39.もうひとりのシガン(2)
メオントゥルムから来た剛剣のシガンは、スカジャンのシガンとは似ても似つかない俗物だった。
歯は若いのに総金歯、耳にいくつものピアスの穴を開けて、腹がでっぷりと出ている。
しかし隙きのない足さばきをするため要注意だ。
一方のルフレミラントから来たカイトの方は、上着から覗いたあばらが浮くほどの痩身で、強そうには見えない。
しかし紫電の異名をとるのだから、それなりの強さはあるのだろうとシガンは見ていた。
そして決闘。
勝負はあっさりと決まった。
剛剣のシガンの剣が、カイトの剣を叩き折ったのだ。
「く、馬鹿な!?」
「ひっひっひ……得物には金かけろよ。これは魔法の剣だ。そんな安物じゃ打ち合いにならねえぜ」
「くそ、金貨を集めるのに必死で剣までは……」
「げひゃひゃ! 妹と同じく、常識ってもんを教えてやらねえとなあ!」
剛剣のシガンが剣を振るう。
カイトは剣を捨てて逃げまどう。
スカジャンのシガンは見ていられなくなって、ついに言霊を使った。
「《剛剣のシガンの剣も折れる》」
バキリ。
振り回した勢いで地面にこすった際に、剛剣のシガンの剣が折れたのだ。
剛剣のシガンは唖然として剣を見ている。
それを笑ったのはスカジャンのシガンだ。
「ははははは! どっちも安物使ってやがる。こりゃ引き分けだなあ?」
「なんだと、俺の勝ちだ!」
「おい、誰か剣を貸してやってくれ。芋臭いのが移るかもしれねえけど、剣がなければ俺との決闘ができねえからな」
「なんだと魚野郎! いいぜスカジャンのシガン、俺に剣を貸してくれた奴には金貨50枚をくれてやる! そこのカイトとかいう奴の死体つきでだ!」
「じゃあ剣を貸してやろう。ただし勝とうと負けようと金貨50枚を支払えよ」
なんと剛剣のシガンに剣を貸したのは、ゴブリンとオーガの集落を襲撃する依頼のときの冒険者のリーダーだった。
どうやらスカジャンのシガンの勝ちは揺るがないと信じて貸したようだ。
「へっへっへ。剣さえあればこっちのもんよ。おいスカジャンのシガン、まずはテメエからだ。それから金貨の野郎、逃げたら承知しねえぞ! 地の果てまで追いかけてやるからな!」
「すまん、シガン」紫電のカイトが悄然として戻ってきた。
「気にするな。どうせ、奴の腕前じゃ俺には勝てんよ」
決闘の結果について語るべきところはない。
あえて言うならば、リーダーの貸した剣を折らないように、剛剣のシガンの首を刎ね飛ばしたことくらいか。
「墓石には『シガン様の下僕、ここに眠る』。こう書いておいてやる」
こうしてふたりのシガンを巡る戦いは終わりを告げた。




