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第1章 : 温かく、乾いた黄昏(第2部)


ジオ:残された少年


「4つの音階の口笛が聞こえた。それはどこか、バイオリンの音色を思わせるものだった……」


「いや、人間の口笛だ。誰かがメロディを奏でている」


「一瞬……自分のギターを思い出した。あの曲は、俺の曲だ……」


「だけど、俺は今、楽器に触れてすらいない」


「なら、一体誰が俺の曲を知っているんだ?」


「口笛は途切れることなく、ずっと続いていた……」


「間違いない、あれは俺の曲だ」


……


「なぜ、他人が俺の曲を知っている?」


「あれを知っているのは、俺だけのはずなのに」


その衝撃的な思考が、俺を微睡みから引きずり出した。

夜の冷気はすでに去り、ベッドから起き上がって夢の世界から抜け出したというのに、心地よい黄昏の空気の中に、あの口笛だけがまだ響いていた。


(軽い咳込み)


コン、コン。


体調は万全とは言えなかったが、それでも俺はその口笛の主を探すために動いた。その音色は、俺が最後に紡いだ旋律と寸分違わなかったからだ。


ギターの弦はとうに傷み、もう何年も弾いていない。

それなのに、なぜ。


階段を下り、夕暮れの光の中で口笛の音を追いかける。そして再びあの柱へと顔を上げたとき、俺は思い出したんだ……


……


……


……


……


「夢じゃなかったんだ」


嘘だろ……。


「あんた、誰だ? 俺の敷地で何をごそごそ探してる」

不意の訪問者に向けて、俺は険のある声をぶつけた。


――ご飯持ってきたのよ、覚えてない? ほら、温かいうちに食べちゃって。


(え?)「そんなはずはない」


「誰なんだ、あんたは」


――クリスタルよ。昨日の夜、約束したでしょ? 助けに来てあげるって。だから、本当に来ちゃった。


「夢を見ているに違いない」「現実であるはずがない」「ただの幻覚だ」


空気はいつの間にか、あの不快な湿り気を失っていた。あたりは暑く、ひどく乾燥している。レヴィアタンを包むドームのひび割れだけが、すべてが壊れたままであることの証拠としてそこに佇んでいた。


肌を焦がすような強烈な西日。

この世界は毎日、極端な寒さと酷暑の間を行き来している。


そして今、目の前にいる見知らぬ女性。

一瞬……いや、違う。


彼女の目を見つめる。だが、そこにあの「青い瞳の亡霊」の気配はなかった。ただ、俺を助けようとしてくれている一人の大人の女性がそこにいるだけだった。

夕暮れの光に照らされた彼女の瞳には、不気味なものなんて何も宿っていない。


……


……


……


「今度の彼女は……本物みたいだ」


「現実の人間だ」


「本当に、そこにいる」


「俺のすぐ目の前に」


「あり得ない。信じられない」


……


……


……


「幽霊なんかじゃない。まともな人間だ」


「ただの、一人の女性だ」


クリスタルは柱から下りてくると、アルミの容器に入った食事と、見るからに脆そうなプラスチックのフォークを俺に手渡した。

アルミの蓋を外すと、中から温かい湯気が立ち上る。


……


その料理を見た瞬間、胸の奥から強烈な郷愁ノスタルジーが込み上げてきた。誰かが自分のためにご飯を用意してくれるなんて、一体いつ以来だろう。


炊きたての、料理の匂いが嗅覚を支配する。一気に激しい飢餓感が襲ってきた。

上質な肉の匂い、それからバター、他にも何かの香りが混ざり合っている。


何年もずっと一人だった。誰も俺に何も与えてくれなかった。それなのに今日、この人が俺を気にかけてくれている。


じりじりと照りつける太陽の熱が、心なしか俺の咳を癒やしてくれるような気がした。


中身は、ポークチョップに、ご飯、それからマッシュポテト。

俺は、その親切な女性の顔を見つめた。


一瞬、目頭が熱くなりかけたが、俺は必死に表情を硬く保った。

彼女の顔立ちは穏やかだった。まるで、人生の辛い時期というものを、すべて知り尽くしているかのような顔だった。


――ほら、食べなさいな。


俺はまだ信じられない思いのままフォークを動かし、過去に思いを馳せながら、一口ずつ口へと運んだ。

プラスチックのフォークは脆く、食べている途中で何度もパキパキと折れたが、それでも俺は手を止めず、貪るように食べ進めた。


俺のために料理を作ってくれる母さんは、もういない。

正式には、父さんは……。フロントヤードの片隅に、ひっそりと眠っている。墓石もない、ただの私的な弔いだ。レヴィアタンの新政府が、死者の数と遺体をすべて隠蔽すると決めたから。

あの、度を越した暴力によるクーデターの結果として。


「……ずいぶん、久しぶりだ」


――ん? 何か言った、ジオ?


「……誰かとこうして会うのが、久しぶりだって言ったんだ。ありがとう。……本当に、感謝する」


……


空になったアルミの容器を見つめる。美味い食事を味わい、誰かが隣にいてくれた。それだけで、胸の中に小さな灯がともったような、そんな喜びを感じていた。


ふと視線を戻すと、我が家の壁に走るひび割れが、痛ましい過去を思い出させる。

クリスタルは静かに、俺の言葉を待つように見つめていた。


……


「あんた……さっき、口笛を吹いてただろ」


――ええ、そうよ。


「そのメロディ、どこで覚えた?」


――ずいぶん昔ね。私がまだほんの子供だった頃、今はもう存在しない国の路地裏を彷徨っていたの。レヴィアタンができる前は、世界にはたくさんの国があったのよ?


――名前すら歴史から消し去られた国々がね。レヴィアタンからずっと北にある、凍てつく街の片隅。家族もいなくて、私も今のあなたみたいだった。


――その凍える街でね、一人の浮浪者が私を哀れんで、一本のフルートをくれたの。寒さと飢えから守ってくれた。でも、冬の一番厳しい時期に食料が底を突いてね。何週間も食べるものがなくて、もう餓死する寸前だった。高熱にうなされて、悪い夢ばかり見て、もうダメだって思ったとき……その寒さと飢えの中で、私の中から何かが震えたの。それが、あの曲。……終わりの始まりを告げる、歌。


彼女が顔を上げ、俺の目をまっすぐに見つめた。

その瞬間、俺は彼女の瞳の奥に、あるものを見た。


鏡だ。


歪んだ鏡。その中に、俺自身の姿が映り込んでいた。


――レヴィアタンは、最初からこの名前だったわけじゃない。ここは古い都市の『遺跡』の上に建てられた場所なの。私、今でもその国の名前を覚えているわ……。確か、あの国は……


……


「エスパニャガルド?」


「アルヘント?」


――ううん、違うわ。


――そう、思い出した。


――スペイン、っていう名前よ。


――私はその、ずっと北の方に住んでいたの。正確に何が起きたのかは、子供だったからよく分からなかったけれど……噂ではね、『機械たちの反乱』だとか、『どこかの国が終末兵器を放った』だとか言われていたわ。


――すべてが、一瞬で消し去られたのよ。


「レヴィアタンが建つ前の歴史なんて、公的な記録には一切残ってないはずだ。あんたの言ってることは……」


――分かってるわよ、ジオ。でもね、私が言ったことは全部、本当に起きたことなの。


……


……


「……分かった。だけど、あんたの話を証明する本や記録はこの世界に存在しない。それは分かってるな?」


クリスタルは、どこか面白がるような笑みを浮かべた。


――だから、分かってるってば。


「……一つ、聞いていいか、クリスタル。あんた、俺がギターを弾いているのをどこかで聞いたことがあるんじゃないのか?」


――くすっ、あはは! 何言ってるのよ。もしかして、私にラブソングでも捧げてくれる気?


「違う。俺が言いたいのは……」


――はいはい、分かったから。ジオ、気持ちは嬉しいけど、私は年下の男の子にはあまり興味がないのよね。


「……誤解だ。言い掛かりはやめてくれ」


――からかってるだけよ。あなたって可愛いわね。あ、そうだ、大事なことを忘れるところだったわ。


「……何だよ」


――ジオ、私ね、毎日ここにあなたのご飯を運んであげることはできないの。わかる?


「そんなこと、頼んだ覚えはない」


――知ってるわよ。でも、もっと美味しいものが食べたくない? 私はね、どこに食料があるか知っているの。


「……それは、興味がある」


――じゃあ、さっきの約束、覚えてる? 理由は聞かずに私についてきて。レヴィアタンの街を、目的地まで一緒に歩いてほしいの。……お姉さんのお願い、聞いてくれる?


「……確かに、約束したな。分かったよ。だけど、レヴィアタンの通りは危険だってことぐらい、俺だって知ってる」


――あら、私がどうやってここまで来られたと思ってるの? 心配しないで、変な奴らに絡まれたら、私がとびきり怖い顔の作り方を教えてあげるから。退屈はさせないわよ。


……


「……やっぱり危険だ」


――ねえ、ジオ。あなた、ちょっと物事を難しく考えすぎよ。そんなに眉間にシワを寄せてると、老けちゃうわよ、少年?


「……子供扱いするな」


――ふふ、じゃあ私と一緒にいるときはさ、少し肩の力を抜きなさいな。悪いようにはしないから。『約束』するわ。すべて上手くいくから、私を信じて。


……


――さあ、おいで。


差し出された彼女の手。裏切りのない、大人の、どこか包容力のある手が、俺の応えを待っている。


俺は手を伸ばし、その約束に応じた。


がっしりと、お互いの手が重なる。

鋭い視線が交錯し、握り合わされた手が、一見するとちっぽけな、けれど確かな繋がりを固定する。

クリスタルの唇から、気取らない、けれど絶対的な自信を秘めた笑みがこぼれた。


――……ねえ、そろそろ手を離してくれない? あなたの手、けっこう汗ばんでるんだけど。


「っ……す、すまん。つい力が入って……」


俺の慌てた様子を見て、彼女は「分かってるわよ」とでも言うように悪戯っぽく微笑んだ。


――いいってば。ちょっとリラックスして、ね? 何も心配することなんてないんだから。


――さあ、行きましょ。


もうすぐ夜に飲み込まれようとする黄昏の中、俺は我が家に別れを告げた。

過酷な歳月の間、俺を殻のように守り続けてくれた、あの愛おしい場所に向かって。

ファンの皆様をこのままお待たせするわけにはいかないと思い、まずは第二シーズンの第1話だけでもお届けできるよう、急ぎ執筆(書き直し)を進めました。現時点ではまだこれ以降の章の改稿は完了しておりませんが、この第1話が、皆様との「新たな約束」の始まりであると受け取っていただければ幸いです。


一度全シーズンを完結させると心に決めた以上、この新シーズンを開幕させることは、私にとって物語を最後まで描き切り、何より大切な読者の皆様への恩義に報いるための大きな原動力(義務)となります。これから先も時間と力を尽くし、この物語を誠実に紡いでいく所存です。


今回はしっかりと時間をかけ、自分自身が十分に納得できる、期待通りのクオリティに仕上げることができました。


新しく生まれ変わった彼らの旅路を、どうか楽しんでいただけますように。

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