だから何やってんのヒロイン
何事もなく最後の1年を過ごし卒業したマユリカは、王都のタウンハウスで3ヶ月後に迫った結婚式の準備をしていた。
王子も既に侯爵家に居を移しており、残務処理の為週の半分ほど王宮に通っている。
そんな忙しい中でも時間を捻出して週に数回お茶の時間を過ごし、結婚式や領地経営などの情報の共有をしていた。
天気が良いからと東屋でファーストフラッシュの紅茶と庭に咲き誇る花々を楽しみながら、ゆったりとした時間を過ごす。至福の時である。
「そういえば2年連続入学出来なかった令嬢が、今年やっと入学したようだよ」
「あら、入学出来たのですね」
紅茶をこくりと一口飲み、また入学出来ないものとばかり思っていたと含ませながら返事をする。本気でまたやらかすと思っていたし、マユリカは卒業したので関わる事はないだろうしと、ヒロインは既にマユリカの中でどうでもいい対象になっていた。
「しかし彼女凄いね、入学して1か月で北限の修道院に送致する事が決まったよ」
「あー・・・・・・」
北限の修道院、別名『花園』。別に花園に囲まれている修道院ではい。寧ろ夏の2週間以外雪に覆われた極寒の地である。
何故花園と呼ばれているかと言うと、ヒロインのように脳内がお花畑まみれの令嬢が送られる修道院だからだ。
ヒロインのようにこの世界が乙女ゲームヒャッハー!している訳ではなく、王族や高位貴族の伴侶を夢みて脳内に花を咲かせる令嬢がやらかすとここに入れられるのである。特に下位貴族の令嬢多く、子爵男爵令嬢なのに「王族や高位貴族に見初められる健気な私」と泥酔した酔っ払いも真っ青な酔い方をするらしい。
特に5年前、王太子殿下が学園に在籍中多発。しかも側近に内定している子息達も被害を受け、彼らが在籍した3年間でかなりの令嬢が北限の修道院に送られたようだ。
王太子殿下曰く「夢は寝ている時にだけ見てくれ」
ごもっとな言葉である。
お花畑な令嬢を受け入れてばかりで修道院にある部屋が足りなくなるんじゃないかと心配は無用。大半の令嬢は半年~1年で脳内の花畑が枯れ、現実を見るようになり落ち着くのでそうなったら何度も面談をし、家が責任を持つのを条件に退院出来るので年に複数人送っても大丈夫なのだ。
しかし今回修道院に送られるヒロインは男爵令嬢になってからの言動に加え、入学試験でのやらかしと入学してから「何で攻略対象が誰もいないのよ!」や「王子は!?公爵子息は!?ワンコ系子息は!?逆ハーレム出来ないじゃん!」など意味不明な事を言い、「てか高位貴族の男誰もいないってどういう事!?」という言葉で花畑令嬢認定され修道院送致が決まったらしい。
本当何やってんのヒロイン。
ヒロインよ、乙女ゲームの設定を思い出してほしい。2年遅れで入学してるんだから同い年の攻略対象以外卒業していると何故気づかなかったのだろうか。しかも同い年の攻略対象は2年末に隣国の学園に留学を決め、学園に在籍していない。もう乙女ゲームを開始出来る要素がないのだ。
現在学園に通っている生徒で高位貴族は全員令嬢。これは本当に偶然なのだが第二王子が生まれた年から数年、ベビーラッシュだったのに、王子の1、2歳下の高位貴族で1人も令息が生まれなかったのだ。
なのでいくら探しても学園には一番高い階級の子息でも伯爵家、残念無念また来世である。
そんな多数令嬢が生まれた高位貴族の中で王子の婚約者を勝ち取ったのがマユリカの侯爵家だ。
決め手は「しっかりしてそうなのにどこか抜けてそう」
小さいながら何かを捉えた王子。まだ開花していないのにおかんセンサー恐るべし。