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「青春………って、ご存知?」
「はい…?」
「…どうしたの、ヘザー」
そりゃあもちろん知っていますとも。友達とわいわいしたり恋愛でキャッキャしたりリア充したりってことでしょう?一番無縁な言葉である。
でも貴族にはそんなものあってないようなものだから、前世ぶりに聞いた気がする。
「あのね、貴族以外の学校に通う人たちは学生生活をそう呼ぶらしいの」
「では、私たちも青春生活をしている、ということですか?」
若干使い道を間違った言い方だけど、初めて聞いたらそりゃそうなるよね。
「うーん、ヘザー?領民の通う学校とここは別物だと思うわ」
「やっぱりそうよね…、私もそう思う。でもこう…、青春!って感じのことがしたいのよ!」
「例えば…、どんなことですか?」
ドロテーアの問いかけに、ヘザーは眉間にシワを寄せつつ声を出そうとするが、声にもならない声で聞き取れない。
「……あ、うーんと………どんなのなの…?」
「それを私に聞くの…?…ていうか、お休みの日に仲の良い友達とこうしてカフェに来るのは、青春じゃなくて?」
「そう…、かも?」
青春なんて言葉、一体誰にどんなものだと教えられたのだろう。
「や、雑誌にはもっとキラキラしてる感じの生活だったような…」
…、また親から禁止されてたはずの情報誌を読み耽っていたのか。
城下町の女の子向けだから親御さんが禁止するのも無理はないけど、一体どこで入手しているのやら…。
「でも…、貴族でない生活は想像出来ませんね。どんな楽しいことがあるんでしょう」
「あら?ドロテーアは興味あるの?」
「いえ!そんな、興味があるほどでは…、けど、なんていうかその…。領民の方々は自由な気がして…」
「確かに、そうかもねー。お家事情とかしがらみとか一切無いんでしょうし」
優雅にアールグレイティーを口に含むヘザーの所作は美しく、彼女もやはり生粋のお嬢様であると伺える。
「逆に言えば、全て自分で見つける必要もあるけれど」
「お仕事も、婚約者も、なんでも選び放題よね!憧れちゃうかも」
「そ、そうでしょうか…大変だと思います…」
うっとりと、おそらく大好きな恋愛小説を思い浮かべてるヘザーとは対照的にドロテーアは現実を見るタイプらしい。
「どっちがいい、というわけではないけれど。どっちもどっちよね…、良いとこどり出来ればいいのに」
「ふふ…、そうですね。それは出来ませんし」
「夢見るくらいはいいじゃない?」
青春するとかいう話はみんなすっかり忘れて、女子トークをしつつお菓子をつまんだ。
「えー?それでどうなったの?」
「結局捨てちゃったんですか?」
「そこはもう工夫するしかないと思って…」
「メリー、遅い」
3人でカフェを出ると、いつもの制服とは違う軽装を身に包んだツヴァイがそこにいた。
「ごめんごめん。じゃあ2人とも、ここで失礼するわ」
「ええ、またね」
「ごきげんよう」
お昼にはまだ少し早い時間に2人と別れ、待っていてくれた義弟と合流する。
便箋が残り少なくなってしまったからどうしても今日買い出しに行きたくて、少々予定が被り気味になってしまったが強行することにした。
「それじゃあ、行きましょうか」
「ああ。寄るのは雑貨屋だけか?」
「そう」
ツヴァイが入学してきてからは、こうやって街への買い物にも付き合ってくれるからすごく買い出しが楽になった。
騎士さんも、護衛にお願いすれば持ってはくれるけどやっぱりどこか申し訳ないし。
ツヴァイは嫌なことははっきり嫌って言うのに、街へ出る時は必ず付いてきてくれる。
出来た弟だよ、まったく。
「やあ、ユーメリー様にツヴァイ様」
「どうも」
「こんにちは!今日はいっぱいの便箋を買いに来たの」
「そうかいそうかい、種類ごとに1つずつ持ってきてくれたら在庫から持ってくるからな」
「ええ、いつもありがとう」
雑貨屋のおじさんとは、通ううちにすっかり仲良くなり今では私のために色んな種類の便箋を仕入れてくれるようになった。
棚には他の文具より遥かに種類の多い便箋が所狭しと並べられている。
ん、黒地に銀の装飾入り便箋…、ジルトレっぽい雰囲気ね。とりあえずこれと、淡い色の花柄が紙いっぱいにあるのはメイド長へ、あとはー…。
ひょいひょいと1セットずつ手に取り、重ねていく。手紙の受取人をそれぞれ思い出し、思いを馳せながら考える時間はとても楽しい。
「メリー、持つから寄越せ」
「ありがとう、ツヴァイ」
手伝ってもらいながらその後も便箋の棚だけではなく、お店の中全体を回って必要な物を取り揃えた。
「インクもあるし、押し花用の厚紙もある、ノートもある、……うん、他も全部あるわね。おじさん、これお願い」
「今日も随分買うねえ」
「一気に買わないと数日に一度は買いに来なきゃいけなくなるもの」
「俺としてはユーメリー様が来てくれるんなら、その方がいいけどなあ」
人の良い笑みを浮かべて、頭をカリカリ掻きながら軽やかに言い放った。
「学園から出るのってちょっと面倒だから難しいの。毎度ちょっと手間かもしれないけど、お願いね」
「いやいや、このくらい平気さ。その代わりまた来てくれよ」
「ええ、もちろんよ。私の欲しいものが全部あるなんてこんなに親切な雑貨屋さん、他に無いもの」
「それは雑貨屋冥利に尽きるねえ。で、今回は便箋何セットずつ欲しいんだ?」
「そうね…、15セットずつ頂ける?」
「毎度あり!今裏から持ってくるからちょっと待っててくれ」
「あっ、急がなくていいからね!」
右足を庇いながら裏へ歩いていく店主の背中にそう投げかけた。
昔、膝を怪我してからというものよく痛むらしい。
「ツヴァイは便箋、買わないの?お手紙来てるでしょう」
「俺はまたメリーの持ってる、余ったやつ貰うからいいよ」
「……まあ、新しく買ったのを使いたいし助かるからいいんだけど」
一先ず、これで明日は手紙の返信を心置きなく書いていけるね。ちょっと溜まっちゃったから朝一から取り掛かろう…。
「この後は?」
「うん?」
「この後。どっか寄る?」
「んー、私の用は終わったから。ツヴァイは行きたいとことかは?」
「特には無いな」
「お昼でも買いに行きましょうか?もしくは何かお菓子とか…」
「はいよ、お待たせ!便箋は紙袋に全部入れたから」
他の文具も手際よく詰めると、そのままツヴァイへ渡してくれた。
「ああ、ありがとう」
「領収書も入れといたよ」
「いつもありがとう。じゃあ、またね」
「うん。また来てくれ」
ギィ、と雑貨屋のドアを開ければ、入店時よりも強くなった日差しが目に飛び込む。
「重くない?大丈夫?そっちの袋、持ちましょうか」
「…あのなあ、毎度言ってるけど持たせるわけないだろ。淑女の自覚持てって」
「えー、いいじゃない。家族だし」
出会った頃より身長も筋肉も付いてしっかりしてるけど、やっぱり出会い当初のガリガリの印象がどうしても抜けないんだよねえ…。
「…はぁ、ったく…。なあ、昼はメリーの飯食いたい」
「え、私の?お礼にお昼奢るつもりだったけど」
「いいよ、このまま帰ろう。メリー用に買った焼き菓子もあるし」
「あ、いいわね。じゃあ何か作るから一緒に食べましょう」
少し速い足取りでツヴァイの横に並べば、そっと目を配り歩幅を私に合わせてくれた。
…口はちょっと悪いけど、こういうとこ意外と紳士的でギャップ萌えしてしまいそう。




