07.冒険者ギルド(1)
街にたどり着いた。
港町アドリアンロット。
この辺りでは最も栄えた街だということらしい。
シガンは街への道すがら、ベルから冒険者の仕事について聞いていた。
どうやら無一文でもなれるらしく、仕事は荒事が多いとのこと。
……俺向きだよなあ、どう考えても。
シガンはベルに冒険者ギルドへの案内も頼んだ。
アドリアンロットの街に入るには特に身分証明証は不要らしい。
それでも門衛に声をかけられた。
「ベルちゃん、どうした。他の四人は? その男は?」
「……他の四人はゴブリンに殺されました。私はたまたま逃げた先でシガン様に助けてもらったんです」
「ほう。立派な竜虎の絵図を背中に背負っているな。どこの紋所だ?」
「……これはスカジャンっていうんだ」シガンは応えた。
「スカジャンのシガンか。分かった、通っていいぞ」
なにやら地名かなにかと間違えられている気がしたが、シガンは訂正するのが面倒なのでそのまま街へ入った。
街は賑やかだった。
人が溢れ、物が溢れている。
活気があった。
なるほどこの辺りで一番栄えているという話に嘘はないらしい。
シガンとベルは冒険者ギルドにやって来た。
門からすぐのところにあったので、迷う道理もない。
両開きの扉は開け放たれており、中には有象無象のツワモノどもが酒を片手に談笑している。
シガンはやや緊張しながらも、カウンターに行く。
カウンターには美人のお姉さんがいた。
「あらベルちゃん、早かったのね。ゴブリン退治はどうだった?」
「いえ……それが四人がゴブリンに殺されて、私だけ逃げ帰ってきたんです。依頼失敗です」
「まあ! 四人はどこで?」
「それも分からなくて……何も持ち帰れませんでした」
「分かりました。死亡で処理しておきます。依頼も失敗ですね……ベルちゃんたちにはまだ早かったかな」
「はい……」
「それで、そこの剣士さんはベルちゃんの何かしら?」
「俺は冒険者登録に来た剣士、シガンだ」シガンは言った。
「新規登録ですか?」
「そうだ」
「分かりました。こちらの紙に登録事項を記入してください」
「おう」
今更ながらシガンはベルや受付嬢と会話できていることに気づいた。
記入しろという用紙も日本語だ。
これは●が何かしたのか、それとも言霊のチカラなのかは判じ難い。
シガンは名前にシガン、クラスに剣士と書き、年齢に22歳、性別に男と記入していく。
それを横で盗み見ているベル。
ベルは「22歳……私は14歳ですよ」と何を思ったか自分の年齢をアピールしてきた。
「そうか。まだ14なのに冒険者か、大変だな」
「14歳で冒険者が大変なんですか? 普通だと思いますけど」
どうやら地球の常識は通じないらしい。
中学生が化け物と殺し合うことが当たり前だと言われてシガンは困った。
「なあ、ベルは冒険者なんだよな。何ができるんだ? その木の棒きれで何ができる?」
「え? 魔術が使えますよ。あ、あのときは接近されていて集中できずに魔術が使えませんでしたけど……一応、土と風と水の三属性を扱えます」
シガンは魔法ときたか、と感心した。
「なるほど、前衛が要るんだな? じゃあ俺と組もうぜベル。俺が剣士、前衛だ」
「!? いいんですか!?」
「ああ。ベルさえよければな。いろいろ教えてくれ」
「はい!」
「ちょっと、記入は終わったんなら用紙をくださいね。ええとシガンさん、剣士……と」受付嬢が記入用紙を取り上げた。
「はい、カードができました。これを首にかけておいてください」
ドッグタグのような小さな金属製のカードだった。
用紙に記入した事項が書かれている。
「なあ、年齢はこれずっと22歳なのか?」
「いいえ。シガン様、それは毎年、年が変わる度に1歳ずつ加算されますよ」
「そうなのか。なかなか便利だな。教えてくれてありがとうベル」
「えへへ」
「ベルちゃんたら、いくら助けてくれたからって懐きすぎよ……」受付嬢が心配そうに言った。