42.ダンジョン(1)
クラーケンは港に曳航され、無事にシガンの屋敷の食卓にのぼった。
味は完全にイカだ。
ただし濃厚な甘さと、狩りの依頼達成料で懐が暖かくなったのはイカとは違うところだ。
とはいえアドリアンロットに来てから、シガンの懐が寒かったことはないが。
「シガン様、もう無茶はやめてくださいね?」
「シガンさま、もうクラーケンは駄目だからね?」
「シガン。もう一度神様に祈らせないでね?」
さすがにシガンも今回は無茶だったと思っていたので、素直に頷いておいた。
さて金とは何もしなければ減っていくものである。
常に労働し、稼がなければならない。
シガンの始めた家庭菜園の巨大野菜の種は、今の所は伯爵に高く買い上げられているものの、数年スパンで見れば値下がりは明らかだ。
何か新しい商売を始めるべきだとシガンは考えていた。
言霊を使えば大抵の無茶は可能だが、あんまりアコギだと罪悪感で萎える。
何か面白くてみんなが幸せになれるような仕事が欲しい。
特に自分が楽しめるものがよいのだが……。
シガンが楽しいことと言えば戦うことだ。
「《実は屋敷の地下にダンジョンが広がっている》とか? なんちって」
ズズン……。
●は背後でため息まじりに言った。
「お前。そこの馬鹿なお前。何をトチ狂ってとんでもないことをやらかした?」
「え、今のアリなの?」
「並行宇宙のどこかに、屋敷の地下にダンジョンがある世界でもあったのじゃろう。まったく、考えなしじゃな……」
「すっげえ! これで戦い放題じゃん! しかも入場料も取れば勝手に儲かる!?」
「え、おい……」
「よおし、ちょっと地下を見てくるか! 改装も必要だなこりゃ」
「反省の色はどこへ……」
●は愕然としたまま消えた。




