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遠くで狼の声が聞こえる。傍ではパチパチという焚き火の音と、…不快な男たちのいびきだけ。
少し開けた山の中、適当な石に頭を乗せる。硬くて痛いけどないよりはマシ。あれから何時間が経ったんだろう、夜は深まり男たちは寝静まった。
彼らの顔がよく見える。木に寄りかかり寝てる者が2人と鞄を枕に寝てる者。
粗雑そうな奴らだけど驚くほどに音に敏感で。焚き火が弱まり音が静かになるとすぐに誰かが起きて木をくべる。この隙に逃げようものなら瞬時に捕まるだろう。
それに手は後ろに組まされて手首と胴体、足首をそれぞれ縄で縛られていて歩くことさえ出来ない。
きっと奴らは日が昇ってから行動するだろうから…体力温存のために寝ておいた方がいい。頭では分かっていても、ドクドク脈打つ心臓がそれを許してはくれない。
アドレナリンでハイにでもなっているのか、まっっったく眠くならない。…眠りたいのに眠れない。これが遠足の前日とかなら歓迎なんだけど。
「日が昇ったな」
「行くか」
男たちの目が覚めてからの行動も早かった。すぐに私はまた馬に括り付けられそうになって…必死に抵抗した。街から離れれば離れるほどきっと助けが来る確率は低い。
「ああ?いっちょ前に暴れてんじゃねえ、よっ!」
「う゛っ!!」
ごぽ、と喉の奥で嫌な音がする。腹を殴られて胃液が出てこようとしてる。
くる、しい。痛い、…口の中が酸っぱい。
だらしなく口に結えられた布の間から液体が漏れる。男はそれを気にする様子もなく、私を馬に乗せた。
「おーし拠点までもうすぐだな。…へっあともう少しでお楽しみだからまだ暴れんなよ」
尻を撫でられて…ぞくりと全身に鳥肌が立った。
お楽しみって、まさか…?……こいつらの目的は一体何?最初は馬車にある金銭かと思ったけど真っ先に私だけ攫って逃げた。目的は私?どこかに売る気なんだろうか?
でもどうして?攫うなら貴族の私ではなく民間人の方がリスクが少ない。それとも私を買いたいという奴でもいるのかな。はたまた、私に恨みを持つ人の仕業なのかな。…そこまで恨みを買った覚えはないんだけど。
お腹が痛い。
けどまた痛みのおかげで冷静になれた。ツヴァイとジルが無事なら、きっと助けを呼んでくれる。だからわたはそれまで時間をかせごう。…2人を信じて待ってよう。
馬を走らせて程なくして着いたのは簡素な掘立て小屋のある場所だった。馬を繋ぐと私は担がれて、焚き火を焚いた跡の残る場所へと運ばれた。
「どーだい嬢ちゃん。怖いか?」
「…………」
男の顔が近くまで来る。嫌な笑みだった。ねっとりと絡みつくような視線が私に降り注いで、すぐにでも逃げろと頭が警鐘を鳴らす。
「なんだあ?震えもしねえぞ」
「そらお前が弱そうだからだろ!」
「ははっは!ちげーねえ!」
「んだと!?」
勝手に言い争いをしていたかと思えば、大男が何かメモのようなものを見ていた。
「あー次は何すんだったか?ったくごちゃごちゃめんどくせーな」
「どうせ殺すのになんで注文付けんだか」
「拷問とか言うなよ?せっかく綺麗な顔してんだからそのまま抱きてえ」
手が、冷たい。震えを止めるようにぎゅっと手を握る。
大丈夫、大丈夫。きっと助けが来る。だから大丈夫。安心して、深呼吸しよう。
「怖がらせろったってなあ?」
「とりあえず口、外すか。俺は可愛い声が聞きてえ」
無遠慮に布を下にずらされる。濡れた口元に空気が当たって冷たい。
「きれーな顔してんなあ?早く抱きたくて仕方ねえよ」
顎を掴まれるけれど、私はただじっと男を見据えて言った。
「誰の差し金?」
「…なんだこいつ、叫びもしねえ」
「答える義理はねえよ。そうだろ?」
「い゛っ…!」
頬を殴られて悲鳴が出そうになるのを噛み殺した。絶対、怖がってなんてやらない。こいつらは恐怖に怯える顔が見たいんだ。あいつらの思い通りになんてなりたくない。
殴られた頬が熱い。痛い。きっと腫れるんだろうな。…これで分かった。こいつらは私を売る気なんてない。仮に売るなら顔なんて殴らない、本来の顔が分からず値段が落ちるから。
「痛えか?痛えよなあ?叫んだっていいぞ?誰にも聞こえねえがなあ!」
「見ろよこの髪!いーい匂いがすんなあ」
男の太い指が髪を撫でたかと思えば引っ張られて。痛みよりも全身の鳥肌の方が不快で。
「おい最初は誰がやる?」
「そりゃ俺だろ」
「てめえはこの前初めだったろ?」
「ありゃ小汚え貧相なガキの時じゃねえか。譲らねえぞ」
「キリが無えな。サイコロにすっか」
男の1人がサイコロを出した。木でできたそれは少し大きかったが使い込まれていたようで茶色く汚い。
「6」
「1だな」
「俺は2。………よっと」
「っしゃあ俺が当たりだ!」
「チッ…次は俺だからな」
「あー仕方ねえ」
サイコロへと行っていた目線が、一斉に私を見据える。
ぞっとした。この世界で初めて見る、どれもこれもが最低な目だった。学校で受ける嘲笑の目でも、友達や家族からの温かな目でもない、今すぐに消えてなくなりたくなるような、そんな目。
「胴の縄切れ。俺は足を切るかな」
「…っ!」
「へへへ!こんな上玉となんてなかなか無えからな。丸一日は遊んでから殺そうぜ」
「それまで気が狂わなきゃいいがなあ!」
ブチ、ブチと縄が切られて。嫌悪感が我慢出来ずに、…口から言葉が飛び出していった。
「いや!!触るな!…っ!離せえ!!」
「おおっとやあっと声を出したな」
「はは!いくらでも叫べよ!どうせ誰にも聞こえやしねえ!」
無理矢理足を開かされ、ざり、と太ももを指が撫でた。
嫌。嫌だ。気持ち悪い、嫌だ。耐えられない怖い助けてお願い誰か。誰か、誰か!!助けてくれないのならいっそ!!
「嫌だ!!殺して!!殺せよ!早く殺せ!!」
「ちょっとうるせえや。黙らせろ」
「誰か!!誰か助け……んんーー!!!」
口を塞がれて…涙で視界が見えなくなった。
…怖い。こんな怖い思い、したくなかった。何が転生だ、何が貴族令嬢だ。なんで私はこんなのに生まれ変わったんだ。もう殺してくれよ、前はあんなに簡単に死ねたのに。どうしてこんなに怖い思いをしなきゃいけないの。私が何をしたの。何をやったっていうの。それほどの過ちを犯してしまったとでもいうの。どうして、どうして、どうして!!!




