「心がこもってないわね」


「奨学金が心配で……」


 クラリスは一瞬黙ったあと、小さく息を吐いた。


「きっと大丈夫よ。」


 そう言いながら、掲示板をもう一度見上げる。


 そして、ふと端に視線を止めた。


「……あら?」


「どうしました?」


「これ、リリアじゃない?」


 指で示された先に、見慣れない紙が一枚貼られている。


 学院印入りの呼び出し票。


 対象者の欄に、自分の名前があった。


 行き先は――副学院長室。


「――副学院長に呼ばれた!?」


「何かしたの?」


「してない、してないですっ」


 即答すると、クラリスは納得したように頷く。


「そうよね。リリアは超優等生だし。奨学金のことかしら。特別ボーナスとか」


「ボーナス!」


 ぱっと顔を上げる。


 そのまま数秒考えて、リリアは首を振った。


「……むしろ打ち切りとか」


「なんでそうなるのよ」


「副学院長室ですよ?」


 クラリスは一拍置いてから、妙に納得した顔になった。


「……それは、ちょっと分かる」


 リリアも同意見だった。


 成績は良かった。

 でも、一位ではない。


 ――怖い、行きたくない。


 だが、副学院長からの呼び出しを無視する、という発想自体が現実的ではない。


 行くしかない。


 それは最初から決まっている。


 なら、問題はその先だ。


 何を言われるのか。


 それが分からないのが、いちばん落ち着かなかった。


 条件が変わるのかもしれない。

 追加の課題を出されるのかもしれない。


 どちらでも困る。


 けれど、それなら取り返しのつかない話ではない。


 そこまで考えて、リリアは小さく息を吐いた。


 奨学金のためなら――!


 顔を上げ、一歩踏み出した。


 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

第二話へ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
すごく読みやすくて一気に読めました。 二位なのに素直に喜べない感じがとても悩ましいですね。 副学院長の呼び出しがちょっと怖くて続きがとても気になります!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ