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「それでね、アデラール様」
「はは!まだ続きがあるのか?」
物語とは、急に展開が動くものである。私はまざまざとその様子を見せつけられ、安堵より先に驚きがくる。
前回の王子とのお茶会から1ヶ月。僅か1ヶ月で、彼女は驚きの速度で王子との親密度を上げていた。
また招待されたお茶会だけれど、前回と同様二人は部屋の前の扉でお喋りしていて。変わったことといえば、リーズが王子の腕に絡みついていることか。
王子も嬉しそうにそれを受けている様子から、悪い気はしないのだろう。私としても水を差す気はないが、もうすぐ約束の時間なのでしょうがない。
「アデラール様、リーズ様、ごきげんよう」
「あ………、もう時間か」
王子の少し残念そうな顔を、リーズが見逃すはずもなく。組んでいる腕に力が入ったのか、アデラール王子の袖の皺が深くなる。
僅かに私の方を一瞥したリーズの目は、とても挑戦的で。
「…アデラール様、私もご一緒したいです」
「そう…か?そうだよな」
顔を僅かに綻ばせて笑う彼は、間違いなく彼女に恋をしているのだろう。こうなれば私はきっと邪魔者でしかない。けど王子。私は、自分から身を引くことなんてしませんよ。
「メリー、リーズも一緒でもいいよな?じゃあリーズ、中へ…」
部屋へリーズを促そうとした彼を、私は咄嗟に止めた。そもそもこの部屋は王族の私室であり、プライベートな空間。婚約者である私ならともかく、いち準男爵家の彼女に入る資格はないし、良からぬ噂を産む可能性すらある。結婚を前に醜聞ともなれば互いの評判のみならず、実家の評判すら落としかねないことで。
だから、許すことは出来なかった。
「アデラール様、こちらは王族のための私室です。親しいとはいえど彼女は王族とは無縁の準男爵家…、良からぬ噂を産むかもしれませんので、ご軽率な判断は…」
「…そうか…なら仕方ないな」
「でも…学園では身分は関係ないと、学園長も仰っていたではありませんか?」
「そうだが、この部屋は学園側から好意で与えられたものだから。俺が勝手な判断で使えるわけではないんだ、ごめんな」
「……残念です。なら、お話が済んだらまたお会いしましょう?私、教室で待ってますね!」
「すぐに行くよ。…メリー、入ろうか」
「失礼します」
パタン、と扉が閉まる。いつもと違い手伝いのメイドや執事は見当たらなくて、どうしたのだろうと後ろに立つアデラールへ向き直る。
「その、リーズとの約束があるから今日はもう…」
「ええ、大丈夫ですよ」
「あとメリーに聞きたい事が、あるんだけど……なんというか…」
言いにくそうにもじもじしているけれど、頬を赤らめているあたりリーズ関係なんだろうな。
そういえば彼女、普段は結構王子以外の公爵家の子息達と日替わりで一緒にいる気がするけど、もう王子一本にしたのだろうか。
…あれ、けどツヴァイとイレネオとは会ってるの見たことないな。まあ、まだシナリオが進んでいないだけ、なのかな?
「……メリーは、側室…とか、どう思う?」
はい来た。なにかと思えばそんな事かい。
「…王族には、付き物だと思いますが?」
至極一般的な答えを言えば、パアッと顔は明るくなった。
「そ…そうか!うん、それならいい!じ、じゃあ俺、リーズと約束あるから!」
「はい、またお会いしましょう」
急足で去る王子を見送りながら、そういえばリーズの前でも一人称が俺だったな、と思い出す。それほどまでに打ち解けられた、という事だろう。
…あ。校舎裏のツバメの巣でも見に行こうかな。雛鳥がいて鳴き声が可愛いんだよね。
てくてく歩けば、5月の温かな陽気に気分も上がってくる。
校舎裏には数本の背の高い木があり、数人が木陰で読書をしていた。お目当ての木へ近づいてみれば、男性が一人、木を見上げて立っていた。
「フェルナンド様も雛を見に?」
「……ユーメリー嬢。雛の声がしたので興味本位で。あなたも?」
揺れる黒髪は間違いなくフェルナンド・クンシランのものだった。ジルのような闇夜が溶けた色ではない、もう一段明るい黒髪がサラリと揺れる。
フェルナンドとはごくたまに話す機会があった。基本は王子と一緒にいるので会釈したり、舞踏会で鉢合わせればダンスに誘ってもらったり。だが決して親しくなろうと踏み込んではこないあたり、誠実さが伺える。あくまでも王子の婚約者として扱ってもらっているような感じだ。
「ツバメは今の時期が繁殖期ですから、元気な雛鳥の声でも聞きに来ようかなと。声だけでも可愛いですし」
「そうかな?落ちてきやしないかと少しヒヤヒヤする」
「ふふ、巣は丈夫なので大丈夫ですよ」
バタタ…と羽を靡かせて親鳥が帰ってくる。どの生き物も親というのは大変そうだ。そういえば野生動物も育児ノイローゼってあるんだろうか。
どうでもいいことを考えていると、フェルナンドから唐突に話しかけられた。
「…最近、アデラールがすまないな。嗜めてはいるんだが…」
「何のことでしょう?さっきもお茶会にお呼びいただいて、とても嬉しく思いました」
とぼけるのは少しわざとらしいかなと思ったけど、私の事であまり気を病ませるのも申し訳ないし。
リーズと仲良さげにしている状況に危機感を抱いているんだろう。私は私でなんとかするから気にしなくていいのです。
「……はぁ…すまない、助かるよ。本当…ユーメリー嬢を差し置いてあいつは何をやっているのか…」
どんよりと頭を抱え出したフェルナンドに、心中お察しします…とは言えずにとりあえず笑って誤魔化した。
未来の宰相殿の気苦労…計り知れないなぁ。王子は頭の良い方ではあるけれど、こと恋愛においては一般的に盲目になりやすいというし、思春期だし。誰かにこうしろ、と言われたら反抗したくなる時期だよね。
「…フェルナンド様、頭痛には食堂で売っている一番高い滋養強壮薬が効きますよ。あ、苦いのではちみつを混ぜるのがオススメです」
「………はぁぁぁ…何から何まで…助けてもらってばかりで…アデラールの奴…やはり一度殴った方が…」
不穏な言葉が出てき始めたけれど、聞かなかったことにしてまた雛鳥を見上げた。
穏やかな天気だ。こんな日が続けばいいなあ。




