03.賭け
シガンはマヨイガを出てまず人里へ向かおうと考えた。
コンビニで久しぶりにポテトチップスを買って食べたいと思っていたのだ。
クレジットカードは有効期限が切れて使えないが、現金は些少ながら持っていた。
しかしマヨイガを出てからというもの、一向に街灯に出会わない。
というか、いずこかの山奥を歩き回っても、おっきな満月しか見当たらない。
さすがに現代日本に生きるシガンも、これはおかしいぞ、と気づいたときには既に遅し。
●が背後でため息まじりに呟いた。
「シガンよ。お前が鬼を殺してマヨイガを出たのはいい。しかし入口と出口が違えば、当然ながら出た先はお前の知らない場所だ」
「なん……だと……」
「ほれほれ。マヨイガの中で永遠を過ごせばよかったのじゃ。ここはどこかのう。並列宇宙のどこかじゃと思うが、日本じゃなかろうなあ」
「テメェ、そういう大事なことはもっと早く言え!!」
「くはははは。そうじゃ、そうじゃのう。お前が素直にマヨイガに留まっておれば必要ない知識。いちいち説明してやるものかよ」
●は背後で哄笑しながら消えた。
「チクショウ。日本じゃねえってか地球じゃねえよな、ここは」
地面にかがんで見える草花は、どれひとつとして日本では見かけたことのない形をしていた。
良く言えば生命力旺盛。
悪く言えば……ここが過酷な弱肉強食の世界であることを示していた。
シガンはジーンズのベルトに差した刀に手をやる。
Tシャツにスカジャン。
防御力は心もとない。
幸い、マヨイガでは消耗品は補充される。
ついでにほつれが出来れば繕いも勝手になされる。
だからシガンの身につけているものは新品同然だった。
「グルル……」
低い獣の唸り声が、茂みの向こうからひとつ、ふたつ、……数え切れないほどの数がシガンを伺っていた。
シガンはため息をつくと、満月に向けて言った。
「これから俺が生き残る方に全財産を賭ける」
シガンは財布からクレジットカードを抜き出して、満月に向けて放り投げた。
「年会費無料、ゴールド会員。ただし有効期限切れ。後は――」
財布の小銭をばら撒いた。
「景気づけだ。全部、持っていけ。ただし、俺が生き残ったら倍返しにしろよ」
●はシガンの背後でため息をついた。