06.ベルベット
シガンは山間から、確かに街が見えたことに喜んだ。
さらに獣道に出て、茂みを歩く必要がなくなったことにも喜んだ。
「これで人に会えれば、完璧だな」
魔力のこもっていない言葉にも言霊が働くのだろうか。
シガンが言った途端、「キャアアアアア!!」という女性の悲鳴が聞こえた。
「おっと、こりゃ尋常じゃねえな。行くか」
シガンは人助けをすることに何の抵抗もなかった。
人助けをするために、危険を冒すことに何の抵抗もなかった。
だから駆けつけた。
女性がいた。
少女と言っていい年齢だ。
少女は「誰か! 助けて!」と叫びながら木の棒を振り回している。
少女を囲むのは醜悪な鬼だった。
ただしシガンが五年をかけて殺した鬼よりはるかに小柄だ。
シガンの胸のあたりまでしか身長がない。
「いま助ける! 《そこの鬼どもは死んでいる》!!」
するとバタバタと子鬼どもが倒れ、辺りはシンと静まり返った。
「え? え? いま、一体、何が?」
「ああいや……《君は俺が刀で子鬼どもをばったばったと倒したところを見た》んだ」
「素晴らしい剣技でした! 冒険者ですか?」
「冒険者? いや、俺は旅の剣士、シガンってもんさ」
「シガン様……」
「様なんてつけるなよ」
「でも……シガン様、どうか街までご一緒できないでしょうか? この山にはまだ三つ目狼やらゴブリンが跋扈しているのです」
「それはいいが、そんな山になぜひとりで入ったんだ」
「違います! ひとりじゃなくて、五人で入ったんです……ただし、ゴブリンに四人殺されちゃって……」
「死体は? どこにある?」
「走って逃げたから、どこにあるかは……」
「そうか。弔ってやりたかったんだが」
シガンは四人の使っていた道具などを回収したかったのだが、どうやら難しいらしい。
言霊を使えば場所は分かるだろうが、その技を見せていいものかどうか、判断に困った。
「ありがとうございます。でも私も彼らも冒険者、このくらいのことは覚悟していました。いえ……私には覚悟が足りなかったかな……」
「覚悟なんざあろうとなかろうと、死ぬときは死ぬ。そんなもんさ」
「はい……」
「じゃあ行くか。街へ」
「! ……はい!」
「そういえば、お前の名前は?」
「私、ベルベットっていいます。親しい人はベルって呼んでくれます」
「じゃあベル。街までよろしくな」
「はい、シガン様……!」
かくしてベルを伴い、シガンは街に向かった。
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