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「それに私、雷が怖くて。隣に居てくれたら平気だと思うんだけど」
「あ、メリー」
「…ツヴァイ」
しまった。隠れようか出て行こうか迷っているうちにさっさとツヴァイが曲がり角から歩いてきて見つかった…、てかツヴァイ歩くの早くない?もしかしてリーズ置いていく勢いで歩いてなかった?
「こんにちは、リーズさん」
「…こんにちは、ユーメリーさん」
私の顔を見ると一瞬だけその表情が固まったが、それはすぐ笑顔へ変わった。切り替えの速さ◎ね。
それより少し強調された【さん】付けが気になるけど…まあこんな喧嘩は買ってもしょうがないし無視しよう。あなた如きが私に様を付けないなんて!とか言ったらまさに悪役って感じだし。
「メリー、探してたのにどこ行ってたんだよ」
そばに寄ってきたツヴァイの顔には心配の色が浮かんでいて。昔から雷雨も嵐も別に怖くないのにツヴァイはいつも私の心配をしている。
私が怖がるとかいうより、雷雨によって私への被害が及ぶ事が心配みたい。だからこういう日は一緒に居ないと不安がるんだったっけ…、失念していたことに少し反省。
「ごめんね、どこも人が多いから落ち着ける場所がないか歩き回ってたの」
「別に…平気ならいいけど」
「あの…ユーメリーさん?ツヴァイくんともっとお話ししたいんです。さっきも二人でお茶しようって言ってて」
おーっとリーズさんつっけんどんなツヴァイの態度もなんのその一切引かないご様子!さあ対して青コーナーのツヴァイは圧倒的ヒロイン力の彼女になんと言うのか!
「は?そっちが勝手に喋ってただけだろ。俺はメリーといるから。行こう、メリー」
…呆気なく撃沈。すごく可愛い子なのにツヴァイったら絆されたりしないのかな?…女の子に興味ない…なんて言わないよね。
ツヴァイに腕を引っ張られ、リーズとすれ違う直前に慌てて代わりに謝った。
「リーズさん、うちの弟がごめんなさい…えーと、ではまた…」
存外歩くのが早かったのでこれだけしか言えなかった。掴まれた腕に少し力を入れられたようでつきりと痛みが走る。
階段を降りて少しして、流石にもうリーズも追ってこないと判断して話しかけた。
「ツヴァイ?腕が少し痛いの。離してくれる?」
「あ……、ごめん」
私の腕を離したツヴァイは何かを考える様に黙り込んでしまって…もしかしたら少し強引な彼女に嫌気がさしたのかな?と、気分転換を兼ねて誘ってみる。
「まだランチを食べていないんだけど食堂に行ってもいいかな」
「わかった」
「ツヴァイは食べた?」
「…軽く」
午後3時を少し回ったおかげか、食堂は結構空いていた。……のはいいんだけど人気のランチは売り切れてしまったそう。
でも食堂のおばちゃんが残り物でメニュー以外のものを特別に作ってくれたので大変満足。
ほうれん草やコーン、じゃがいもなどなど余り物野菜を存分に入れた具沢山のシチューと
鰆をムニエルにしてサラダ菜とパンで挟んだムニエルサンド、スティックサラダまであって超最高。
「…普通のメニューよりなんか豪華だな」
「ふふん、いいでしょ。これも食堂のおばちゃんと仲良くなった特権よ。ツヴァイには昨日作ったスコーンあげるね」
「ああ」
クッキーとスコーンをあげたのに食べずにじっと見てくるから、仕方なくツヴァイにも私のランチを分けてあげた。
「…美味いな、この魚サンド」
「んん、最高」
やはりご飯とは偉大である。…昔、飯が美味くて家が綺麗なら日本人はどんな過酷な労働環境でも文句言わずやる、みたいな話を前世で聞いたけどちょっと気持ち分かる、悔しいが。
ペロッとすぐ食べ終えたツヴァイは、また何やら先程の考えこむような顔に戻ってしまい…、さすがに私も気になって。何か困っているんなら、相談してほしいし。
「ね…何か悩んでる?困ってる事とかあるなら聞くよ」
「………こっちのセリフだ」
馬鹿でも見るような顔で返されて、おや?と思う。
「…最近、王子はさっきの女とばっかりいるって噂を聞いた。周りに聞いても実際事実らしいし…どうなってるんだ」
何かと思えばそんなことか。
「別に?王子に親しい女の子の友達が出来ただけよ」
「あのな…っ、…本当にそう思って言ってんのか?」
「………まさか」
一段と声を低く、小さくして言った。食堂にいる人はまばらで近くの席にも誰もいないけれど…念のために。意図を察したらしいツヴァイも、同じく囁くように言ってきて。
「メリーが辛いなら…、父さんにそう言えばいいだろ?無理して婚約者でいる必要はないって父さんも言っていたのに」
「…あなたまさか、お父様に王子の婚約者を辞められないか聞いたの?」
「今は別に関係ないだろ…、それよりどうなんだ」
「私は王子の意向に沿うだけよ」
ガタン、とツヴァイが急に立ち上がったせいで少し大きな椅子の音がした。
驚いてツヴァイを見上げれば、…色々な感情を噛み締めて我慢しているような、…怒りともとれる表情だった。
「俺は…っ!メリーが望んでるならいいって、……だから諦めて…!」
「ツ…ツヴァイ?どうしたの?少し落ち着いて…ね?」
手を握ると、今度は眉がへなりと下がって…そのまま机に突っ伏してしまい。
…よく分からないけど怒っているらしい弟の頭を撫でた。
「…メリー。父さんに言えよ、婚約者辞めるって」
「言わない。絶対に、言わないわ」
「なんで」
「…貴族間の結婚は…ましてや王族との結婚は私の感情一つでどうにか出来るものじゃないからよ」
宥めるように未だ顔を見せずに机に伏すツヴァイに言うけれど、納得出来ないのか顔は上げてくれない。
「メリーは王子を好きなわけじゃないんだな」
「それはどうかしら」
「………どっちにしろ俺はイラつくだけだ。…俺は?メリーにとって…ただの弟か?」
「ただの弟なわけない。たった一人の可愛い可愛い弟よ」
「…はあ」
なんだかデカイため息をつかれてしまった上に、撫でていた私の手をがしりと掴まれる。
顔を上げたツヴァイは、そのまま私の手を自分の頬へと寄せて。
「俺のこと好きだろ?」
「大好きよ?」
「…他の男にも好きとか言える?」
「言えるわけないじゃない」
「………ならまあ、いいか」
「あ、ジルトレには言えるかも」
「あいつは駄目だ絶対言うな未来永劫聞かせんなよ絶対だ」
「………え、ええ。ツヴァイがそう言うなら…」
ぶすくれた顔のままだけれど、どこか昔のツヴァイを思い出す。
やっぱり大きくなったとしても、可愛い私の弟だ。




